第55話 雷樹2

「雷樹と言う言葉は、聞いたことがありますか?」


「……聞いたことはありません。どういう意味ですか?」


 ここで、土御門さんが小さなため息を吐いた。


「女王蟻の討伐の話を聞きました。雷が落ちたそうですね?」


 雷鎚トールハンマーのことだよな?

 ここで考える。雷鎚トールハンマーを撃った直後は、視覚と聴覚が麻痺する。

 だけど、電流を操作しただけであれだけの威力は出ないかもしれない。

 そうか……、技の発動と共に雷が落ちるのであれば、あの威力も納得が行くかもしれない。

 だけど、俺はそんなイメージなど持っていなかったんだけど……。


雷鎚トールハンマーのことでしょうか? 客観的には見れないので分からないのですが……」


 ここでライサさんが口を開いた。


「ショートがスキルを使った時には、空の雲から雷が落ちていたね……」


「そうなんですか……」


 土御門さんの表情が曇る。


「自分のスキルですら、良く分らず使っているのですね。呆れます。

 良いですか? あなたのスキルは、まず魔力で周囲から電子を奪うものと考えてください」


 ふむ? 科学的に教えてくれるのかな?

 興味あるな。


「電子を奪う……、ですか。生み出しているものだと思っていました」


「……続けます。普通の雷は、雨雲に溜まった電気が放電されて、地面に落ちます。ですが翔斗さんの場合は、逆に地面に電子が溜まりすぎて、上空の雲に放電されます。落雷の反対だと考えてください」


 そう言われると、思う節もある。

 いくら電流の流れを操作したとは言え、雷鎚トールハンマーの威力は破格すぎる。


「打撃と雷魔法だけではない? 自然現象を発生させて……、落雷を起こさせている?

 しかも、大地に溜まった電気をも操作して? 反対ということは、天に昇って行く雷?」


 土御門さんが頷いた。


「天空へ伸びて行く落雷……。それが、雷鎚トールハンマーだと推測されます。

 いいですか? この地は温暖湿潤なので常に雲が発生していますが、雲一つない晴天だと不発になりますよ?」


 なるほど、検証したいな。

 だけど、『天空へ伸びて行く落雷』……か。

 そうなると。


「雷樹とは、天空へ伸びて行く落雷という『自然現象』ですか?」


「そうです。かなり特殊な条件となりますが、自然現象として認知されています。

 冬の時期に低い雲が存在すると、発生するそうです」


 俺の雷魔法は、その条件を満たすと言うことか。そうか……、落雷まで発生させていたんだな。

 しかも、俺はその電気の流れを操作出来る。


「面白い仮説ですね。今度検証してみます」


 今度は、ライサさんとクラウディア様がため息を吐いた。


「ショート。一人で検証出来ると思っているのかい?」


 ……あ~。そういえば、全魔力を持って行かれるのだった。雷鎚トールハンマーを使った直後は、俺は本当に無能となる。考えてみればそうだ。単独ソロでは使い道がない。


「なるほど。確かに使えませんね」


「これで、やっと話が始められます」


 ここで、土御門さんを見る。つまり、雷樹の話は前置きなのか?


「話とは?」


「……国宝となる魔剣の回収は、翔斗さん一人では無理だと言うことを理解して欲しかったのです。今の翔斗さんは、自分で最も得意となるスキルを封印している状態なのですよ?」


 この後に続く会話が想像出来る。

 渋い顔をして視線を逸らすと、三人が睨んで来た。

 間を置いて、土御門さんが、最も言われたくない言葉を発した。


「私も同行します!」


 そうなるよね……。





 その後、言い合いとなったけど、疲れたので解散して貰った。いや、開放して貰っただな……。

 歩きながら考える。

 パーティーを組むメリットは大きい。だけど、デメリットも存在するだろう。

 特に俺は性格が良くない。良く他人を怒らせる。

 そして、土御門さんはクールそうな性格に思えたけど、何を考えているのかが分からなかった。

 それと、今日も〈スキル:警報〉が鳴りっぱなしだ。

 俺の第六感は、避けた方が良いと言っている。


「ふぅ~」


 ため息が出た。


「……二人旅はきついよな。パーティーを組むのであれば、四~五人程度がいいんだけど。提案してみるか? この場合は、ライサさんも加わって貰っても良い」


 クラウディア様は有能な人材を割いてくれるんだろうか? いや、クレスの街に頼れそうな人はいなかった。新しい女王蟻の時の感想だ。

 遺跡付近の魔物に対応出来そうな人はいなかったんだ。

 そうなるとライサさんが来るとか言い出しそうな可能性……。

 頭をガリガリと掻く。


「……防衛ではなくて、遠征となると難しいんだな。とりあえず、レベル上げを頑張るか」


 ため息を吐いて、宿り木亭のドアを開けた。

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