第54話 雷樹1
数日後、クラウディア様から連絡が来た。
明日会ってくれるんだそうだ。
これで、新しい物資が受け取れる。それと、新しい技能石を貰うのも良いだろう。
今の俺には技能石の知識がほとんどない。こうなると、一覧でも作って貰い、必要な物をチョイスするのが早いと思う。
技能石は、この世界で生きるために重要なファクターだと思う。
頭の弱い俺だけど、それくらいは分かる。実戦も積んでるし。
話は変わるけど、この数日の間、俺は宿屋の一階で依頼を受けていた。
事の起こりは、足を負傷した店員を見かけた時だった。
足を引きずるようにして歩いている女性を見て、思ってしまったのだ。
『ポーションで骨折を治せる傷があっても、骨が正常じゃない位置で回復させてしまっては意味がないよな』
その後、ウラさんと話して、治療を行った。骨を一瞬砕き、正常な位置に矯正して再生させる。
やはり、俺の回復魔法は痛いみたいだ。
絶叫が響き渡り、女性は悶絶した。
普通はこうなるよな……。
だけど、すぐに普通に歩けるようにもなったので、最終的に感謝さることになる。
そして、お代を受け取らなかったのがいけなかった。
次の日から、怪我人が大挙して押し寄せて来たのだ。
とりあえず、毎日魔力切れ寸前まで回復魔法を施して行く。魔石は、各人に用意して貰う。
それと、宿り木亭に迷惑がかかってしまったので、俺の回復魔法を受けた人は、少なくとも一回は宿り木亭で食事をするように提案してみた。
そうなると、朝から晩まで一階の席は満席だ。元の宿泊客には、迷惑かもしれない。
店主のウラさんは、苦笑いだ。
◇
「とりあえず、故障箇所のある人は全員診たと思います。でも、治せない人も大勢いましたね」
ウラさんが、お茶を持って来てくれた。ありがたく飲む。
温いな。一気に飲み干した。
「あはは。ショートのお人好しもここまで来ると特技だね。
この世界には、ポーションという便利な物があるのだが、それに慣れ過ぎてしまうとああいう人達も出て来るんだよ」
この言葉から、いくつか推測出来ることがある。
「ウラさんも、転移者ですか?」
「うん? わたしゃ、転生者だ。生まれた時から前世の記憶を持っていただけだけどね。前世の知識は、宿屋の店舗経営くらいにしか使えなかった。主に、食事の味付けだ。屋台から始めたんだけど、店を持てるまでにもなった。ただし、魔物との戦闘は、スキルがなくて諦めたね。危な過ぎて、街中で生きて行く事を選んだんだよ」
「神様……、ヒストリア様とは会っていますか?」
「どういう意味だい? 神様と会える?」
推測を続ける。とりあえず、スマホは見せない。
それと、神様と会ったあの白い空間も知らないと見える。
「神託を受け取ったことは、ありませんか?」
「神託? ああ、女神像を破壊しようとする人達の共通の言葉だね。わたしゃ、意味を知らないよ」
かなり疑問が残る。それと、俺は以前『期待されている』とも言われた。
ウラさんは期待されていない?
それと、神託を知らないのであれば、これ以上情報は引き出せないと思う。
疑問ばかりが増えて行くけど、今度他の人の話を聞いてみるのも良いだろう。
「それでは俺は寝ます。明日は、クラウディア様に会って、場合によってはそのまま森に入ることになりそうです。
その場合は、また不在となります。
交渉が上手くいかなかった場合は戻って来ます。
まあ、何も決まっていないということだけ、覚えておいてください」
「……分かったよ。生きて帰って来るんだよ」
本当に俺を心配してくれている。
こういう人と出会えたことが、幸せなんだろうな。
いや、ウラさんは、多数の従業員を抱えている。世話を焼くのが好きな人なんだろう。
◇
朝日と共に起き出して、朝食を頂き宿屋を後にする。
その足でクラウディア様の屋敷へ向かった。
歩きながら考える。
「……土御門華怜さんだったよな。俺の〈スキル:警報〉が鳴り響いた人。
警報の意味は分からない。だけど、警戒するに越したことはない。
それと、クラウディア様から紹介された場合は、警報が止まるんだろうか?」
失敗した指名依頼の説明と、警戒しなければならない人との面会……。
少し重い足取りで、屋敷へ向かった。
屋敷に着くと、すぐにクラウディア様とライサさんと面会となる。
それと、土御門華怜さんも同席だ。
クラウディア様から、彼女の紹介を受けた。
「カレンさんは、王都で名を馳せたギルドメンバーでした。縁あって、私の傘下に移籍して貰っています。
数少ない上級職の協力者となります。
先日、顔合わせは済んでいるのですよね?」
土御門さんが、一礼した。この世界では、女性はスカートを少し持ち上げるのが挨拶の形式なのだけど、土御門さんは頭を下げるだけだ。男性風の挨拶の形式とも取れる。
「お忙しいと思われるので、手短に行きましょう。
森に入ったのですが、全行程の1/4程度で引き返して来ました。森の中間地点に塹壕の跡があるのですが、森を進行した場合は、そこまでも辿り着けませんでした。
それで、相談があります。有用な技能石を分けて貰えないでしょうか?」
ライサさんが、ため息を吐いた。
「ショート。焦り過ぎじゃないかい? こちらは年単位を想定して、依頼を出しているのだよ?
それと、中級職になってレベルも上がり辛くなっているだろう?」
……短慮だったか。結果がすぐにでも欲しいのが本音だ。結果が出た日は、家族への送金が多くなる。
そうか、俺は焦っているのか。
深呼吸をする。
「ふぅ~。そうですね。いきなり踏破は無理ですよね。中級職に上がって行けるかなとも思ったのですが、気持ちばかりが先行してしまいました」
ここで、土御門さんが口を開いた。
「翔斗さん。まず、一人で行くこと自体が無謀じゃないでしょうか? 聞いた話ですが、歪なステータスであり、聞いた事もない職業が発現したとか……」
……言い返せない。俺も魔法特化型の近接戦闘タイプは聞いたことがない。
生き残るために、手に入った技能石を無理やり活用して、今のステータスだ。
それよりも、『一人』と言う言葉が気になった。
「ステータスは、これから修正すれば、
そうですね。ゆっくりとレベル上げしながら、ステータスを補正して行きたいと思います」
「それでは、
「……威力は、今でも十分ですし、オーバーキル状態といえます。それよりも移動系のスキルが欲しいですね。〈飛翔〉とかないですか?」
目の前の三人がため息を吐いた。
何かおかしなことを言ったんだろうか?
土御門さんが、口を開いた。
「……
レアスキル? そうなのか?
いや、
「随分と詳しいのですね」
土御門さんが、鋭い目付きで俺を見て来た。
「……
会話になってない気がする……。
なぜ、俺のスキルを知っているのか聞きたかったのだけど……。
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