第53話 新しい出会い
二日かけて森から抜けられた。
後は、少し歩けばクレスの街だ。
とりあえず、〈スキル:隠密〉を発動させ続けながら移動することにした。
まあ、このあたりの魔物は、本当に雑魚だ。囲まれでもしない限りは問題はない。
こうして、クレスに向かって歩を進めた。
「おう? ショート殿ではないか。森に入っていたのではないか?」
城壁の前で、顔見知りの衛兵に声をかけられた。
一応、ギルドカードを渡す。ライサさんだと無条件なんだけどね。
「行けるところまで進んだのですけど……、無理がありそうだったので戻って来ました」
「うむ、賢明だな。森に入るのであれば、危機を察知する能力が最も生存率を高める。言わずと知れたことだがな」
それもそうだな。
この世界に来る前は、安全な世界で生活していた俺なんだ。
この異世界の常識には、まだ疎いところもある。
それと、〈スキル:警報〉を取っておいて良かったとも思えた。
その後、衛兵にこっそりと魔石を渡す。
そのうち協力して貰うこともあるだろう。
「それでは、ディーンさん。また森に行く時に相談に乗ってください」
「うむ、ショート殿。何でも聞いてくれ!」
賄賂はいけないのかもしれないけど、今は味方が欲しい。そして、ここは日本じゃない。チップと考えよう。
まあ、俺は役人じゃないんだ。贈答品とでも思って貰おう。
「さて、まずはクラウディア様への報告からだな……。と言っても、"無理でした"とも言えないし。
何て報告しようかな……」
悪い頭を働かせて、言いわけを考えながら、門を潜り、歩き始めた。
◇
領主代理のクラウディア様の屋敷に着いた。
門兵に挨拶すると、通してくれる。もうこの屋敷では、俺は顔パスになっているんだな。繋がりのある商業ギルドも同じかもしれない。
屋敷に入ると、メイドさんに連れられて、小部屋に案内された。応接室だと思う。
いきなり来たので、少し待つことになるりそうだ。
まあ、アポイントもなしに来たのだ。こればかりは、しょうがない。
何を報告しようか考えている時だった。
──コンコン
ドアのノックが鳴った。ここで、俺の〈スキル:警報〉が反応した。
危険人物? 俺に害意がある? 少し身構える。
「どうぞ……」
ドアが開かれると、見知らぬ女性が入って来た。
誰だ? そして、その容姿に驚く。
その人が、俺の前に座った。
……視線が外せなかった。黒目、黒髪……、クレスの街で始めてアジア系の人と出会った。
いや、もしかすると俺と同じ日本人なのかもしれない。日本刀と思われる武器を佩いているし。
「……随分と遠慮のない視線ですね?」
「え……あ、すいません。驚いてしまって。
え~と、その容姿は、この世界で珍しいと思うのですけど、あなたも転移転生者ですか?」
「……あなたと同じ日本人ですよ」
暗に俺のことを知っていると言っている。だけど、"日本人"だとは言ったことがない。"異世界人"とは知られていたけど……。俺の警戒心が警鐘を鳴らしている。
「失礼しました。
「
偽名かどうかは分からないけど、今は良いだろう。土御門さんね……。
「え~と、それでなのですが、クラウディア様に経過報告に来ました。
俺は、個人的に依頼を受けています。指名依頼と言った方が伝わりますか?」
「クラウディア様とライサさんは、政務で手一杯ですね。今日の面会は無理だと思われます」
そうなのか……。日が悪かったかな?
「それでは、後日にさせて頂きます。俺が来たことをお伝えください」
「待ってください!」
突然の制止。なんだろう?
「今日は会えないんですよね?」
「……私が報告を聞くのでは、ダメでしょうか?」
さて、困ったぞ。
俺はこの人のことを知らない。不用心な行動は、慎まなければならないと思う。
信用に値するかどうかを先に確認しなければならない。
「……俺は、土御門さんのことを知りません。
後日、クラウディア様からご紹介頂けたら、報告を聞いて貰うのも良いでしょう。窓口というか担当官あたりかな?
ですが、今日の段階では、報告は行えません」
「……慎重な方なのですね。分かりました。後日お願いします」
握手して別れた。握手は、この世界の基本なのかもしれない。
その後、屋敷から出るために門を潜った。ここで大きく息を吐き出す。
「ふぅ~~。はぁ、はぁ……」
今の俺は、大量の汗をかいている。〈スキル:警報〉が鳴りっぱなしだったからだ。
何を警戒すれば良いのか分からないのが、このスキルの欠点だけど、見当はついている。
「……多分、ライサさんよりレベルが高いんだろうな。戦闘になったら負けるんだろう。
屋敷で戦う意味はない筈だけど、何かを狙っていた……。俺の何を狙っていたんだろうか?」
俺は、大きく深呼吸して、宿屋の宿り木亭に向かった。
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