第51話 第一章エピローグ

 二匹の女王蟻の討伐から、数日が過ぎた。

 街は、平穏を取り戻している。

 俺はと言うと、宿屋で休んでいた。流石に消耗し過ぎていたので動けなかったからだ。食べれるだけ食べて、寝ていた。


 少しダラダラしていたのだけど、領主代理のクラウディア様から、呼び出しがかかる。ギルドではないんだな。

 三人で屋敷に向かうと、表章と褒賞を与えるという話の流れとなった。まあ、統治者の呼び出しなど他にないか。

 だけど、いきなり式典みたいな会場に案内されるとは思わなかった。街を上げての盛大なお祭りに変わって行く。

 シリルさんとヒナタさんは、事前に欲しいものを話し合っていたようだ。他の街に移り、勉強をしたいと言い出した。

 シリルさんは経営学を、ヒナタさんは、錬金術を学ぶとのこと。

 褒賞が、学び舎の提供か……。二人とは、ここでお別れだな。


 俺はと言うと、『鑑定阻害』の方法を教えて欲しいと進言してみた。

 別に見られても問題はないかもしれないけど、盗み見されるのは気分が悪い。それに強奪スキルのことも忘れていない。

 殺されて、技能石に変えられるのは避けたい。

 俺に対人戦闘が出来るとも思えないし。


 俺の話を聞いたクラウディア様の指示で、一つの技能石が俺に差し出された。まあ、ここで俺に不都合となることはしないと思う。俺は中身は分からなかったけど、技能石を割った。


『ステータスに〈スキル:鑑定阻害〉を付与します』


 これで、ギルドカードを見られない限り大丈夫なはずだ。何処にも所属していないのに職業があるのは、現在のシリルさん・ヒナタさんと同じだ。何処かのギルドから抜けたと言えば通じると思う。


「ありがとうございます」


「それだけで良いのですか? それは、作り出せるスキルなので価値がそれほど高くありませんよ?」


 知っていますよ。白金貨一枚ですよね?

 庶民には高いのですよ。まあ、俺は買えなくもないけど。


「……何か思いついたら、後からお願いするかもしれません」


 かなり無礼な態度となってしまったらしい。側近が騒ぎ立てる。それでも、クラウディア様が了承してくれた。

 その後に、二十人くらいが一斉に名前を呼ばれた。どうやら、俺達のパーティーが、最上級の戦功だったらしい。まあ、それはそうか。

 これで、蟻の巣の論功行賞及び褒賞は終わった。礼儀作法とか分からなかったけど、どの道怒らせていたし、そのうち覚えようと思う。

 ちなみに、ライサさんの褒賞は、この場ではなかった。





「俺への、指名依頼ですか?」


 別室に通されたと思ったら、意外な話が出て来た。

 事の起こりは、俺がこの街で始めに換金した、あの『チェーンの付いた金属のプレート』と『四本の剣』みたいだ。

 昔、この地で戦争があったのだそうだ。

 その時に、国宝となる魔剣が行方不明となった。

 結論から言うと、金属のプレートには、当時の王の側近の『銀の識別票』が含まれており、四本の剣も当時の貴族が装備していた魔剣だったのだそうだ。

 銀の認識票とは、遺体の個人識別を証明する物らしい。


「国宝の魔剣の回収をお願いいたします。もし達成出来れば、貴族位が送られるでしょう。いえ、もしかすると、王族貴族の婿になれるかもしれません」


 ため息が出た。欲しくない報酬を提示されてもな……。

 スマホを見るけど、着信はなかった。神託はないのか……。受けても受けなくても良いということだと思う。


 今は特に目的もない。受ける理由もないけど、断る理由もない。

 いや、この街で俺の名声はそれなりにある。宿屋も無料だし、移動する必要も今のところない。観光で都会に行くのもいいだろうけど、報酬の良い依頼を受け続けられる確証もない。

 ……受けるか。


「長期間かかりそうですね。薬品と食料の提供をお願いします。とりあえず、遺跡とこの街……、辺境都市クレスの往復から始めてみますね」


 俺がそう言うと、クラウディア様の表情が明るくなった。

 その後、ライサさんの勧めで、感知系のスキルを取ることにした。魔力感知や、生命感知、千里眼、順風耳、熱感知なんてのもあった。少し迷ったけど、『警報』と言う技能石を貰うことにした。

 第六感を強化してくれるのだそうだ。感覚派の俺に合っていると思えたので選ばせて貰った。

 効果は、パッシブスキルなのだそうなので、そのうち分かると思う。

 それと今は、マジックバッグがあるので、闇魔法は取らないことにした。俺は、雷魔法のみで行こうと思う。

 最後に確認だ。


「この依頼は、俺一人で行きます。ライサさんとは組みません」


 その後、少し口論となったけど、これは俺への指名依頼なんだ。ライサさんがどんなに抗議して来ても、俺が単独ソロで行動すると決めた場合は、誰も覆せない。それは、クラウディア様とて同じだ。

 その後、定期的にクレスの街に帰って来ることだけを約束させられた。

 物資は、その時に再度受け取れば良い。


 こうして、新しい依頼を受けて領主の屋敷を後にする。

 門を出た時だった。

 ライサさんが、俺の頭を抱えて、また胸に顔を埋めて来た。今日は鎧を着ていない。ライサさんは、胸が強調されるように開かれたドレスを着ている。素肌の胸に顔が埋まる。

 暖かい……、そして柔らかい感触。今は甘えても良いのかもしれない。

 だけど、止まることは許されない。俺自身が許せない。


「……待っているよ」


 それだけ言って、ライサさんは俺を放してくれた。

 シリルさんとヒナタさんとも、ここで分かれる。


「数日ですが、楽しかったです。ありがとうございました」


「もう行かれるのですか? その……、私達の出発までは、まだ数日あるので……」


「物資も貰ったし、これから森に入ります。この数日、何の貢献もしていないので、送金0円なのですよ。心配かけていそうで……」


「何を言っているのか分からないニャ……」


「……神様から、止まることだけは、許されていないみたいです」


 その後、俺から二人を抱きしめた。今日だけは良いだろう。

 俺は別れの挨拶をしてから、その足で森に入った。目指すのは、南にある遺跡だ。俺が異世界転移した場所。


「とりあえず、往復出来るスキルビルドの確立からかな……。俺の放浪の旅の始まりの地点。また行くことになるとはな……」


 独り呟き、歩を進めた。





 これは、後に闘神とよばれる青年の物語。

 その始まりの話。

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