第49話 中級職

 なんとか生きて街に帰って来れた。4人で出発して、全員帰還だ。まあ、上出来かな。


 ──ピロン


 ここでスマホが鳴った。

 メールを開く。


『教会に来てください。神様より』


 かなり消耗しているんだけど……。今座ったら、動けなくなりそうだ。


「すいません。俺は教会に行ってから宿屋に直行します」


「そうかい? なら私は冒険者ギルドに行こうか」


「……それでは、アタシは商業ギルドに報告に行きます」


「うニャ? ならワタシは、労働者ギルドニャね」


 討伐証明は、ヒナタさんが持っている。魔石はライサさんが持っているし、報告は任せて大丈夫だろう。また、各ギルドにも報告は必要だ。

 クラウディア様への報告は、ライサさんに任せれば大丈夫だと思う。

 そして、俺がなぜ教会に行くかは、聞いて来なかった。察してくれたのかな?


「打ち上げは、明日でも良いですか? 流石に消耗が激しいし」


「あはは。皆同じだよ」


 こうして別れることになった。





 教会に着いて、シスターさんに女王蟻の報告を行った。それと、金貨を一枚お布施にする。

 教会内は、俺だけになった。

 敬礼のために、片膝をつく。


 眼を開けると、一面白い世界だ。前回と同じだ。

 まあ、呼び出しておいて、面会なしもないか。


「おつかれさまでした。女王蟻の討伐は、凄い功績ですよ?」


 突然、ヒストリア様が目の前に現れる。驚きもしなくなったけど、もうちょっと、演出とかして欲しいな。神様としての威厳を見せて欲しい。

 まあ、いいか。俺の考える事じゃない。話を始めよう。


「……母親と妹の状況を教えてください」


「あなたは、開口一番それですか? まあ良いですけど。

 お母様は、自宅療養中で、少しずつですが炊事洗濯を行っています。妹さんは、真面目ですね。アルバイトを続けながら、学校に通っています。成績も優秀ですよ」


 この言葉を鵜呑みには出来ないけど、ホッとしてしまった。

 後で、グループチャットアプリを開いて、確認しよう。それよりも今しなければならないこと……。


「異世界生活の終わり……、というわけではないのですよね?」


「う~ん。元の世界に帰すには、今の功績だけでは不十分ですね」


「……魔王でも倒して来ますか?」


「それよりも、中級職へ上がってください。レベルも999でカウンターストップしていますよ」


「……場所に縛られたくないんです。この世界のシステムには組み込まれずに生きて行こうと思います」


 神様がため息を吐いた。


「はぁ~。あなたと言う人は……。神からの恩恵を受け取らない人は、始めてですよ。スキルポイントも溜め込んでいたし。それでも生き抜くのですから、不思議なんですけどね」


「恩恵ですか? この世界の人達が独占しているみたいですが、個別には貰えないでしょうか?」


「……まあ、良いでしょう。貢献度もそこそこですし、あなたにだけは特別に職業を授けます。でも、ギルドカードと鑑定スキルには注意してくださいね。目立ちますので」


「ありがとうございます……、なのかな? 俺だけ特別待遇ということですよね?」


「まあ、そうなりますね。それと、死んで欲しくないといのが、神の意向になると考えてください」


 生きろと言うことか……。命令されるまでもない。簡単に死んでやるつもりはない。

 足掻くだけ足掻いてやろう。そして、元の世界に帰ってやる。


「それでは、中級職について説明をします。普通は無職の状態での活動内容と、ステータスの割り振り、スキルと魔法を考慮して、数種類の候補が上がるのですが、あなただけは一種類とします」


 職業を選べないのか……。商業ギルドに登録した時に、安全に街中で生きて行こうと思ったのだけど、それも叶わなかった。


「あなたの職業は、『魔導闘士』とします」


「……」


 これからも、魔物の討伐を行えと言うことか。鍛冶師とかを期待したのだけど、まあ選ばれるはずもない。

 だけど、特に不満もない。この世界に来てからの俺の行動からすれば、似合っている言葉のような気もする。


「転移場所が街中だったら、鍛冶師にでもなっていたのでしょうね。もしくは、建築関係の仕事を選んだのかもしれません。鈍器を扱う仕事が俺には似合ってそうですけど、これからも討伐メインで行けということでしょうか?」


「この世界での生き方を縛る気はないですよ? 上級職と最上級職もありますしね。

 でも正直、期待以上の働きをして貰っています。これからも期待していますので、もう少し頑張ってみてください」


「家族に貢献出来るのであれば、不満はありませんよ」


「……そうですか。それでは、これで終わりとします。それと、教会に戻ったら、スマホを確認してみてくださいね」


 言われるまでもないのだけど……。何かあるのかな?

 そこで、意識を失った。





 再度、目が覚めた。周囲を見渡すと教会だった。戻って来たみたいだ。

 ギルドカードを見ると、『職業:魔導闘士』が付与されていた。

 ステータスを確認する。


「レベルが1になっている。これからは、レベルが上がる毎に、ステータスポイントが5貰えるんだよな……」


 そして、スマホを取り出す。

 その画面に驚いた。


「……電話機能が使えるのか!?」


 妹の愛美の電話番号が、画面に表れていた。電波も繋がっているみたいだ。

 これが、神様からの褒美ということか? 異世界間で話せる?

 頭が混乱している。だけど、躊躇う必要はない。


 俺は、震える手で『発信』のボタンを押した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る