第47話 女王蟻2
ヒナタさんがポーションを飲ませてくれた。色的に上級ポーションだと思う。
手足の痛みが引いて行く。瞬時に骨折が治せるのであれば、これほど便利な物もないだろう。
それと、マナポーションも貰う。MPは俺の生命線だ。魔石も大きい物を補充するために、服に取り付けた。
一息ついたので、三人に話しかける。
「とりあえず、右側の脚を二本奪ったのは大きいですね。格段に動きが遅くなりました」
「確かにそうだが、無茶し過ぎではないかい?」
「ライサさんに言われたくはないですね。それと、負傷するのであれば、俺の方がまだ回復しやすいと思います。
ここからは、消耗戦になるかもしれませんからね。ライサさんは、最後の一撃を考えてください」
俺は、女王蟻を見た。女王蟻もこちらを伺っている。
女王蟻は無駄な威嚇などはして来なくなった。こちらを脅威と認識したみたいだ。
「……この後、どうするつもりだい?」
「正直、手がないですね。昨日ステータスポイントを割り振ったのですが、STRに特化すればまた違ったのかな?
いや、カウンターを狙うのであれば、攻撃力特化のステータスでは潰されていたか……。
俺からの攻撃手段は、女王蟻の攻撃力を利用するカウンターしかないのですけど、もう不用意に攻撃して来ないだろうし……。
どうしましょう?」
「ショートは、余裕があるんだね。そこで、笑えれば惚れてやっても良いんだけどね」
ライサさんが笑った。
「余裕はないですよ? でも、ずっと危険な生活を送って来たので、感覚が麻痺しているのかもしれませんね」
考える。思考を止めない。
やはり物理攻撃ではダメだと思う。甲殻が厚く硬すぎる。
そうなると魔法だけど、俺の雷魔法も甲殻に阻まれて、大出力にしないと内部まで届かない。
……結界術で、外側から焼くか? いや、あれだけの魔法防御力を持っているんだ。HPは削り切れないと思う。
残るスキルは空間障壁だけど、基本的に盾として使っている。攻撃への応用はまだ思いついていない。
「圧倒的に火力が不足していますね……。決め手がないや」
俺の独り言に、三人が反応した。三人の視線が刺さる。
「……なにか?」
「ショートさん……、単純に聞きます。全魔力を一撃に乗せたらどうなりますか?」
……全力の雷魔法ということか? 俺の持つMPを一撃に乗せる?
「自爆……ですかね。少なくとも両腕骨折でしょう。ステータスが歪ですから」
「身体強化スキルを両手に集中させても?」
考える。ヒナタさんの言おうとしていること。
全力の魔法を撃つイメージ……。そして、女王蟻を倒すまでの手順……。
「あの甲殻にまともに打ち込めば、打ち負けるでしょう。全ステータス値が低すぎるでしょうからね。
ですが、仮に女王蟻の脳や延髄、脊髄まで『金属』が刺さっていた場合は、神経を焼き切れる可能異性があります」
三人に笑顔が見られる。
「それで行こう」
ライサさんがそう言うと、マジックバッグより新しい剣を取り出した。
「
使い捨て用ではないのだけど、ここで使おうと思う」
「それで、女王蟻の甲殻を貫けるのですか?」
「一撃であれば、剣の先端を体の中枢まで届かせることは出来ると思う。それに特化した武器だからね」
全員が頷いた。
「最後に確認です。次の作戦が失敗したら撤退します。これだけは譲れません」
「……まあ、そうなるね。確かにもう少し、ショートのレベルを上げてからの方が良かったかもしれない。今更だけどね」
これで少なくとも、シリルさんとヒナタさんは逃がせると思う。
そう、後は俺次第だ。
◇
シリルさんが、マジックアイテムを使い出した。先ほどから、注意を引く程度には使っていたけど、今は両手で次々に投げている。
爆発音だけのアイテムの中に、炸裂弾などを混ぜている。女王蟻にはダメージは入らないだろうけど、土煙が上がる。辺り一帯の視界が遮られた。
「出し惜しみはなしニャ。全財産持ってけ~ニャ!」
タイミングを見計らって、ヒナタさんの影魔法が発動される。影が縦に伸びて行き、ライサさんを空中に持ち上げた。
ライサさんが、影を足場にして跳躍する。最高到達点からの自由落下。体重を乗せた剣の一撃が、女王蟻に襲いかかる。
今は、土煙で女王蟻の姿は見えない。だけど、ライサさんは捕捉していると思う。
そう思えるほどの迷いのない一撃。
だけど次の瞬間、作戦が失敗だったことが分かってしまった。
女王蟻が、立ち上がったのだ。
女王蟻も索敵能力を持っていたみたいだ。
「まずい!」
女王蟻の大あごが、ライサさんに襲いかかった。
このままでは、大あごでライサさんが引き裂かれてしまう……。
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