第46話 女王蟻1

 ──ガン


「……硬い甲殻だな、それと分厚い」


 女王蟻の脚を吹き飛ばそうとしたのだけど、裏当てが上手く発動しなかった。

 衝撃は分厚い外骨格に阻まれて、浸透しなかったからだ。雷魔法は少しは効いている。焼け石に水程度だが。

 こうなると、俺は邪魔でしかない。

 考えるために一度距離を取ることにした。


 ライサさんを見ると、関節部分に何度も斬撃を与えている。同じ個所を切りつけているみたいだ。

 数えきれないほどの斬撃……、何十回とも取れる切り傷を同じ個所に与えているのみたいだけど、関節を切断出来ていない。

 ここで、女王蟻が毒液を吐いた。


「蟻は、噛みついて毒を注入するんじゃないのか?」


 空中に撒かれた毒液を見ての俺の感想だった。しかし、なぜ蟻が、毒液を吐き出せるんだ? ラージアントの時も疑問に思った。


「注意しろ! 回復不可能の毒液だ!!」


 毒液を躱したライサさんが、説明してくれる。


 そうか、あの毒液を食らったのか。

 ヒナタさんは、風魔法と闇魔法の同時行使で、ライサさんをサポートしている。

 シリルさんは、吹き矢で蟻の口を狙っている。体には刺さらないので直接体内に入れようと考えているみたいだ。それと、弩を使い始めた。また、各種攻撃系と思われる薬品を女王蟻に向けて投げている。効果は分からないけど、デバフ効果を期待出来そうだ。いや、凄い攻撃手段を持っているんだな……。

 それと二人共、結界石で作った安全地帯にいるので、こちらは大丈夫だと思う。

 だけど、大丈夫だと思った時が危ない。

 雑魚だけど、兵隊蟻が数匹出て来た。こいつらは俺が処理する。


 十分程度経ったくらいかな?

 女王蟻の前脚が一本切り落とされた。

 ここで、ライサさんが結界石で作った安全地帯に入った。俺も同調して、入ることにした。


「はぁ、はぁ……」


 ライサさんは、疲労困憊だ。

 それをシリルさんとヒナタさんが回復させる。だけど、ポーションも魔法も効いていない感じだ。

 俺は、一応不測の事態に備えて女王蟻の監視だ。結界の外から攻撃してくるけど、俺達までは届かない。

 この状態が一日続くのであれば、攻撃と回復を繰り返せるということか……。結界石とは、便利な物なんだな。

 ライサさんの回復が終わった。いや、休憩と言った方が良いかもしれない。それと、消耗した剣も魔力で修復されている。


「さて、次だ……」


「ちょっと待ってください」


 ここで、俺はライサさんを制止した。

 ライサさんが俺を見る。


「女王蟻の脚は六本ですが、同じことを後五回繰り返すのですか?」


「……その予定だ」


 一発貰ったら即死級の攻撃を避け続けている。いや、掠るだけでも結構なダメージを貰うと思う。

 ライサさんは、完全に回避しきれていない。正直分が悪いな。


「俺が戦力外ですね。出来れば、左右から削れれば良かったのですけど、俺の攻撃は通じませんでした。ここは撤退が妥当だと思います」


「……今日撤退したとして、次があると思うかい?」


「俺の攻撃が通用するまで待ってくれれば、あるいは討伐の可能性も出てくると思います。中級職でしたっけ? 方向性を決めて女王蟻に通用するステータスにすれば、今日よりも勝率は上がるはずです。それと……、もう少し人数を増やした方がいいかもしれません」


「それは何時だい?」


「それは……、急ぐとしか言えません」


「それまで、街が残っている可能性の方が低いよ」


「ならば、他の上級者を呼んだ方が良いと思います」


「……皆、こいつに殺されてしまったよ」


 ライサさんの揺るがない決意を感じる。今日決めたいんだな。

 だけど、どうしても不安が拭えない。


「………呪いの傷はどうなっていますか?」


 俺が皮膚や筋肉を再生させたとは言え、呪いは残っている。完全回復とはならないはずだ。


「……」


 ライサさんが黙ってしまった。


「何かしら影響が出始めていますよね?」


「動けば動くほど、右手が痺れる感じだね。右目の視力も落ちてきている。右耳も同様だ……」


 やはりか……。これは持たないな。

 俺が、マナポーションをがぶ飲みして、ライサさんの再生を行いながら戦って貰うか?

 いや、それこそ現実的じゃない。

 ……ダメだな。選択肢が一つしかない。


「俺が行きます。少し休んでいてください……」


 そう言って、俺は結界の外に出た。三人は、黙って俺を見ている。


「キシャアァ~」


 女王蟻が威嚇して来る。

 俺は、今込められるだけの魔力をハンマーにつぎ込んだ。

 女王蟻の脚が、俺をめがけて襲って来た。

 その一撃を真っ向からハンマーで受け止める。


「っぐ! 重い!」


 耐える。とにかく耐える。耐えられば、衝撃の打点をずらせる。そして、ハンマーに込めた魔力が、蟻の脚を伝って行った。

 奥歯が砕けそうなほど、噛み締めて耐えきった。

 次の瞬間に、蟻の脚の関節が爆発した。女王蟻の脚力を利用した裏当ての炸裂だ。今は、カウンターでしかダメージが与えられそうにない。

 その後、俺はすぐさま、結界の中に倒れ込むように入った。


「そんな戦い方で、大丈夫なのかい?」


「はぁ、はぁ…… 両手両足の骨に罅が入っている感じがします。それと、残りの脚は四本ですね……」

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