第45話 防衛6

 シリルさんの索敵を頼りに、森の奥へと進行して行く。

 森の中は、蟻の魔物対他の魔物と言った様相で相対していた。それと魔石が大量に転がっている。

 俺達は、魔石と時々見つかる技能石を回収しつつ、森を進んで行く。森の中は狂乱状態と化していた。

 俺達の戦闘はというと、傷つき動けないでいる魔物を優先的に狩るようにした。漁夫の利というやつだ。

 昨日は、魔石を百個以上取れたが、今日は千個を越えそうだ。


「蟻の巣へ直進はしていませんよね?」


「……今はまだ、兵隊蟻の数を減らしたいところだね。とにかく私達は、怪我を回復させようとしている魔物を狩ることを優先する」


 何時もの、キリっとした表情でライサさんが言う。いつの間にか二日酔いの気配は消えている。

 俺に反対意見はない。

 シリルさんも、指示も受けないないけど、ライサさんの意図を汲み取るように動いている。

 前回の討伐時も、同じ作戦を取ったのかもしれない。

 そうすると、シリルさんも参加していた?


 たまに、錯乱したような状況の魔物が襲いかかって来る。それらは、俺とライサさんが退ける。

 ヒナタさんは、影収納で素早く魔石を回収してくれている。複数に囲まれた場合は、影縛りだ。俺が空振りした魔物も止めてくれている。

 やはり、命中は上げた方が良いかもしれないな……。


「ストップニャ……。この先で大規模な集団戦が行われているニャ」


「蟻の巣は、この先の方向だね。いや、出口を複数作ったのかもしれない」


 ライサさんが考え出した。


「ショート。ここで結界術を張っておくれ。小休止とする」


 初めて名前で呼ばれたな。

 俺は、短剣四本を地面に突き刺して、結界術を発動させた。

 倒木を移動させて、椅子替わりにして、四人で向かい合う。

 シリルさんは、耳をピクピクさせている。音で索敵しているみたいだ。

 ライサさんとヒナタさんは、何かを考えている。


「なにか不測の事態でも起きていますか?」


「……蟻が群れるのはいいのだが、この街の周辺の他の魔物は基本的に群れない。前回は、蟻が巣穴から出てきたら、森の魔物を一掃したのだよ。それに気が付いた私達は、街へ引き返した。そして、巣穴から出た兵隊蟻が、餓死し出した。そのタイミングを見計らって女王蟻を巣から引きずり出すことに成功したんだ」


 前回とは、少し状況が違うと言うことか?


「そんなに簡単に、蟻が巣から出てくるものですか?」


「百匹程度間引いただけでは、出てこないはずだね。巣に油を流し込んで火をつけたり、川の水の流れを変えて巣に流し込んでやっと出て来た感じだ」


「前回の数倍、例えば万単位の蟻が潜んでいる?」


「いや、餌の量に限りがある。魔物が死亡すると塵になるのは見ているだろう? 魔石を喰うか、森の植物を餌にするかのどちらかだ。ただし、オーガまで進化した魔物は、私達と変わらない食性と考えられている」


「森に火を放てば、魔物を一掃出来るのではないですか?」


「もう何百年も前に検証された方法だね……。その土地は確かに魔物は出なくなったが、植物も生まれなくなった。そして、この世界で最も重要な魔素まで産まなくなったこともある。そこまでして、土地を広げる意味はないと言えば、伝わるかい?」


 魔素? また新しい単語だ。それと、不毛の大地になるのか。そうなると、魔物が森を喰らい尽すこともないんだろうな。

 物理法則が異なる世界。俺の常識は通用しそうにないない。

 それと、神様の依頼に矛盾が出て来た。この街の目的ともだ。

 神様は、『適度に間引く』と言ったけど、それでこの世界の人類が繁栄出来るんだろうか?

 俺が思考を続けていると、変化があった。


「む? 蟻が撤退し始めたのニャ!」


 獣耳に手を当ててシリルさんが、呟いた。


「明らかな異常だね。この森の最大勢力が、撤退か……」


「多分……、オーガがいるニャ」


「まさか!? オーガが魔物を率いていると言うのですか?」


「そこまでは、分からないニャ……」


「撤退しましょう」


 ここまで沈黙を守っていた、ヒナタさんからの提案だった。今まで、全体を俯瞰してくれていた。その結論なんだろう。


「どちらとも取れないね。ただし、今日危険を犯す理由もない。オーガとも会いたくはないし、今日は退こうか」


 俺とシリルさんに反対意見はなかった。

 こうして二日目が終わった。





 蟻の討伐三日目。

 森は、異常な静けさを保っていた。魔物の姿がなかったからだ。

 昨日の集団戦の場所に着くと、大量の魔石が手に入った。手早く、ヒナタさんが影収納で拾い集めてくれる。

 一個一個拾っていたら、一時間はかかっていたな。

 それと魔石は、高価なんだけど、この量を街に持ち込んでも大丈夫なのかな?

 経済が、狂いそうな量だ。


 警戒しながら進んで行くと、何事もなく蟻の巣の前に到達できた。

 明らかな異常を感じる。

 だけど、シリルさんの警戒網には、何も引っ掛からなかった。周囲に魔物はいないんだそうだ。

 蟻と対峙していた魔物やオーガは、昨日のうちに去ったと考えられる。


「……女王蟻をどうやって引きずり出しますか?」


「まず、火攻めにしようか」


 そう言うと、ライサさんが液体の入った一升瓶くらいの大きさの薬品を取り出した。それを、蟻の巣に投げ込んで行く。

 巣の奥で割れる音がした。


「ヒナタ。火魔法を頼む」


「はい!」


次の瞬間、蟻の巣から大轟音が響き渡った。連続的な轟音が続く……。


「これ、崩落とか起きていませんか?」


「起きているだろうけど、掘って出て来るよ。それよりも迎撃態勢を整えようか」


 ライサさんがそう言うと、俺には、結界術を指示して来た。

 それと、次々に薬品をヒナタさんに渡し始めた。

 シリルさんは、索敵に全神経を集中している……。


 準備ができて、体感的に10分程度くらいかな。とにかく何も起きない。

 他の三人を見ると、すごく集中している。

 俺も気を抜かずに警成しよう。そう思った時だった。


「右手方向から来るニャ。大きさからして女王蟻ニャ!」


 全員で右を向く。


「やはり、巣の出口を増やしていたか」


 ライサさんがそう言って、結界石を割った。これで、破壊不可能な安全地帯のでき上がりだ。

 俺は、結界術を解いて、短剣を回収した。

 そして、再度迎撃態勢に移行する。

 次の瞬間に、女王蟻が姿を見せた。

 体長10メートルと言ったところかな。ちなみに目の前にある巣穴からは出てこれない大きさだ。

 新しく、穴掘って出て来たのかな?


「……今日こそ終わりにしよう」


 そう言って、ライサさんが飛びかかった。

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