第43話 防衛4
数日かけて、ライサさんの傷の再生を行った。
視力と聴力も回復している。ただし、呪いは消えていない。
今後どのように呪いが働くのかが不明なので、そこは注意して行くことで合意した。
それと聞いてみたのだけど、ライサさんは、片手剣と中型の盾で立ち回るスタイルらしい。
速さと命中を重視しているのだそうだ。攻撃力は、手数でカバーするとのこと。
俺とは、真逆のスタイルと言える。俺は、ステータスポイントをまだ割り振っていない。
ライサさんの戦闘スタイルも参考にしたいと思うので、ステータスポイントは使わないことにした。
その後、四人で練習も兼ねて、蟻の討伐を行うことになった。
城壁の門は、ライサさんが言うと開けてくれた。
そのまま、西側の森に入る。
シリルさんが、すぐに反応した。
「……蟻が、多いのニャ。巣から一杯出てきているニャ」
「丁度良い。少し間引こう」
そう言って、ライサさんがさらに進んで行ってしまった。
三人で後を追いかける。
「複数に囲まれた場合は、危なくないですか? 俺達は、一匹ずつ討伐してましたよ?」
「ああ。結界術があるんだろう? 危なくなったら逃げ込むので、準備を頼むよ」
話が噛み合っていない。
そう思うと、蟻が三匹現れた。
「っぐ!!」
俺は、反射的に結界術を発動させて、シリルさんとヒナタさんを守ることにした。四本の短剣が地面に刺さる。
蟻を見ると、少し先でライサさんを囲んでいた。俺はそれを確認すると、一番右側の一匹に突撃した。
ハンマーを振るうが、当たらない。一対一では分が悪い。
今まではシリルさんとヒナタさんのサポートがあり、楽に勝てていたんだ。
挑発しつつ、少しずつ後退する。もうすぐヒナタさんの射程圏内だ。
意図を悟られないように、攻防を繰り返しながら移動する。
ここで、影が蟻を襲った。ヒナタさんの影縛りだ。
動きが止まったのを確認して、俺は蟻の頭に一撃を入れた。
「ふむ。良い連携だね」
声の方向を向く。ライサさんは、蟻二匹を討伐していた。
蟻は全ての足が、切断されており、また、首が離れていた。
「関節を剣で切り裂いたのですか?」
「ああ。甲殻に剣を突き刺しても良いのだけど、剣が痛むのでね。柔らかい関節部分を狙うようにしている。
まあ、私のこの剣は、魔剣なんだ。魔力を送れば刃こぼれ程度なら修復するのだけどね」
これが、街の最高実力者か。
俺が、三人いても勝てる気がしない。
シリルさんとヒナタさんを見ると、笑顔だ。シリルさんもライサさんと面識があるようだし、昔組んでいたのかもしれないな。
ここで蟻が塵になった。
「魔石は貰っても良いですよね?」
「ああ。かまわないよ」
そう言うと、魔石を二個渡してくれた。これは、効率が上がりそうだ。
「ニャ!? また来るニャ! 音で寄って来たのかもしれないニャ!」
不意に言われた。俺は、シリルさんとヒナタさんを守れる位置に戻る。
「ライサさん。もう少しこちらに寄って来て貰えますか?」
「ああ。そうだね。連携して行こう」
そう言うと、ライサさんも結界術を守れる位置まで戻って来てくれた。
さて、討伐だ。効率を上げて行こう。
そう思うと、五匹の蟻が現れた。
◇
「ふぅ~。もう来そうにないですね……」
目の前には、大量の蟻の魔石が転がっている。この数時間、拾う余裕さえなかった。
「まだ陽は高いが、今日は帰ろうか」
ライサさんがそう言ったので、俺と二人が頷いた。
様子見だったのだけど、とんでもない数の討伐数になってしまったな。パワーレベリングそのままだ。
魔石を拾い集めて、街へ帰る時に不意に言われた。
「兄さんは、闇魔法は取っていないのかい? ヒナタ頼りだったね」
「はい、持っていませんよ?」
「え? ちょっと待ってください。先日は余ったって……」
「ドロップは一個だけだったんですよ。まあ、何時でも取りに行けるし、戦力増やした方が良いかなって。
それに、魔法は複数取ると、デメリットがあると神様にも言われたのでね。俺は雷魔法の威力を落としたくなかったのもあります」
ライサさんとシリルさんが笑い出した。ヒナタさんは、顔を真っ赤にして怒っている。
正直、今は雷魔法と空間障壁だけでMPが、カツカツだ。これに生命置換が加わるとキャパシティオーバーだし。
そんなことを話していると、街の城壁に着いた。
ライサさんが手を上げると、城壁の門が開く。衛兵は、並んで敬礼して通してくれた。
上級職というのは、便利なんだな。
いや、それだけ尊敬されているのか。
◇
冒険者ギルドに到着した。
今日だけで、126個の蟻の魔石を稼いだ。上位種の魔石も3個ある。
これで、シリルさんとヒナタさんの移籍は、完了するはずだ。
冒険者ギルドに入ると、中は喧騒に満ちていた。
また、怪我人が出たようだ。
俺は頼まれたので、怪我人を見ることにした。……瀕死だな。
ここで問題が出た。今俺のMPが枯渇寸前だったからだ。
周りにに頼んで、マナポーションを貰ったのだけど、余りMPは回復しない。
今は、一刻を争う。とにかく考えるしかない。致命傷と思われる個所だけの治療で間に合うかどうか……。
だけど、ここでライサさんが前に出て来た。そしてカバンよりポーションを出して、怪我人に飲ませる。
しばらくすると、怪我人の容態が安定し始めた。
「今のは、もしかして上級ポーションですか?」
「……ああ。金は持っているからね。他の街で購入していたんだ。 気にしなくて良いよ。まだ、在庫はあるから」
明日から、死地に赴くというのに、他人を助けるか……。今の一本が自分の生死を分けるかもしれないのに。
でも、嫌いではないかな。
上級職は、こういう人であって欲しいと思う。人徳というやつかな。
その後、話を聞いたのだけど、東に出来た新しい蟻の巣に入ろうとして撃退されたらしい。
ライサさんが、街の防衛を指示すると全員が従う意向を示した。
緊急時には、ライサさんの様な人がいてくれると、本当に助かる。
その後、ライサさんの怪我の話へ変わる。それもそうか。大怪我を痕もなく回復すれば、疑問もわく。
そして、俺を引き寄せてまた胸に顔をうずめて来た。
歓声が上がる。だけど、今日は無理やりにでも脱出した。もう良い加減にして欲しい。
シリルさんとヒナタさんは、怒っているし……。
その後、蟻の魔石100個を納品して本日は終わり。二人は晴れて自由の身となった。
二人はライサさんの提案で、少し考えてから他のギルドとの契約をするように言われた。
もしくは、領主に紹介しても良いとか……。まあ、他の街に行った方が良いだろうな。
俺のレベルも800台まで上がっている。
俺は……、蟻の討伐の後は、どうしようかな。
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