第42話 防衛3

 ライサさんが服を着て、こちらを見た。


「おや? ヒナタじゃないか。ふさぎ込んでいたと聞いたけど元気そうだね。

 この兄さんとパーティーを組んでいたのかい?」


 ん? 知り合いか?


「お久しぶりです。ライサさん。でもこの人は渡せません!」


 ヒナタさんは、俺の頭をさらに強く抱きしめて来た。

 ちなみに体は、シリルさんにガッチリとホールドされています。


「あはは。ヒナタのパーティーメンバーだったのか。私はハーレム要員でも良かったのだけどね。

 まあ、こんな体だ。たまには、男を味わいたいと思ったのだけど……、諦めるか」


 その言葉を聞いてか、二人の俺への拘束が弱くなった。

 今の俺はMPを消費しすぎて、疲労している。だけど、STR値で二人に負けているのかもしれない。

 そろそろステータスの割り振りを考えないといけないな……。

 そんなこんなで、やっとのことで拘束から抜け出せた。





 テーブルと椅子を持って来て貰い、四人でテーブルを囲んだ。

 お茶も持って来て貰う。

 ただし、シリルさんとヒナタさんは、渋い表情だ。

 ここで、ライサさんが口を開いた。


「ヒナタ。常に笑顔でいれば、道は開けると教えたのだけど、守れていないようだね。そこまで感情を出すほど、この兄さんが大事かい?」


「最近までは、笑っていましたよ。でも、どうでもいい人が言い寄って来るだけでした。

 本当に必要と思った人には、見向きもされませんでしたしね。

 あの教えは、間違っていたんじゃないんですか?」


「あはは。まあ、そういうこともあるさね。でも、女は愛嬌が一番だよ。それだけは間違いがない」


 ヒナタさんが俺を睨んで来た。視線を逸らす。

 とりあえず、話を進めよう。


「俺は、この街に来て日が浅いです。噂が立つほどには、強いのかもしれませんが、情報が不足しているので、今後どう動けば良いかは分かりません」


「うむ。端的に言おうか。私とパーティーを組んで欲しい。

 それで、古い方の蟻の巣を叩きに行きたいんだ。今度こそ女王蟻を討伐したいと思っている」


「……古い方の蟻の巣ですか?」


「ああ。誰も言わないが、三匹目の女王蟻が生まれたらこの街は放棄せざる負えなくなる。

 その前に、対応したいんだ。前回は、私が大怪我を負ってしまって討伐失敗になったからね。今回こそはと思っている」


 三匹目か……。確かにそうかもしれない。

 新しい方の蟻の巣は、まだ女王蟻を生むまでに時間があると言うことか。

 多分だけど、前回の討伐は数年前だと思われる。若干の時間的猶予があるんだろうな。


 ここで、シリルさんとヒナタさんを見てみた。

 その表情は真顔になっているので、事の重大さを物語っている。


「分かりました。ライサさんの治療が終わったら、この四人で蟻の巣に突撃する認識で合っていますか?」


「いや。蟻の巣には入らない。前回の失敗もあるしね。ダンジョンは分かるかい? 蟻の巣は、一種の異空間になっているんだ。それも蟻に都合の良い空間にね。

 それで今回は、蟻の巣の前で迎撃を行いたいと思っている」


「危なくないですか? 俺でも三匹にでも囲まれたら終わりだと思うのですが」


 ここで、ライサさんがカバンから何かを取り出した。


「これは、結界石と言う。兄さんの結界術のアイテム版だな。その最高品質だ。

 一日程度だが、安全地帯が作れると考えて良い。陣地を築いて、蟻を討伐し続ける算段だ。

 女王蟻の行動だが、兵隊蟻が少なくなると巣から出て来ようとするのは確認している。その後は、長期戦になると思われるが、必要な物資は出来るだけ揃えるようにするよ。物資の出し惜しみはしない。次失敗すれば、本当に終わりだからね」


 なるほどな、結界石か。それも一日持続出来ると。

 蟻の巣の前で、強固な陣地を築いての防衛線であれば、かなりの数を討伐出来ると考えているのか。

 先日、マナポーションを貰った。大量の物資があるのであれば、少数精鋭でも討伐は可能かもしれないな。

 この分だと、撤退用のアイテムもありそうだし、大丈夫かもしれない。


「分かりました。俺は従おうと思います。シリルさんとヒナタさんはどうしますか?」


「行きます」「行くのニャ」


 あと考えないといけないこと……。


「オーガはどう思いますか? 滅多に見ないと聞いているのですが、俺は最近二体見ました」


「……オーガは、こちからか手を出さなければ基本的に問題はない。

 だがシリルの索敵で補足した時点で、撤退が妥当だろうね。

 まあ、ヒナタを私が抱えて走れば、逃げ切れるだろう」


 これで、決まりかな。





 ライサさんが、部屋から出て行った。明日も治療だ。完治までには数日要すだろう。遠回りかもしれないが、この街の最高戦力に賭けることにした。

 ここで背後から殺気が放たれていることに気が付く。


「この~、裏切り者! 成敗するのニャ!!」


「ちょっと、なにするんですか」


 シリルさんが、枕で俺を叩いて来た。パフパフされても痛みはないのだけど、実際にやられるとちょっと困る。


「見損ないました。乳ですか? 巨乳好きですか? それとも、ファンタジー的にエルフに篭絡されたのですか?

 モフモフや、こんな美少女に手を出さずに、また増やすなんて!」


 ……言いたい放題だな。

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