第41話 防衛2
俺は一日目立つ場所で待っていた。
多分、この街の統治者が、俺の元に来ると思ったからだ。今の俺は、結構噂が立っている。そして、各ギルドは対立している。
この街にも実力者はいるんだろうが、ギルドと言う縛りを受けると、自由には動けなくなる。
まだギルドと契約をしていないない俺だからこそ、この非常事態でも自由に動ける。
そして、困った統治者……、領主辺りが接触して来るだろうと思った。
だけど、依頼内容は予想外のことだった。
「後ろの女性……、エルフの護衛の回復ですか?」
領主代理のクラウディア様が頷いた。
それを、ライサと呼ばれた人が、止めに入る。
「クラウディア様。今は街の問題を先に……」
「なればこそです。この街で一番の実力者であったあなたが力を取り戻せば、各ギルドも話し合いに応じると思います」
その後、言い合いが始まった。
俺は、その会話から詳細を推測して行く。
だけど、時間の無駄だな。俺は席を立った。
そして、護衛のライサさんの前に立つ。
「右手の手袋を外して見せてください」
「……」
重い沈黙。
だけど、ライサさんは従ってくれた。
焼け爛れて、皮膚のない手が、痛々しく感じられる。
雷回復魔法:生命置換
パリパリと放電の音が部屋に鳴り響く。相当痛いと思う。だけど、ライサさんは、顔色一つ変えない。
そして、手の皮膚の再生が終わった。
「ふぅ~。指は動きますか?」
そう言うと、指を動かして、感覚を確かめている。
「多少痺れるが、問題ないね。ポーションでも治せなかった、呪いを受けた傷をこうも見事に治すとは……。鑑定結果を聞いたのだが、本当に無職なのかい? 偽装しているじゃないのかい?」
偽装? そんなスキルがあるのか?
それと、呪いを受けた傷か……。
「無職で合っていますよ。それと完治までは、数日かかりそうです。こないだ、魔力を使い切って倒れたので、少しずつ治して行くのが良いでしょう。数日かかりそうですけど、動かせるようにはなるはずです」
「いや、それよりも街の危機を話し合いたい」
この人が、一番この街の危機を感じ取っていそうだ。
「クラウディア様。数日、ライサさんを貸して貰えないでしょうか? 治療を兼ねて、街のことを話し合いたいと思います」
驚く、クラウディア様。
「分かりました。よろしくお願いします」
クラウディア様は頭を下げて来た。だけど、ライサさんは渋い顔だ。
◇
ライサさんを連れて、宿り木亭に帰って来た。カウンターに座ったシリルさんに、一室を一日分借りれるだけの貨幣を払う。俺の部屋には入れたくなかったので、無駄金かもしれないが、まあ良いよな。
シリルさんは真顔で対応してくれた。何時もの笑顔は何処に行ったんだろうか?
そして、部屋のカギを受け取る時に言われた。
「後で、ゆっくりと説明して貰うニャ……」
小声だが力強い言葉だった。怒っているのかな?
やましいことなどないのだけど……。
そのまま、ライサさんと共に新しく借りた部屋へ移動する。
ライサさんを椅子に座らせて、俺は彼女の右側に回った。
「患部を見せて貰いますけど、良いですよね?」
「ああ、頼むよ……。まず肩を頼めないだろうか? 右肩が動けば、剣が振れる」
「眼と耳を先に診た方が良くないですか?」
「いや……。剣を振りたいんだ」
そう言うと、ライサさんは、上半身の防具を外して服を脱ぎ出した。
右腕は、皮膚がほどんど失われており、その範囲は胸まで及んでいた。
「……胸は隠して貰えませんか? 治療に専念出来ませんよ」
「噂では、凄い治癒能力を持った転移者と聞いたのだが、元医者ではないのかい?」
「……前の世界では、俺はアルバイト作業員でした。それと、治癒能力ではないです。再生に特化していますので、火傷には効果的かもしれませんけどね」
ライサさんは、『ふむ』と言うと、服で胸を隠してくれた。
とりあえず、肩から診る。皮膚を失っており、筋肉が固まっていた。
「……酷いですね。火傷になるのですか?」
「いや、酸性の毒を浴びた。それも呪い付きのね……。
治癒出来ない傷というのは、厄介なものだ。本当に不覚を取ったよ」
「これは、誰かを庇った傷じゃないですか?」
「……そこまで分かるのかい?」
「いえ……。ただし、即死一歩手前までの重傷を負ったことは分かります。それに範囲がおかしいし」
「……治療を頼むよ」
それだけ言うと、ライサさんは目を閉じて黙ってしまった。
俺は、まず雷魔法を指先に集めて、触診のようなことから始めた。
外部の筋線維が溶けて硬まってしまっているが、内部までは浸透していないみたいだ。これならば、筋線維と皮膚の再生だけでいいかもしれない。治療しながら、都度、調子を聞いて行くか。
外側の固まった筋線維を除去しながら、再生……生命置換を施して行く。
首から肘までの上腕、それと胸筋の生命置換が終わった。
その後、皮膚を作って行く。俺の魔力が皮膚へと置き換わって行く……。かなりの激痛が走っていると思われるけど、ライサさんは表情一つ変えない。汗一つかかなかった。
どんな精神力をしているんだろうか?
時間にして約一時間……。ゆっくりと少しずつ、丁寧に再生して行った。
だけど、魔力切れは起こしたくないので、今日はここまでとした。
それと、大量の魔石を消費してしまった。魔石は全て売り払わなくて良かったな。まあ、MPは俺の生命線なのだ。手持ちを使い切る気はない。
それでも、この分だと、蟻以外の魔物を狩って補充しなければならなそうだ。クラウディア様に頼んで貰っても良いかもしれないな。
「俺のMPの限界です。これ以上行うと倒れそうになるので、今日はここまでとさせてください」
ライサさんが、右腕をグルグルと回す。それと同調して豊かな胸が揺れる。
一瞬凝視してしまった。隠してくださいよ……。
「……すごいのだな、〈再生〉というのは」
「一長一短がありますね。治癒魔法の方が、MPの効率が良いと思います。
一応教えますけど、俺の魔法の延長線上には、部位欠損の回復があると思います。上級職になれば、それこそ腕や指を生やすことも可能となるでしょう。
それと呪いは消えていませんので、忘れないでください。右腕以外に負傷した場合も、回復出来ないかもしれませんので」
ここで、ライサさんが俺の頭を掴んで来た。そのまま、豊かな胸に頭が埋まる。
柔らかい感触……、ではなくて!
「むぐ! ちょっと、ま……!」
──ドン
ここで、ドアが乱暴に開かれた。
シリルさんとヒナタさんが駆け寄って来て、俺を引き離した。
「……何だい? 治療代と思ったのだけど。パーティーメンバーかい? 兄さんはこの街に来て数日と聞いたのだけど、もう囲い者がいるのかい?」
ライサさんの言葉を聞いて、シリルさんとヒナタさんの殺気が放たれる。
今度は、二人の指が俺の体に食い込んで来た。結構痛い。
重い沈黙……。
ライサさんが、ため息を吐いて服を着た。
「パーティーメンバーのようだね。それじゃあ、街のことを話そうか」
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