第40話 防衛1

 一日休みを取った。

 MPを限界まで使うのは、避けた方が良いかもしれないな。一日動けなくなるのは避けたい。

 次の日に、朝食を頂いてから、三人で商業ギルドに向かう事にした。

 ちなみに俺の休んでいる間は、シリルさんとヒナタさんは、宿屋を手伝っていたそうだ。


 商業ギルド内は、閑散としていた。

 とりあえず、オーガの斧の換金を済ませる。金貨十五枚となった。あのレベルとはもう会いたくないな。魔石は、俺が使うかもしれないので売らないこととする。

 これは、シリルさんヒナタさんも了承してくれた。

 その後、商業ギルドの話を聞く。


 オーガの出没と、新しい蟻の巣の発見で、数日間の移動制限が敷かれるとのこと。

 オーガは一匹でも危ないし、蟻は巣を突かれたので、大群で襲って来る可能性があるのだそうだ。

 現在の戦力は、城壁に集中させているらしい。ただし、俺達は自由行動を許された。オーガ討伐の実力が認められたからだ。なるべく街から離れないことを条件に、防衛の協力義務は免除された。

 話を聞き終わり、三人で商業ギルドを後にする。





「これから、どうしますか?」


「選択肢は、少ないのではないですか? 東の新しい蟻の巣を叩きに行くか、西にオーガの調査に行くか……。もしくは、街で待機するかですね」


「うニャ~。討伐以外も選択肢に入れて欲しいニャ。このまま行くと物資不足になるニャ。ニャので、商人の護衛も選択肢に入れるべきニャ」


 そう言われると、そうか。

 この二人は、良く周りが見えている。


「希望はありますか?」


「……私達にしか出来ない事が、良いでしょうね」


 とりあえず、状況の確認だ。

 まず東の蟻の巣だけど、街の高レベル者で大型パーティーを組んで殲滅に向かうらしい。今であれば、まだ女王蟻に勝てる可能性があるのだとか。

 西のオーガは、〈千里眼〉持ちがいるので、異変があればすぐに分かるとのこと。ただし、街まで攻め込まれたことはないらしい。それと、古い方の蟻の巣も索敵を行っているのだそうだ。

 商業ギルドで食糧事情を聞くと、一年は籠城出来るだけの備蓄はあるらしい。ただし、この街では手に入らない物資もあるので、定期的に他の街へ行く必要があるのだそうだ。

 それと、最悪の事態に直面したら他の街から応援を呼ぶとのこと。ただし、法外な請求をされるので、街の物資は根こそぎ持って行かれるらしい。

 上級職だったか? この街にも数人はいるらしいが、徒党を組んだ上級職のパーティーに依頼を出すのは避けたいらしい。


 万全と言えば、万全と言える。今すぐしなければならないことはない。

 俺達は、街中で待って不測の事態に備えた方が良いだろうな。足の速いのは、シリルさんしかいないし。





 俺は、街の南側の城壁に登り、その先にある森を眺めていた。

 この先に、俺が転移した遺跡があるはずだ。

 スマホを見るけど、着信はなかった。神託は受けられないと言うことだよな。自分で判断しろと……。


「ショートさん。どうしたのですか? 今日は討伐に行かないのですか?」


「……少し考えたのですが、待つことにしました」


「待つ? 何を?」


 予想が正しければ、来るはずだ。そのために、あえて広い場所を選んだ。衛兵もいるけど、目立っているだろうし。

 シリルさんとヒナタさんは、暇そうにしている。


「宿屋に戻って貰っても良いですよ? 俺は日暮れまでここにいます」


「……蟻の討伐には、行かないのですよね?」


「はい。今日は街で待機です」


 そう言うと、二人は帰って行った。宿り木亭の手伝いだと思う。


 数時間が経過した。もうすぐ日暮れだ。俺の予想は外れたみたいだ。一日時間を浪費してしまったか……。

 そう思った時に、背後に誰かが現れた。

 衛兵達は、距離を取っている。


「失礼します。ショート殿で合っていますか?」


 俺は立ち上がり、後ろを振り返った。


「初めまして、翔斗と言います。この街の領主様でしょうか?」





 衛兵の詰めどころを貸して貰い、席に着いた。衛兵の一人がお茶を入れてくれたので一口飲む。

 茶葉が違うな……。宿屋で飲んでいる物とは、味も香りも違う。

 ふぅ~と、一息吐いた。

 ここで衛兵が、部屋から出て行った。


「まず、自己紹介からですね。領主代理のクラウディアと言います」


 いかにも貴族のお姫様と言った感じの人だ。それとこの部屋には、もう一人いる。顔を半分隠した人……、エルフだと思う。

 右半身に火傷を負っているみたいだ。だけど、実力者だな。レベルが高そうに感じる。

 そのエルフが、領主代理の背後に立っている。今は部屋に三人だ。


「ご存じとは思いますが、俺は翔斗と言います。余り時間をかけられないと思いますので、端的に聞きますが、各ギルド長と話をしましたか?」


 クラウディア様は、頷いた。


「……話はしました。でも纏まりません。冒険者ギルドは、新しい蟻の巣に向かうそうです。商業ギルドは、防衛に力を注ぐそうです。労働者ギルドは……、意見が纏まらないそうです」


 ため息が出る。今は戦力を集中させる場面だろうに。この人は、纏め上げる力がないのか。

 こんな状態で、東西から魔物に責められたら街が滅ぶぞ……。


「……それで、お願いがありこちらに来ました」


「伺います」


「私の護衛のライサを治療して貰えないでしょうか?」


「はい?」


 予想外の依頼が来た。

 街の防衛の話だと思ったのだけど……。

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