第40話 防衛1
一日休みを取った。
MPを限界まで使うのは、避けた方が良いかもしれないな。一日動けなくなるのは避けたい。
次の日に、朝食を頂いてから、三人で商業ギルドに向かう事にした。
ちなみに俺の休んでいる間は、シリルさんとヒナタさんは、宿屋を手伝っていたそうだ。
商業ギルド内は、閑散としていた。
とりあえず、オーガの斧の換金を済ませる。金貨十五枚となった。あのレベルとはもう会いたくないな。魔石は、俺が使うかもしれないので売らないこととする。
これは、シリルさんヒナタさんも了承してくれた。
その後、商業ギルドの話を聞く。
オーガの出没と、新しい蟻の巣の発見で、数日間の移動制限が敷かれるとのこと。
オーガは一匹でも危ないし、蟻は巣を突かれたので、大群で襲って来る可能性があるのだそうだ。
現在の戦力は、城壁に集中させているらしい。ただし、俺達は自由行動を許された。オーガ討伐の実力が認められたからだ。なるべく街から離れないことを条件に、防衛の協力義務は免除された。
話を聞き終わり、三人で商業ギルドを後にする。
◇
「これから、どうしますか?」
「選択肢は、少ないのではないですか? 東の新しい蟻の巣を叩きに行くか、西にオーガの調査に行くか……。もしくは、街で待機するかですね」
「うニャ~。討伐以外も選択肢に入れて欲しいニャ。このまま行くと物資不足になるニャ。ニャので、商人の護衛も選択肢に入れるべきニャ」
そう言われると、そうか。
この二人は、良く周りが見えている。
「希望はありますか?」
「……私達にしか出来ない事が、良いでしょうね」
とりあえず、状況の確認だ。
まず東の蟻の巣だけど、街の高レベル者で大型パーティーを組んで殲滅に向かうらしい。今であれば、まだ女王蟻に勝てる可能性があるのだとか。
西のオーガは、〈千里眼〉持ちがいるので、異変があればすぐに分かるとのこと。ただし、街まで攻め込まれたことはないらしい。それと、古い方の蟻の巣も索敵を行っているのだそうだ。
商業ギルドで食糧事情を聞くと、一年は籠城出来るだけの備蓄はあるらしい。ただし、この街では手に入らない物資もあるので、定期的に他の街へ行く必要があるのだそうだ。
それと、最悪の事態に直面したら他の街から応援を呼ぶとのこと。ただし、法外な請求をされるので、街の物資は根こそぎ持って行かれるらしい。
上級職だったか? この街にも数人はいるらしいが、徒党を組んだ上級職のパーティーに依頼を出すのは避けたいらしい。
万全と言えば、万全と言える。今すぐしなければならないことはない。
俺達は、街中で待って不測の事態に備えた方が良いだろうな。足の速いのは、シリルさんしかいないし。
◇
俺は、街の南側の城壁に登り、その先にある森を眺めていた。
この先に、俺が転移した遺跡があるはずだ。
スマホを見るけど、着信はなかった。神託は受けられないと言うことだよな。自分で判断しろと……。
「ショートさん。どうしたのですか? 今日は討伐に行かないのですか?」
「……少し考えたのですが、待つことにしました」
「待つ? 何を?」
予想が正しければ、来るはずだ。そのために、あえて広い場所を選んだ。衛兵もいるけど、目立っているだろうし。
シリルさんとヒナタさんは、暇そうにしている。
「宿屋に戻って貰っても良いですよ? 俺は日暮れまでここにいます」
「……蟻の討伐には、行かないのですよね?」
「はい。今日は街で待機です」
そう言うと、二人は帰って行った。宿り木亭の手伝いだと思う。
数時間が経過した。もうすぐ日暮れだ。俺の予想は外れたみたいだ。一日時間を浪費してしまったか……。
そう思った時に、背後に誰かが現れた。
衛兵達は、距離を取っている。
「失礼します。ショート殿で合っていますか?」
俺は立ち上がり、後ろを振り返った。
「初めまして、翔斗と言います。この街の領主様でしょうか?」
◇
衛兵の詰めどころを貸して貰い、席に着いた。衛兵の一人がお茶を入れてくれたので一口飲む。
茶葉が違うな……。宿屋で飲んでいる物とは、味も香りも違う。
ふぅ~と、一息吐いた。
ここで衛兵が、部屋から出て行った。
「まず、自己紹介からですね。領主代理のクラウディアと言います」
いかにも貴族のお姫様と言った感じの人だ。それとこの部屋には、もう一人いる。顔を半分隠した人……、エルフだと思う。
右半身に火傷を負っているみたいだ。だけど、実力者だな。レベルが高そうに感じる。
そのエルフが、領主代理の背後に立っている。今は部屋に三人だ。
「ご存じとは思いますが、俺は翔斗と言います。余り時間をかけられないと思いますので、端的に聞きますが、各ギルド長と話をしましたか?」
クラウディア様は、頷いた。
「……話はしました。でも纏まりません。冒険者ギルドは、新しい蟻の巣に向かうそうです。商業ギルドは、防衛に力を注ぐそうです。労働者ギルドは……、意見が纏まらないそうです」
ため息が出る。今は戦力を集中させる場面だろうに。この人は、纏め上げる力がないのか。
こんな状態で、東西から魔物に責められたら街が滅ぶぞ……。
「……それで、お願いがありこちらに来ました」
「伺います」
「私の護衛のライサを治療して貰えないでしょうか?」
「はい?」
予想外の依頼が来た。
街の防衛の話だと思ったのだけど……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます