第39話 討伐4

 夜中に眼が覚めた。部屋には、ヒナタさんだけだ。

 シリルさんはいない。

 とりあえず、起き上がり周囲を見渡すと、肉まんと果汁が置いてあった。

 助かったとばかりに、口に入れる。

 一息つくと、ヒナタさんが起きていた。


「……その後、どうなりました?」


「シリルさんが確認しに行ってくれたのですが、冒険者ギルドの二人は命を取り留めたそうです」


 そうか……。


「ヒナタさんから見て、俺の回復魔法のレベルは高いと思いますか?」


「……いえ。処置が適切であったと感じました。少なくとも上級ではないですよね? それと、MPが多いと感じたくらいですかね」


 そうなると、上級の魔法が見てみたいな。

 そんなことを話していると、シリルさんが部屋に入って来た。


「噂になってるニャ。〈裏当て〉ってスキルが、ばれちゃったのニャ!」


 鑑定スキルというやつかな? まあ、遅かれ早かれだ。

 地味なスキルだし、知られても特に問題はない。


「……他に何か、噂はされていますか?」


「"チート野郎"と思われていたけど、ステータス値が低いので、皆驚いていたニャ。それと、ステータスポイントを溜めすぎって……」


 シリルさんは、怒りに震えている。

 それにしても、俺のステータスでチートか。この街の冒険者のレベルが伺える。


「ステータスポイントは、まだ方向性が決まっていないのでね。温存しているだけですよ。でも普通は、取得したらすぐに割り振る物ですよね……。迷いすぎたかな?」


 苦笑いをする。


「うニャ~。文句言いたかったニャ。助けて貰っておいて、覗き見するニャんて!」


「どうでも良いですよ。それと今日の換金は無理ですね。明日、ギルドに行きましょう」


 二人が視線を合わせた。


「それで、問題があります」


 なんだ?


「街は、厳戒態勢に移行します。これから防衛戦です。私達も強制参加です」


「詳細を教えてください」


「二つ目の蟻の巣が見つかりました……。多分、数日中に街に襲い掛かって来ます。今は街の放棄も話し合われています」


 新しい女王蟻が、生れていたのか?


「俺達の依頼書は、どうなりますか?」


「……継続ですね。とにかく魔石を百個集めて、他の街のギルドにでも提出すれば、達成となります」


「そうなると、移住も可能となりますよね?」


「……そうなりますね」


 さて、どうしようかな。

 この街は危険すぎる。選択を誤ると、全滅もありえるな。

 だけど、俺だけ逃げる気にもなれない。

 最悪、ウラさんの宿屋の店員だけでも保護したい。そうしないと、シリルさんとヒナタさんは残ると言い出しそうだし。


 ……決断の時だな。残るか移動するか。

 後悔しない決断をしないとな。





 次の日に、女性が訪ねて来た。大怪我を負ったパーティーのメンバーなのだそうだ。俺が回復させた人達のリーダーなのかな?

 昨日の話を聞くと、蟻に囲まれたらしい。数匹は撃退したけど、二人重症者を出してしまった。その後の調査で、新しい蟻の巣が見つかったとのこと。

 それと、俺の噂を聞いた。

 俺のステータス値は、平均よりもかなり低いくらいなんだそうだ。ただし、〈裏当て〉〈生命置換〉〈空間障壁〉は、相当にレアなスキルなんだそうだ。そして、〈身体強化〉だ。オーガを倒したことが知れ渡っている。まあ、拾ったのではないかとも予想されているらしい。

 今は〈裏当て〉発動時に瞬間的に使うだけなのだけど、〈身体強化〉もレアなのだそうだ。危険な森の奥で取得したスキルなので、レアばかりなのだろうな。

 使える使えないじゃなく、"数が少ない"ので、レアなんだ。

 それと〈スマホ所持〉は、誰も意味が分からないとのこと。俺と近い世界、もしくは近い時代の人は、この街にはいないのかもしれない。もしくは、黙っているかだな。まあ、知らないふりをしている可能性もあるので、明確には言えないけど。

 それと雷魔法は、普通らしいが絶対数としては少ないと教えて貰った。要は不人気なのだそうだ。


 最後にお礼と言うことで、蟻の魔石を二個貰った。これで二十四個だ。二日で約1/4が集まった。良いペースだと思う。





「身体強化も持っていたのですね……」


 部屋に食事を持って来て貰い、食べていた時に不意に言われた。


「レアと言われましたが、珍しいのですか?」


「いえ……。正直、ステータスが歪すぎます。初めは攻撃特化と思ったのですけど、鑑定の話を聞くと魔法特化だし。そう思うと、攻撃魔法は使わずに結界術の防御型だったり。生命置換は聞いたことがないのでオリジナルですよね? それでいて、全ステータス向上の身体強化ですからね。転職時にどんな職業が出るか予想も出来ません」


 ……言い返せない。行き当たりばったりで生き延びて来たので、正直滅茶苦茶と言って良い。それを知られてしまったか。


「っぷ、クスクス……」

「にしし」


 二人が笑い出した。


「なにか?」


「不思議な人だなと思ったのですけど、謎なスキルビルドで確信が持てました。何も考えていませんよね? 慎重な人だと、命中に関係するDEXか速度のAGIを高めにするのですよ。その方が、生存率が高くなるので」


 なるほどね。俺はの真逆を行っているのか。


「……まあ。頭は弱い方です」


 二人が大笑いした。

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