第37話 討伐2

 朝日が昇ったので、一階の食堂へ。

 三人で朝食をとっている時だった。不意に質問された。


「シュートさんは、空間魔法を使えるのですか?」


 空間魔法? 結界術と空間障壁のことか?


「魔法ではないですね。ステータスには、スキルの欄に空間障壁と出ています。不破壊の盾と考えています。それと、雷魔法を応用した結界術ですね」


「……どの魔物が落としたか、分かりますか? レアスキルですよ?」


 記憶を辿る……。


「森の中で、塹壕がありました。その時に、色々な魔物に襲撃されて、一晩中迎撃したのですが……。どの魔物からのドロップかは、分かりませんね」


「そうですか……。未登録の技能石であった場合は、功績になります。それと、未発見の空間魔法に繋がるかもしれません。また一つショートさんへの指名依頼が増えそうですね」


「……また?」


「そのうち分かります。今は、ギルド長達が話し合っている頃でしょう。いえ……、もう領主にまで届いている頃かな。それと、私達の依頼書が発行されているので、今は大丈夫です。心配しないでください」


 良く分らない。

 シリルさんを見る。


「ん? 大丈夫ニャよ?」


 なにが大丈夫なんだろうか? そのうち分かると言うことか? まあ、良いや。まず、蟻百匹の討伐を終わらせてしまおう。





 二日目も順調だった。

 ゆっくりとだが、数を熟して行く。

 だけど、順調と思った時に落とし穴がある。


「……ニャ」


 シリルさんが固まった。俺もその異常な気配に気が付いた。

 間髪入れずに、結界術を足元に起動させる。

 それが、ゆっくりと近づいて来た……。

 このパーティーの欠点だな。逃走を選択する場合は、機動力にバラツキが出る。ヒナタさんが真っ先に餌食になるだろう。

 俺は、攻撃力と魔法防御特化だし。余りAGI値には振っていない。

 悪い思考を続けていると、それが現れた。


「……最悪だな。あの時の赤い鬼か」


「オーガファイターです。なんでこんなところにオーガがいるの……」


 ヒナタさんは真っ青だ。


「強いですよね?」


「蟻十匹より強いニャ! 森のもっと深い所に集落があるはずニャのに……」


 逃げられないのであれば、戦うしかない。退いてくれそうな様子もないし。


「まあ、身体強化による物理攻撃しかしてこなかったので、大丈夫でしょう。足止めをお願いします」


 二人が驚いた表情で俺を見る。

 その隙を突いてか、オーガが消えた。そして、左側からの斧による一撃……。耳を覆いたくなるほどの轟音が響き渡る。結界術の魔力をごっそりと持って行かれた。

 ここでヒナタさんが動いた。影縛りでオーガの脚が止まる。

 その一瞬を見逃さずに、俺は一撃を放った。

 だけど、オーガに俺のハンマーは届かなかった。斧の柄とハンマーの柄がぶつかり、裏当てが発動しなかったのだ。

 柄の部分を止められると、致命的かもしれない。

 力勝負となったが、かなり分が悪い。弾き飛ばされて結界術の外に弾き出されたら、一瞬でミンチだと思う。

 ここで、シリルさんが動いた。俺の陰からの一撃。吹き矢だ。その矢が、オーガに刺さる。

 オーガの動きが悪くなった。痺れているんだろうか?

 迷っている暇はない。

 俺は、ハンマーを引いて、振りかぶり、オーガの頭を打ち抜いた。数秒後、塵が舞い上がる。





「オーガって鬼ですよね?」


 俺の間抜けな質問に二人が、あっけに取られた。


「鬼の認識で合っていますが、この辺には滅多に出ない魔物です。オーガ一匹で、街が壊滅することもありあえますよ?」


「魔法は使って来ますか?」


「広範囲に炎をまき散らすことが知られています」


 固まっていたので幸いしたか。結界術は、物理に強いが魔法に弱い。炎を使われたら破られていたな。


「シリルさんの、吹き矢はなんですか?」


「特別製の毒矢なのニャ。本当の奥の手なのニャ。ちなみに植物毒ニャ。ある植物の棘を刺したのニャ」


 そう言うと、力なく座り込んだ。恐怖が襲って来たのだろう。震えている。

 俺は結界術を解いて魔石を回収した。ヒナタさんも動けそうになかったので、魔石をマジックバッグに入れる。

 それと、また斧がドロップアイテムとして残った。


「……また斧か」


「またって……。まさか、以前に討伐しているのですか? 遭遇しただけではなくて? 逃げなかった?」


「二匹目になりますね。前回はかなり油断してくれたので勝てましたが、本当に偶然でした」


 二人は驚愕の表情で俺を見ている。

 その後、相談して、本日は撤退することにした。

 オーガが出た事をギルドに報告した方が良いのだそうだ。

 まだ、陽は高いんだけどな……。


 今日は、蟻七匹で終わった。

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