第36話 討伐1
シリルさんに連れられて、街の外に出る。ここは、街の西側の門のようだ。そう言えば、蟻が侵入して来た時に門が壊れていたけど、修復されていた。見学したかったな。次の機会があれば、見逃さないようにしよう。
異世界の技術……、俺の知識より劣っているとは限らない。知識も技術も貪欲に集めて行こう。
ここで、ヒナタさんの異常に気が付く。
「ヒナタさん、大丈夫ですか?」
かなり顔色が悪い。
「……最後のチャンスです。分かっています。逃げません」
俺の話は、聞こえているようで聞こえていないな。まあ、良いか。
「……何か近づいて来るニャ。大きいニャ」
シリルさんの獣耳がピクピク動いている。
そちらを向く。森から出て来たのは、街を襲った蟻よりも一回り大きい個体だった。上位個体になるのかな?
「ラージアントですニャ! 毒液に注意ニャ!!」
シリルさんは、牽制用の短剣を抜いた。それと、小さい盾で体の急所を守っている。シリルさんは大丈夫だと思う。
だけど、ヒナタさんが固まっている。思考が止まっている感じだ。
俺は、短剣を四本地面に突き刺して、結界術を発動させた。
「二人ともこの術から出ないでください」
それだけ言って、俺はラージアントに近づいた。
「キシャアアァァ~」
威嚇して来た。
なんで蟻に声帯があるのかが、疑問だ。そういえば、二日前も思ったな。
俺はハンマーを構えた。
だけど、ラージアントは応じなかった。飛び上がり、俺の直上から毒液をまき散らして来た。いや、唾液と言うべきか?
俺は、空間障壁で傘を作る。そして、一通り毒液を吐き出すと、ラージアントが突撃して来た。
だけど、空間障壁にぶつかり止まる。知能は低そうだ。
空間障壁は、不破壊の盾と言える。それに全体重を乗せてぶつかって来るとか……。
「アホなのか? いや、昆虫に知能を求める方が間違いか……」
ラージアントは、フラフラだ。脳震盪を起こしたみたいだ。その頭にハンマーを叩きこむと、いつも通り爆発した。
◇
「まず、一匹目ですね。討伐証明は、何処の部位になりますか? 魔石で良いのですか?」
俺がそう言うと、ラージアントが塵になった。その場には、魔石と、大あごが残る。クワガタは、剣ほどの長さの大あごだったけど、ラージアントは、分厚い短剣と言った感じだ。
魔石は、ヒナタさんが回収して、大あごはシリルさんが手に取った。グリップ部分に布を巻けば、双剣になりそうな形状だな。
「この短剣……、貰っても良いかニャ?」
「使うならどうぞ」
嬉しそうなシリルさん。そして抱き着いて来た。
弱めの纏雷で引き離す。
──パリパリ
「ニャ~~!!」
「……次はないですからね」
「感謝の気持ちくらい受け取って欲しいのニャ……」
「次行きましょう」
俺は無視して歩き出した。
ちなみに、ヒナタさんはお腹を抱えて笑っている。緊張がほぐれたようだ。
◇
その後は、順調だった。
蟻は、単体で動いている個体を倒して行く。群れている場合は、やり過ごす。
ヒナタさんも戦闘に参加出来るようになって来た。
シリルさんが探して、ヒナタさんが影魔法で足止めし、俺が止めを刺す。消耗はせずに、連戦出来た。理想的なパーティーかもしれない。だけど、複数に襲われれば、こうは行かないだろう。慢心すれば、死亡する世界なんだ。
特に今日は初日だ。慎重に動くことにした。
日暮れの時間になったので、街に帰って来た。門を閉められたら野宿だし。
商業ギルドで、ラージアントの魔石を換金すると金貨三十枚になった。大物だったようだ。それと普通の蟻の魔石は、売らない。数も見せない。
三等分して、宿り木亭に帰る。
一階の食堂で今日の成果の確認だ。これにはウラさんも参加してくれた。
「……討伐証明の魔石が十五個に、金貨三十枚かい? 随分と順調だね」
二人は、全額をウラさんに渡そうとしたけど、ここで押し問答となった。結果として、ウラさんが二人の収入の半分を受け取ることで合意した。他の従業員の視線が痛い。明日からの交渉は、別室で行おうと思う。
その後、解散となった。
俺は、食事してから体を洗った。部屋には洗濯済みの服が置かれている。
「家があるのであれば、もう少し服を増やしても良いかもしれないな……」
窓から街の風景を見る。気持ちの良い風が吹いていた。そして、シリルさんとヒナタさんが、何かを大量に抱えて戻って来るのが見えた。
俺は部屋を出て、二階より一階の様子を見ることにした。
「色々と買って来ました。皆が欲しがった物です。受け取ってください!」
ヒナタさんがそう言うと、従業員が群がった。そして、涙を流して感謝している。
エルフの女性が、ヒナタさんを抱きしめている。
シリルさんは、男性に囲まれて揉みくちゃだ。あれはセクハラにならないんだろうか?
でも思ってしまった。
「……彼女らは、家族なんだな」
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