第35話 報酬と登録

 まず、商業ギルドに着いた。

 俺を見かけた職員が別室に案内してくれた。しばらく待つと、ギルド長が部屋に入って来たのだけど、シリルさんとヒナタさんを見て固まった。


「おはようございます、パーティーを組むことになった二人です」


「……うむ、そうか。そうだよな。君ほどの実力者であれば、綺麗どころの二人や三人を囲っても不思議ではない……」


 すごい誤解を受けている。

 それを聞いた二人が笑い出した。

 特にヒナタさんは、作り笑いじゃないな。困っている俺を見て、楽しんでいるようだ。


 ギルド長が、俺の前に座った。そして、テーブルに硬貨の入った袋を置く。その隣に何か書かれた紙だ。


「……量が量だけに査定に苦労したよ。一覧を作ってみたのだけど、とても読める量じゃないよな。だが、上の方の査定金額の大きい品だけでも確認して欲しい」


 紙を見ると、剣四本が一番高かったらしい。次に斧と書かれていた。

 それと、技能石が一個含まれていたか。これは俺の見落としだな。技能石は、〈魔法:水〉だった。今は魔法を増やす気はないので、俺には不要だ。神様にデメリットと言われたのは覚えている。

 そうなると、聞いてみるか。


「ヒナタさん。水魔法は覚えていますか?」


「取得済みです」


「シリルさんは?」


「……ワタシは、魔力がほとんどないのニャ」


 そうなると、売却で良いだろう。

 ペラペラと紙を捲って行く。ここで気になる物があった。


「……銀の認識票って何ですか? 120個?」


 シリルさんとヒナタさんが、驚いた表情で俺を見て来た。


「チェーンの付いた金属のプレートがあっただろう? あれは、個人を識別する物なんだ」


 戦争物で良く聞くあれか。戦死者を探す時に役立つ物のはずだ。俺は、結界術の発動用に使用していたけど。

 そうなると、疑問が残る。


「俺の倒したアンデットは、元は人間だったのですか?」


「……昔この地で戦争があってな。死体が森の瘴気に食われて、魔物になってしまったのだ」


 不思議な現象だ。魔力で死体を動かせるのか。自然発生ではない魔物もいるのか。

 ここで、シリルさんとヒナタさんの異常に気が付く。大量の汗をかいていた。触れてはいけない内容だったのか?


「報酬は、白金貨五十八枚とさせて貰った。端数は……、許して貰えないだろうか? この三日で商業ギルドの貨幣が尽きそうなのだ。ギルドの信用問題になりかねないのだが、君はそれほどの人材なのだよ」


 正直、貰いすぎの気もする。しかし、これで白金貨六十枚になる。宿屋で何十年も暮らせる金額だ。死ぬまで街中で暮らせるだろうな。

 正直邪魔だ。使わないと、悪評が立つみたいだし。持ち歩きたくもないので、少し考える……。


「商業ギルドでは、加工も行っているのですよね? 役に立つアイテムを売ってくれませんか?」


 ギルド長の表情が明るくなり、走って部屋から出て行ってしまった。

 この間に聞いておこう。


「銀の認識票は、問題のあるアイテムでしたか?」


「……後になるかもしれませんが、ショートさんに個人指名の依頼書が発行されると思います」


 個人指名? 何だろう?

 内容を聞こうと思ったら、ギルド長が戻って来た。

 カバンを持って来ている。


「マジックバッグだ。容量は特大で、時間停止機能付き。買い手がいなくて商業ギルドで飾られていたのだが、これでどうだろうか? 本当であれば、王族貴族が買う物だが、辺境には来なくてな。とても良い出来なのだが、売れ残っていたのだ」


 二人を見ると頷いた。良い物なのは間違いないみたいだ。

 説明を聞くと、影収納のアイテム版と言われて、理解した。


「値段を提示してください」


「白金貨五十枚でどうだろうか? いや、四十五枚でも良い!」


「では、白金貨四十五枚でお願いします」


 こうして俺に、白金貨十三枚とマジックバッグが支払われた。

 得したのか損したのかも分からない。だけど、シリルさんとヒナタさんは笑顔だ。

 説明からの推測になるけど、宿屋に置いていた素材を持ち歩けるようになると思う。それと、街の外での討伐で得た素材の運搬も楽になるはずだ。もう、ソリを作ることはなくなると思う。まあ、容量次第かな。

 その後、挨拶をして、商業ギルドを後にした。


「次は、冒険者ギルドですね。交渉は二人に任せますけど、良いですよね?」


「もちろんニャ!」「はい!」


 こうして、商業ギルドを後にして、冒険者ギルドへ向かう事にした。





 冒険者ギルドの交渉は、簡単に終わった。

 数年間の活動記録のない二人なんだ。『蟻の討伐証明百体匹分』を提示したら笑われた。

 そして、特別な依頼書が発行される。

 ちなみに俺は、隠密スキルを発動させて、空気になっていました。

 商業ギルドとは違い、偉い人も出て来ない。カウンターのみでの手続き終了となった。二人は、軽視されているのが理解出来る。

 用事も終わったので、三人で冒険者ギルドを後にする。

 歩きながら話す。


「これで手続きは、終わりで良いですか?」


「はい、手続きはこれで終わりです……」


 ヒナタさんに緊張が見られる。

 この後、数年ぶりに街から出るんだ。まあそうなるか。


「では、街の外に行きましょうか。シリルさん、案内をお願いします」


「任せてニャ!」

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