第34話 レクチャー4

「覚えたての魔法で、そこまで使いこなせるのは凄いですね」


 俺がそう言うと、ヒナタさんの顔に陰が出来た。

 嫌なことを思い出させてしまったかもしれない。


「……アタシは、冒険者ギルドで中級職になっています。魔法支援職と考えてください。技能石で魔法を覚えれば、全属性の中級程度なら使いこなせます。これは、アタシのユニークスキルに関係します」


「魔法を複数取ると、デメリットは発生しませんか?」


「……制御が難しくなることが上げられます。それと、他属性に反発されて魔法の威力が下がる場合があります。8属性を取った人は、最終的に魔法の発動が出来なくなったそうです。でも、普通は、2~3種類の魔法を取るものです」


 神様から言われた時の疑問が少し解けた。魔法の取得も少し考えるか。

 それと、ヒナタさんの状況が何となく分かった。冒険者ギルドで登録してしまい、討伐が行えない状況なんだな。それで依頼を受けれなく困窮したと。

 採集も街の外に行く必要がある。魔物を見る度に嘔吐すると言っていたので、そうなると街からは出られないんだろう。それでは、仕事がない。


「冒険者ギルドとの契約解消は、出来ないのですか? どんな方法でも良いです。あるのであれば、教えてください」


「……私が冒険者ギルドで受け取った金額の倍の素材を納品すれば、移籍が可能となります。そうですね……、今であれば蟻の討伐証明を百匹くらいでしょうか。魔石や素材を納められればですけど」


 蟻限定なのかな? 大森林で得た魔石は黙っていよう。結構な量があるけど、ヒナタさんは、恩をタダで受け取れる性格ではないと思う。


「仮にの話をします。俺が、百匹分の討伐証明を取って来て、ヒナタさんが冒険者ギルドに納めれば、移籍は出来ますか?」


 ──ガタン×2


 ここで、両隣の部屋で大きな音が鳴った。

 まず、左側の部屋から影が伸びて来たのでそちらを見る。

 そこから、ヒョイっと顔が出て来た。


「……こんばんは、シリルさん。聞き耳を立てていたのですか?」


「にしし。許して欲しいニャ~」


 そして、今度は乱暴にドアが開いた。まあ、ドアにカギは掛けてないし、開けてもいたのだけど。


「失礼するよ」


「こんばんは、ウラさんもですか……」


 昨日から監視されていたかもしれないな。感知系スキルは早めに取ろう。

 でもまあ、聞かれても問題ない話しかしていない。ヒナタさんには触れてもいないし。


「椅子を持って来て貰えますか?」





 四人で話すことになった。


「聞き耳を立てていたことをとやかく言うつもりはないのですが、どうして部屋に入って来たのですか?」


「うむ、すまなかった。それで相談がある。シリルとヒナタとでパーティーを組んで貰えないだろうか?」


 ウラさんは、頭を下げて来た。


「シリルさんもですか?」


「シリルは、冒険者ギルドに登録しちまったのさ。斥候スカウトとしては優秀なんだが、ユニークスキルを持っていないのでパーティーを組めなくてね。それで、わたしゃが拾ったってわけだ」


 シリルさんを見ると、とても期待した目で俺を見ている。

 ヒナタさんは、真顔だ。


「他にはいないのですか?」


「……足を欠損させちまった労働者ギルドメンバーもいる。指を失った商業ギルドメンバーもね。この宿で働いている者は、ほぼ全員がわけありなんだよ。

 でも、冒険者ギルドから脱退出来そうなのはこの二人だけだね」


 ウラさんの人柄が分かるな。でも、この人のような受け皿がないと、街は破綻してしまうだろうな……。


「ギルドの統一は、出来ないのですか?」


「……殺し合いまでして決めたルールだからね。無理だろう。それに自由に移動出来るようにすると、他のギルドを潰しにかかるだろうし……」


 この街にも歴史があって、今の制度になったんだな。


「確認します。パーティーを組んで、蟻百匹分の討伐証明を冒険者ギルドに納めて、シリルさんとヒナタさんは他のギルドに移籍して貰う……、で合っていますか?」


「こちらの希望はそれで良い。それで、兄さんは何を対価に求める?」


「まず、この宿屋の永住権ですかね。俺がこの街からいなくなるまで無料でお願いします。

 それと、女性はいりません。触れて来たら、感電させます。誘惑して来たらパーティーを解散します。

 今思いつくのはそれくらいですが、後から希望を追加するかもしれません」


「分かったよ。何でも聞こう」


「うニャ~……」


 シリルさんは不満のようだ。

 ヒナタさんは目が点になっている。思考が追い付いていないみたいだ。


「二人抜けますけど、宿屋の経営は大丈夫ですか?」


「従業員は、多すぎるほど抱え込んでいる。でもそうだね、二人には、宿にお金を入れて貰おうか」


 二人を見ると頷いた。

 まあ、後から条件を追加出来るのだし、俺に不利な点はなにもない。


「それでは、明日から活動開始とします。二人とも準備をしてくださいね」


「はいニャ!」

「……はい!」


 こうしてパーティーを組むことになった。寄生させるとも取れるけど、この世界のことを知らない俺にはブレーンが必要だ。それに実力もあるかもしれない。

 お人好しかもしれないけど、今回は良いよな。


 ──ピロン


 スマホが鳴ったので見てみる。


『良い感じですよ。今日は特にボーナスを付けます。神様より』


要らない神託まで来た。

三人が部屋から出て行き、こうして解散となった。


……寝よう。





 日の出と共に起き出して、身支度を整えて朝食を食べる。

 シリルさんとヒナタさんも出て来た。装備は古そうだけど、それなりに高価な物を装備しているみたいだ。

 手早く朝食を終えて、今後の予定を決める。


「今日俺は、素材の換金のために商業ギルドに行く必要があります。その後、冒険者ギルドに行く必要はありますか?」


「冒険者ギルドでは、パーティーの結成報告と退会のための依頼書を発行して貰う必要があります。街の外に出るのは、それからですね」


「退会の依頼書は、簡単に発行して貰えますか?」


「……少し揉めるでしょう。だけど、もう数年活動していないアタシ達ですからね。条件次第ですが、発行はされると思います」


 大丈夫そうか。


「それでは、行きましょうか」

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