第33話 レクチャー3
夕飯を買って、宿屋へ戻る。自分の部屋で楽にして時間を潰すことにした。
街を見ると、日が暮れてから人の流れが増え始めた。
「日の出と共に移動して、日暮れに帰って来るんだな……」
何となく、この街の人達の生活パターンが分かって来た気がする。
俺もこの街で生活するのであれば、習う必要があると思う。
「ステータス」
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名前:ショート・シンドウ
レベル:688
HP:100
MP:251
STR(筋力):100
DEX(器用さ):10
VIT(防御力):70
AGI(速度):100
INT(知力):236
スキル:スマホ所持、結界術、生命置換、空間障壁、身体強化、言語理解
ユニークスキル:裏当て
魔法:雷、回復
称号:異世界転移者、
スキルポイント:251
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今の自分の確認だ。
スキルポイントは振っていない。悪手だとは思うけど、正直街の周辺は雑魚だ。慌てる必要はなかった。鬼みたいな魔物は危なかったけど……。
スキルポイントは、今後の身の振り方を決めてからで良いはずだ。
──コンコン
そんなことを考えていると、ドアのノックが鳴った。
ドアを開ける。
「こんばんは。ヒナタさん」
「……こんばんは」
ヒナタさんは部屋に入って来ると、またベットに座った。
今日は果汁を買って来てある。コップに移して手渡した。
「……ありがとうございます」
相変わらず震えているな。緊張しているのが見てとれる。
俺から襲う気はないのだけど……。
まあ良い。話を始めよう。
「それでなんですけど、技能石を取って来ました。余ったので、使ってみませんか?」
ベットに技能石を二つ置く。
ヒナタさんは、黙ってしまった。かなり警戒されている。
「何の技能石ですか?」
「闇魔法と、隠密スキルです。グールの闇魔法を取れれば、影魔法が派生するのですよね?」
ヒナタさんは、目を見開いて驚いている。
「……対価は? アタシはお金を持っていませんよ。体でもないのですよね?」
「実演して欲しいだけです。スキルビルドがまだ決まっていないので」
ヒナタさんは、かなり警戒している。昨日怒らせてから、俺には作り笑いすらして来なくなっていた。
「売らないのですか? それなりの金額になりますよ?」
「今は、白金貨が二枚と、数えきれない金貨を持っています。それに、明日素材の査定が終わります。資金的には余裕があるので、売る気はないですね」
ヒナタさんは、顔を真っ赤にして怒って来た。
「嫌味ですか? この世界に来て数日でそこまで稼げるとか! 自慢ですか! それとも、哀れみですか!?」
どうも俺は、ヒナタさんを怒らせる言動をしてしまうようだ。
「俺の成長の方向性を決めるために、付き合って貰いたかったのですが……。嫌なら良いです」
技能石を回収しようとしたら、ヒナタさんが慌てて取り上げた。
技能石を胸の前で力強く抱えている。そして、涙を流し始めた。
「……ありがとうございます。でも、もう少し優しくして欲しいです」
「すいません。女性とは縁遠い生活を送って来たので。でも、妹と母親は、こんな俺でも普通に接してくれました」
女性との接し方が分からない。教えて貰いたいものだ。
その後、ヒナタさんが技能石を割った。
俺は、ヒナタさんが泣き止むまで待つことにした。
◇
「まず、隠密スキルになります」
そう言うと、ヒナタさんの気配が消え出した。これは知覚出来ないと言った感じだ。今は目の前で使われたので、まだ認識出来るけど、視線を外したら見失いそうだ。それと、背後から迫られたら不意打ちを食らうと思う。
「隠密スキルと対になるのが、感知系のスキルになります。ソロで行動するのであれば、取ることを勧めます」
感知系か……。覚えておこう。いや、技能石は買えるはずだ。
「感知系というのは、常にスキルを使う感じになりますか?」
「パッシブスキルと言って常に発動する感じですね。亜人なら生まれつき持っています。意識的に使うのがアクティブスキルになります。結界術を使用していましたよね? こちらは分かると思います」
覚えておこう。それと、感知系と言うのだから、複数あるはずだ。これは選びたい。
隠密スキルは、もう一つあるし俺が使っても良いだろう。これは、有用だ。場合によってチートになると思う。だけど、簡単に取得出来たので、対策もされていそうだ。何時もの如く、応用を考えないとな。
「ふむ。とても参考になりました。それでは、闇魔法の実現をお願いします」
ヒナタさんの体から、黒い霧のような物が出始めた。
「闇魔法は、基本的この黒い闇を使用します。物理的に排除出来ないので、顔に纏わせると視覚と聴覚を奪えます。レベルが上がれば、相手のHPとMPを奪うことも出来ます。最上位になると、瞬時にHPをゼロにする魔法もあります。これは基本的な使い方になりますが、応用の幅は広いと思います」
これだけでも強力だと思う。感覚を奪うデバフ効果と、吸収出来るというバフ効果。それと攻撃能力もあるのか。
キャラメイク時に知っていれば、雷ではなく闇を選んでいただろうな。
だけど、そんな俺を置き去りにして、次の瞬間に驚くべき事が起きた。
目の前のベットが、影に沈んだのだ。
「え!?」
「これが、影収納になります。容量はMPに依存するのですが、アタシであれば、この部屋のくらいの容量を収納出来ます」
そう言うと、ベットが戻って来た。
これは便利だ。俺は、ソリを作って素材を運んでいた。結構重かったし、素早い移動も出来なくなる。
そうか、これがこの世界の普通なんだな。
「それと、転送になります」
ヒナタさんが、コップを影に入れると、俺の影からコップが出て来た。
「事前に起点を決めておけば、影の間での物資の移動が可能となります。それこそ、何十キロも離れた場所との手紙のやり取りや、山奥に塩を送るとか……。有用性は理解出来ると思います」
マジにチートだな。あの神様も教えてくれれば良いものを。
「蟻が街に侵入した時に動きを止めた魔法は分かりますか?」
ヒナタさんが手を俺に向けると、俺の影が動いて、手足を拘束した。力を入れるが振り解けない。
「影縛りですね。数秒ですが、物理的に破壊不可能な拘束具になります」
「闇ではないのですね」
「そうですね。なので、闇魔法と影魔法は区別され始めています。十年くらい前かな? 英雄の称号を受けた人が開発しました」
英雄ね……。初見では、対応不可能だな。それぐらいチートと思える。
「英雄は一人ですか?」
「歴史に名を刻んだ英雄は、もう一人います。空間魔法の使い手なのですが、取得方法は見つかっていません。技能石を落とす魔物が不明なのです。一説には、魔王クラスだと言われていますが……」
ふむ……。上はキリがなさそうだ。
そして、空間魔法が見つかっていない……、か。回復魔法を覚えた時のことを思い出す。
あの時は、『任意』の魔法が取得出来た。確か、魔法系のボスゴブリンだった気がする。そうか、任意とはそういうことか……。
このことは、伏せておいた方が良いと思う。この世界の人は、任意に魔法が取得できる技能石を知らないみたいだ。
俺だけの知識だ。アドバンテージになりえると思う。今後の状況次第では、情報を売るのも良いし、俺のレベルが上がったら、取りに戻るのも良いかもしれない。
まあ、今は保留かな。記憶に留めるだけで良いよな。
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