第32話 街4

 朝日が昇ったので、街に帰ることにした。

 とりあえず、人型の魔物を一晩狩り続けて、技能石を三個手に入れている。目的の技能石がこの中にあれば良いのだけど……。まあ、ハズレだった場合は、また来れば良い。

 ここで、ふと気が付いた。


「……魔物の気配がないな。狩り尽くしたかな?」


 一方向だけど、魔物の気配が消えてしまった。神様は、間引いて欲しいと言った。駆逐とは違うと。まあ、また増えるんだろうけど、当分は、この方向には向かわない方が良いだろう。魔物に会えないと思うので。

 そんなことを考えていると、街の城門に着いた。


 城門に着いたのだけど、門はまだ開いていない……。少し早すぎた?

 城壁を背にして、開門まで待っていると、すぐに門が開いた。

 大勢の住民が飛び出して行く。横目に人の流れを見ていると、10分くらいで人の流れが止まった。

 衛兵にギルドカードを渡して街に入ろうとしたら、疑問を投げかけられてしまった。


「昨晩は、森で過ごしたのか?」


「討伐に夢中になって、気が付いたら城門が閉められていました。夜は、入れなくなってしまうのですね」


「……そうか。気を付けてくれ」


 衛兵は、少し驚いた表情をしている。

 夜中に抜け出したことは、伏せることにした。多分、問題になるだろうから。警備の怠慢だろうし。

 そのまま、商業ギルドへ向かう。

 やはり、朝は活気があった。皆、今か今かと何かを待っている。そうなると、先ほど城門から出た人達は、冒険者ギルドか労働者ギルドのメンバーかな?

 この後、依頼の奪い合いでも始めるんだろうな。

 だけど、俺は別なカウンターへ向かう。『鑑定』と書かれたカウンターだ。今の時間は誰も並んでいない。

 昨晩得た三個の技能石を鑑定して貰うことにした。料金は、一回につき銀貨一枚。だけど、内容を知れるのであれば、安いかもしれない。

 この街に来る前は、中身も知らずに取得していた。結界術などは、補助となる道具を使用しなければ、使えないほど俺に向いていない。今でこそ強力なスキルになっているけど、正直、俺の雷魔法とは相性が良くなかった。


 技能石を鑑定して貰ったところ、〈魔法:闇〉が一つと、〈スキル:隠密〉が二つでだった。良かった。目的の技能石が含まれていた。

 少し嬉しいかもしれないな。

 俺は鑑定料を支払って、別なカウンターへ移動した。次は素材の買取カウンターだ。ここも朝の時間は誰も並んでいない。

 その後、素材の査定を依頼して、商業ギルドを後にした。


 宿屋に帰り、朝食を頂くことにしたのだけど、俺が玄関から入って来たので、みんな驚いていた。そういえば、服も汚れている。

 昨晩の俺の行動は、この街の常識からは外れてるんだろうな。自重しよう。

 朝食後、自分の部屋に戻ることにした。部屋には、神様から貰った服が畳まれて置かれていた。うん、綺麗だ。丁寧な仕事をしている。

 着替えてから、着ていた服を洗濯して貰うために、籠に入れて部屋の入り口に置く。これで、洗濯してくれことになっている。

 その後、ベットに横になり、ひと眠りすることにした。





 昼に目が覚めた。正直体内時計が狂っているかもしれない。明日からは、夜に寝よう……。

 小腹が空いたので、宿を後にして街に繰り出そうとした時だった。

 ヒナタさんを見かけた。客引きを行っているみたいだ。

 ヒナタさんと視線があったけど、すぐに外されてしまった。

 まあ、気持ちも分かる。

 俺は彼女の期待を裏切り続けている。怒らせる言動もしたしな。

 気にしていても仕方がない。

 俺は宿屋を後にした。


 少し散策したのだけど、行くところもなかったので、また教会に着いてしまった。

 シスターさんに寄付金を渡そうとすると、今日は不要と言われた。昨日は、額が高すぎたのかもしれないな。資金的余裕があるとしても、少し自重しよう……。

 女神像の前で、再度敬礼する。


「……あれ? 何も起きない?」


 ──ピロン


 ここで、スマホが鳴った。


『そうそう神託は、授けられません。神様より』


 あれが神託かよ……。ため息が出た。

 シスターさんに挨拶をして、教会を後にする。無駄足になってしまったな。





「くぁ~」


 欠伸をする。

 どうしようか。やることがない。街の散策も終わってしまったし。そもそも、それほど大きい街ではないんだ。

 少し迷ってから、労働者ギルドに行くことにした。用はなかったけど、知見を広げる意味で見ておきたかった。朝、城門から出て行った人達がどのような依頼を熟しているかを知るだけでも、この世界の事が少しは理解できると思う。


 労働者ギルド内は、閑散としていた。

 ここで目が合った。ギルド職員が、手招きしている。その受付カウンターに向かう。


「街に侵入した蟻を倒した、お兄さんですよね? 労働者ギルドに何か御用ですか?」


「暇だったので、どんなところか見に来ただけです」


 受付嬢は、笑い出した。


「あはは。労働者ギルドに来るなら、朝に来ないと仕事はありませんよ。このギルドは、朝募集をかけて日雇いの仕事を斡旋すると考えてくださいね」


「……長期契約する人は、いないのですか?」


「う~ん。認められた極少数の人はいますね。スキルが生えて来れば、厚遇も受けられます。でもその後は、雇用主になって貰うのが普通かな~」


 スキルが生えるのか……。〈生命置換〉が思い当たる。そうか……、技能石以外でのスキル取得方法もあるんだな。ステータスの割り振りと、行動で決まるのかもしれない。俺も、刃物を持ったら"剣術"とか生えるのかな……。でも、ハンマーを振るっても変化がない。"鈍器術"とか生えてもいいはずなんだけど。


「どんなスキルが生えるのですか?」


「うん? 蟻を瞬殺したのに興味があるの? そうね……、鍛冶・彫金・木工・農業あたりが多いかな……。薬学や錬金術なんてのもあるけど、そちらは専門の教育を受ける必要があるので、商業ギルドね」


 建設系と生産系のスキルなのかもしれない……。それと、労働者ギルドを選ぶと、この世界への貢献度も低くなると思う。街中での安全な仕事。かなりの重労働を毎日熟し続けなければならない。

 今の俺のスキルでは選べないな。ステータスでDEXに極振りすれば、可能かもしれないけど。


「ねえ、ねえ。何を考えているの? 答えてあげるよ?」


 少し打ち解けた感じだ。というか、距離感が近い。


「労働者ギルドは、何となく分かりました。次は、冒険者ギルドに行ってみます」


「冒険者ギルトと商業ギルドの違いは分かる?」


 そういえば、知らない。


「討伐と、流通とか書かれていましたね……」


 満面の笑みを浮かべる、受付嬢。


「将来的に店を出す気なら商業ギルドを選ぶと良いわ。護衛の仕事も商業ギルドね。討伐と言うか狩猟と採集のみで生きて行く気ならば、冒険者ギルドの方が融通してくれるわ」


「なんで分かれているのですか? 将来的に移動もできないのでしょう?」


「あはは。単純な話よ。昔は、ギルドは一つだったのだけど、互いに罵り合った。それで別れたの。今も遺恨は残っているわ」


 根深そうな問題があるんだな……。まあ、それは良い。

 今の俺は、魔物の討伐しか能がない。採集も何を採れば良いかも分からない状態だ。だけど、加工くらいは覚えた方が良いかもしれない。

 それと、店か……。怪我をして動けなくなった時の事も考えておいた方が良いだろうな。俺ならば、料理店かな? 屋台から始めてみるか。まあ、そんな事が起きないように、怪我には注意して行こう。

 その後、お礼を言って労働者ギルドを後にした。

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