第31話 レクチャー2

 必須魔法を取りに行けない? 何があったのかな? 戦力に数えないで欲しいとも言われたし。


「……あなたのことを、聞いても良いですか?」


「……面白くないですよ。パーティーを組んでいたのですが、一人だけ生き残りました。その後は、魔物を見るだけで嘔吐してしまいます。もう、この世界で生きるのは無理なんです。そんな時に、裏路地で倒れていたアタシを店主が拾ってくれて……。でも、体を売る勇気も出なくて……」


 一人だけ生き残ったのか。


「俺は神様に、『元の世界に帰る』という報酬も提示されましたよ?」


 ヒナタさんが驚いた表情で俺を見る。


「それは……、無理のある内容かもしれません。どんな取引をしたのかは、人それぞれなんです。討伐系なら、魔王とか獣王を倒すくらいでないと、叶えられないって言うか……」


 まあ、そうだろうなとは思っていたけど。結構、ハードルが高そうだ。


「ヒナタさんには、提示されていないのですか?」


「……アタシは、前世に興味がありません」


 なるほどね。そういうことか。それで、『人それぞれ』なんだな。

 ここで、話題を変える。


「ユニークスキルは、持っていますか? チートがいるのであれば、どういう人達のスキルが該当するかを、教えて欲しいのですが」


 絶句する、ヒナタさん。


「それは……、隠し合っています。知られると、弱点を握られるのと同義なので」


「街の中での殺し合いもありえると?」


 ヒナタさんは、小さく頷いた。街は、安全地帯ではなかったのか……。


「安全な街とかありますか? 法整備が整っている街とか……」


「……聞いたことがありません。ここは、中世や古代の世界と考えてください」


 ため息が出た。そして、ヒナタさんは、俺と近い時代の人なんだな。

 その後、闇魔法と影魔法の技能石について聞いてみた。森に夜中に出る、シャドウ族という魔物を狩れば良いらしい。見た目はグールに近く、魔法攻撃力があるのであれば、簡単に倒せるとのこと。

 それとステータスの割り振りだ。

 極振りにするか、全て均等に割り振るかで、転職時の職業が決まるらしい。これは、考え方次第らしく、上級職の間でも意見が割れるんだそうだ。過去に名を馳せた人達でも一貫性はないらしい。


「ふぅぁ……」


 ここで、ヒナタさんが欠伸をした。時計を見る。


「そうだった。時計の読み方を教えて貰えませんか?」


「その時計だと、一日12時間になります。24時間制に直すなら、今はちょうど0時くらいですね」


「24時間制にしなかったのですか? 転移転生者が知識を持ち込んだのですよね?」


「かなり昔の話らしいので、私も分からないです。12時間制が、この国の常識としか……」


 まあ、そうだな。この世界の人達は12時間制が分かり易かったんだろう。

 これは、俺が合わせる必要がある。

 しかし、話し込んでしまった。


「今日はここまでにしましょう。出来れば、また明日お願いします」


「……泊まらせては、くれないのですか?」


「……考えさせてください。とりあえず、今日はお開きで」


 残念と安堵が混じった表情で、ヒナタさんが部屋から出て行った。

 ……さて、行くか。





 俺は装備を整えて、窓から屋根に飛び移った。

 今の時間だと、シリルさんがカウンターにいそうだ。正直あの人は苦手だ。

 そのまま、屋根を伝って一気に城壁へ。

 城壁は、15メートル程度の高さだ。普通に飛び降りたら骨折するだろうけど、今の俺には、空間障壁がある。

 魔力を送って、小さな足場を連続で作り、着地の衝撃を和らげた。


 着地後、すぐさま物影に隠れる。


「衛兵は気付きもしないのか……」


 足音は出してしまったけど、警備に変化がない。というか、見張りすらいない。

 ザルすぎな気がする。

 

 「この街は大丈夫なんだろうか? いや、俺の心配することじゃないな。それよりも、最短で行きたい。時間がないので急がないとな」


 独り呟いて、俺は森に入った。





「シャドウ族……。グールに近いと言っていたから人型のはずだ」


 ここで、嫌な記憶が蘇る。3メートルくらいの、鬼のような魔物だ。あれは避けたい。

 とりあえず、城壁の周りを一周すると、人型の魔物が集まっている場所を見つけた。

 身長は俺よりも少し低いくらいだ。それと、武器防具を装備しており、素肌部分は全て覆われている。顔も見えない。リビングデットと同系統かもしれないけど、俺には見分けがつかなかった。


 俺は木を登り、上空より俯瞰する。


「……十五匹かな? まあ、固まってくれているので楽だわな」


 その後、四本の短剣を地面に投擲して、結界術を発動させる。数匹逃れたが、そいつらは追撃して討伐した。


「……気が付いてはいたけど、街の近くは雑魚だよな。転移場所や、森の深い所の方がよほど手強かった」


 率直な感想が出た。そして、魔石とドロップアイテムを回収する。


「……この方向に進めば、シャドウ族に会えるのかな?」


 俺は、森の奥に入って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る