第30話 レクチャー1

 適当な屋台で夕食を済ませて、宿屋に帰る。

 共同浴場で、汗を流して部屋に戻った。

 ちなみに、シリルさんはいませんでした。


「スマホを見てみるか……」


 俺のスキルでもある。ていうか、〈スキル:スマホ所持〉ってなんだよ。現状、神様からのメールでのメッセージしか使い道がなかった。

 だけど、預金残高を見てその考えが変わる。


「……なるほどね。俺の口座から、愛美なるみの口座に支払いされるのか」


 支払金額は、一日数千円から一万円程度だった。少ない金額だけど、妹と母親なら十分に生活出来ると思う。節制して生きて来たんだし。

 その後、グループチャットアプリを開いてみる。


 妹の愛美なるみと、母親の加奈かなの履歴が残っている。俺の異世界転移後の履歴も見れるみたいだ。

 どうやら、俺は行方不明扱いになっているらしい。そして、毎日送金がされている。警察に捜索願いも出されているけど、見つからないみたいだ。まあ、今いる場所は、異世界だし、見つけられるわけがない。

 妹と母親から俺へのメッセージ履歴が、毎日入っている。これで、生存を証明出来ているのかな……。


「……心配をかけてしまっているな。でも、これ以上のことは、今は出来ない」


 俺は、スマホを力強く握ってしまった。

 出来れば一緒に暮らしたかった。貧乏だったけど、生計は立てられていた。だけど、今はそれすらも叶わない。


「こんなところで何しているんだろう、俺は……」


 少し涙が出てしまった。


 その後、気を取り直して、俺からグループチャットアプリに送信してみたのだが、電波が届かないと出てしまった。

 まあ、それはそうか。ここは異世界なんだ。俺から送信出来てしまっては、普通に遠くでバイトしているだけになってしまう。

 その後、アプリを一つずつ開いて行く。

 まあ、俺はスマホにアプリをほとんど入れていなかった。ニュースぐらいは見ていたけど、基本は家族との連絡用にしか使っていなかった。


「ニュースは、更新されないのか……」


 まあ、期待してはいなかったので、確認だけだ。元の世界の情報を得られたら、一攫千金も夢ではないと思えたけど、インターネットが繋がっていなかった。ネット検索出来れば、この世界で学者になれたんだけどな……。

 それと、見慣れないアプリがインストールされていた。アプリのアイコンは、『神』だった。

 俺は、そのアプリを開かずにテーブルに置いた。今は、開く気はない。

 そして、ベットに横になる。


「今日は疲れた……。明日は、各ギルドの依頼とやらを見に行くか。多分だけど、朝早い方が良いんだよな」


 そんなことを考えて寝ようとした時だった。


 ──コンコン


 ノックが鳴った。

 俺は立ち上がって、ドアを開ける。


「……ヒナタさんでしたっけ?」


 宿屋の店主のウラさんに紹介して貰った人だ。

 ただし、ヒナタさんは、ばつが悪そうに俺に視線を向けない……。何しに来たんだろうか?


「……部屋に入れて貰えますか? お話したいことがあります」


「一階に行きませんか? 若い女性と二人きりの状況は避けたいです」


「……良いですよ。アタシで良ければ、好きにして貰っても。今日はそれくらいのことはして貰ったわけですし。でも、シリルさんが怒っていることも理解しておいてください」


 そう言って、ヒナタさんは部屋に入って来た。そして、ベットに腰かける。

 ヒナタさんは、震えている。そこまでして来ることもないと思うのだけど……。

 俺は椅子をヒナタさんの少し前に置いて座った。





「話とは何ですか?」


 とりあえず、聞いてみる。


「まだ、この世界と言うかこの街に不慣れでしょうから、説明しに来ました……」


 ほう? 情報をくれると言うことか。それはありがたいかもしれない。


「まず、ステータスの説明からですね。レベルの上限は999になります。ただし、レベル100で転職出来ます」


 これは、神様から教えて貰った事と同じだ。


「今、レベルが1上がると、スキルポイントが1上がりますよね? 中級職になると、レベル1でスキルポイントが5貰えるようになります。上級職になるとスキルポイントが10貰えるようにもなります。最上位職は、明かされていません」


 力が抜けた……。だらしない座り方をする。


「……そういうシステムなのですね。職業を得ないとあの森で会った魔物には勝てないと言うことが分かりました。

 それと、出来るだけレベルを上げてから転職した方が、最終的な総合スキルポイントが高くなると」


「え? 蟻を倒していましたよね? 上級職であり強力なユニークスキル持ちだと噂されていますよ?」


「……強力なスキルではないですね。相手の力を使ったりするので強力に見えるだけかもしれませんが。内容を知れば、地味だと言うことが分かると思います。それと無職と言われました」


「そうですか……。そこでなのですが、注意です。鑑定スキルと強奪スキルをまず警戒してください!」


「鑑定スキルは聞きました。それと、スキルビルドを明かさない方が良いことも。ですが、強奪スキルもあるのですか?」


「殺した相手のスキルから技能石を作り出すスキルです。魔物が持っていたのですが、人族の中にも持っている者がいます」


 殺した相手……ね。まあ、俺は狙われることはないと思う。

 前の世界で、達人が普通に使える技術なんだ。鑑定スキルで確認された時点でハズレ認定を受けると思う。使い方次第だけど、他に有用なスキルがありそうだし。

 それと俺からも質問してみるか。


「技能石の使用上限とかはありますか?」


「基本的にありませんが、取りすぎると脳が負荷に耐えられなくなります。それと、身体能力系は、一つにしておいた方が良いですよ。パワー系とスピード系を同時に取った人は……、短命でした」


 これは、覚えておこう。もう一つ取っているしな。


「魔法についても教えてください」


「基本は8系統になります。火水風土雷氷光闇です。ですが、今は闇魔法から派生した影魔法が人気です。数年後かもしれませんが、9系統になるかもしれません」


「影魔法ですか? あ~、あれか。蟻を足止めした時に黒い何かが襲い掛かっていた……」


 ヒナタさんが、頷いた。


「それは拘束系の魔法ですね。それよりも収納魔法が有名です。影収納と呼ばれていて、数トン程度の荷物であれば、異次元に納めることが出来ます。しかも時間停止機能付きで……」


「……便利ですね」


「取りに行くことを勧めます。多少危険ですが、必須魔法にもなってきています」


 必須か……。それほど便利な魔法なんだな。

 そうか、俺は大量の荷物をソリで引いて街中を移動していたんだ。注目もされるか。この街で初日の俺の行動は、かなり常識から外れていたんだな。


「その影魔法を見せて貰っても良いですか?」


 ヒナタさんは首を横に振った。


「アタシは、取れていません。そして、もう取りに行けるだけの気力もありません……」

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