第28話 迎撃3

 宿屋内の一部屋に案内された。

 お茶を一口飲む。


「……今回のような襲撃は、常にあるのですか?」


「たまにあるね。城壁も完璧じゃないんだ。破られることもしばしばある。ゴキブリやムカデなんかは城壁を登って来るしね。それに飛ぶ魔物は少なからずいる。陽の光が遮られるほどの昆虫が襲来したこともあるんだよ」


 壁を登る……か。昆虫族に多そうだ。それと、飛翔生物か。バッタかな? 覚えておこう。


「何故こんな危ない場所に住んでいるのですか?」


「危ない……か。まあ、そうだね。だけど、私達には住む場所は選べないんだよ。王族に決められてしまってね。職業を選べるだけマシなんだけどね」


 王族? 住む場所を選べない?


「もう少し詳しく」


「この街は、城壁を立ててから十年程度の新しい街なんだ。私達は強制移住を強いられた。でも奴隷じゃないよ? そういう国だと思ってくれ。それで、私達の使命は、この辺の魔物を駆逐して城壁の外も使えるようにすることなんだ。まあ、期限は、百年後とかだから、あってないような命令だけどね」


「……俺の立場はどうなりますか?」


「何処かのギルドと契約したのだろう? 余りこの街から離れないことを勧めるよ」


 ため息が出た。そうか、身分証というのはそういう意味か。


「大体分かりました。それでは次に、この街の脅威について教えてください」


「今のところ、最大の脅威は蟻だね。近くに巣があって火攻め、水攻めを行ったのだけど、女王蟻を倒し切れなかった。その後、この街とは敵対関係になってしまい、常に襲撃に怯えている」


「この街の戦力は? 先ほど見た限りでは、防衛が精一杯のように感じたのですが」


「冒険者ギルドがあるだろう? 戦力となる強い奴らは、この時間帯は森の中だ。討伐を行って素材集めをしている。言ってみれば、今の時間が一番の手薄だね」


 ふむ……。俺はこの街から移動出来ないのであれば、この街の戦力を把握した方が良いな。


「衛兵は、戦力にならないのですか?」


「……領主に気に入られたエリートと言えば聞こえが良いかもしれないが、実戦を繰り返しているギルドメンバーに比べると、見劣りしてしまうね」


 頭をガリガリと掻いた。

 この街のシステムが悪そうだ。まあ、俺が考える事じゃない。


「話が変わりますが、お二人は戦えないのですか?」


 ウラさんと女性が顔を合わせる。


「わたしゃ、転移転生者じゃないんだ。ユニークスキルを持っていない。鉱人ドワーフと人族とのハーフでこんなナリなんだが、兄さんに腕力で簡単に負けるだろう。転移転生者は、現地人からすると、それほど格上なんだよ。でも、そうだね。わたしゃなら、重装備と大盾を持ては、盾役くらいは熟せるかもしれない。重いからね」


「そちらの女性は?」


 女性が、ビックっとした。そして、目が泳いでいる。


「この娘は、ヒナタだ。転生者なんだが、……今はこの店で働いている。昔ちょっとあってね……。戦力には数えないでくれ」


 まあ、予想通りだな。戦える力はあるが、戦えない人なんだろう。

 それと、偽名の気がする。もしくは、苗字を名乗っているのかな?


「ヒナタさんですね。覚えておきます」


「……この娘は、シリルとは違ってね。夜の相手は取っていないよ」


「ああ、そういう意味じゃないです。作り笑顔が気になったので」


 ヒナタさんは驚いた表情で俺を見て来た。


「……どういう意味ですか」


 少し怒らせてしまったかな?


「俺も、前の世界で辛い時期がありました。でも、家族がいたので歯を食いしばって生きていたんです。でも、辛い時には辛い顔をしても良いと思いますよ?」


「……私はどんな辛い時でも笑顔を絶やさなければ、道は開けると教えられました。だけどあなたは、何時も真顔ですね。無表情を貫いているのですか? ニヒル気取りですか? 強力なユニークスキルを貰ったので余裕があるのかもしれませんが、私はギリギリの生活なんです」


 ため息が出た。


「他人の生き方に口出しする気はないです。それと、今は資金的に余裕はあるけど、森の真ん中に転移させられて危険な森を横断させられたのです。俺にも余裕はないですよ。この世界のことも良く分らないし、今後の身の振り方も決まっていない」


 ヒナタさんは、睨んで来た。この人とは、合いそうにないな。

 俺とは、何処まで行っても平行線だろう。


 その後、ウラさんと会話してギルドに行くように勧められた。

 また、宿屋の前に置いて行った短剣を回収しておいてくれていた。ありがたく受け取る。

 宿屋を出る時に、シリルさんが睨んでいたけど、視線を向けずに宿屋を後にした。

 睨まれてまで、この宿屋に拘る理由はないんだよな……。


「宿屋を変えるか……」





 商業ギルドに着いた。

 ギルド職員が駆け寄って来て、別室に案内される。

 商業ギルド長のユージが、部屋に入って来た。ユージが俺の目の前に座る。


「……今日は助かった。礼を言う」


 頭を下げて来た。


「ギルドカードを受け取ったから、俺もこの街の一員なのでしょう? お礼を言われる必要はないと思うのですが」


「ああ。そのことなのだが、まだ正式に決まってはいないんだ。猶予期間があってな。他のギルトとの再交渉や、他の街に行っても良い。それと、王族貴族と契約しても良いんだよ」


「……猶予期間は、どれくらいですか?」


「明確には決まっていない。だが、ランクアップを受けたら本決まりだ」


 ランクアップとはなんだ? ギルドカードを見るけど、そんなことは書かれていなかった。

 まだまだ、情報が不足している。

 そういえば、スマホを宿屋に置きっぱなしだったな……。


「それと、言い辛いのだが、ショートの持って来た上級ポーションを使ってしまった。重傷者が出てな、一刻の猶予もなかったんだ。査定前だというのに手を付けたことになってしまった。信用問題になるのだが、許して貰えないだろうか……」


 テーブルに中身の詰まった袋が置かれた。


「ポーションですか? 俺の持って来た薬品が役に立った?」


「ポーションも知らんのか? 良く森を抜けられたものだ」


 本当にそうだ。

 その後、ポーションについて教えて貰った。薄い青い色が下級ポーションであり、紫色が上級ポーションなのだそうだ。

 色が白くなると、魔力が霧散したことになるらしく使えないとのこと。そうなると、俺の持って来た半分は、廃棄処分になりそうだ……。結構かさばったし、重かったのにな。


 その後、教会の場所を教えて貰った。本当は、朝食の後に行く予定だったのだけど、忘れそうになっていた。先に防具を揃えていたし。


「ありがとうございます。ポーションは、今度使ってみます。それと、教会に行ってみますね」


「最後に忠告だ。冒険者ギルドが接触して来ると思う。ショートの腕であれば、稼げるだろうが、心を壊す奴も多い。特に、ショートは、優しい性格をしていると思う。出来れば、このまま商業ギルドに残って貰うか、労働者ギルドに行って貰いたいと思う」


 俺は、優しいのか……。初めて言われた。

 それと冒険者ギルドか……。狩猟や採集を主な活動とするギルドだったよな。

 商業ギルドに拘る必要もないけど、元の世界の生活を考えれば、労働者ギルドの方が合っているかもしれない。


「調べることが多すぎて、何も決められませんよ」


 それだけ言って、部屋を出た。

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