第27話 迎撃2
とりあえず、六匹目の蟻は討ち取った。
ただし、後四匹はいるはずだ。
残りが心配だな。衛兵に任せて来たけど、善戦はしていなかった。
「ウラさん。建物に入っていてください。俺は城門の方を見て来ます!」
「頼んだよ」
ウラさんと看板娘の女性が、宿屋に入って行った。だたし、女性は、顔が真っ青であり、ウラさんに肩を抱えられていた。まあ、あんな若い女性に戦闘を強いるのは、無理があるだろうな。
経験を積ませれば、戦えるようにはなるかもしれないけど、無理強いするのも良くない。
宿屋で働いているのだし。
俺は、蟻が塵になったのを確認して、城門に戻った。
◇
戦闘は続いていた。見える限り残り二匹だ。
戦闘職と思われる人達が、防衛に当たっている。
ただし、槍や剣はあの厚い外骨格に阻まれて、ダメージを与えられていない。
尻尾部分に何本か槍が刺さっているけど、致命傷にはなりえないと思う。
ここで失敗したことに気が付いた。
「短剣一本しか持って来ていない。結界術が発動出来ないな……」
こうなると、俺の武器はハンマーとメイスだけになる。
いや、雷魔法を周回させる金属があれば、結界術は発動出来る。壊れた武器を拾うか?
う~ん、迷っているだけ無駄だな。……背後から近づいて、一撃入れるか。
だけど、突撃しようとした時に、不意に声をかけられた。周囲を見渡すが、誰もいない……。
『宿屋街に向かた蟻はどうなった?』
再度、周囲を見渡すが誰もいない。声だけ届けられている?
もしくは、近くにいるけど、俺が感知出来ないのか?
考えても無駄だと判断して、一応回答してみる。
「……倒して行きました」
『これから足止めする。一撃を入れてくれ!』
回答が来た。
手段は分からないけど、何かしらの手段で俺に声を届けている。スキルかもしれない。
まあ、詮索は後にしよう。
俺は、ハンマーを構えて、脚に力を入れた。
次の瞬間に、驚くべき光景が目に映った。
〈蟻の影〉が立ち上がり、蟻に纏わりついたのだ。
一瞬驚いたけど、俺は一歩で間合いを詰めて、ハンマーを蟻に叩き込んだ。
何時もの如く、蟻が爆発した。
ここで思う。
『足止め役がいれば、俺は結構活躍出来るかもしれないな……。命中の問題も解決出来るんじゃないのか?』
まあ、今考えることじゃないか。
俺は、最後の一匹に突撃した。
◇
結果的に重傷者は数人出たけど、死者は出なかったらしい。
骨折すらも瞬時に直せる薬品が、この世界にはあるんだそうだ。
さすが、魔法のある異世界と言ったところだろう。前の世界よりも完全に劣っている世界でなくて良かったとも思える。
城門の応急処置も終わっている。
土嚢を積んで一時的に塞いただけだけど。
この後、時間をかけて修理するんだろうな。いや、魔法があるので時間はかからないのかもしれない。明日、修理方法を観察するのも良いかもしれない。時間はあるんだし。
ここで、声をかけられた。その声は、頭に直接届いた声の主だと思う。
そちらを向くと、城門を魔法で塞いでいた六人だった。
「君がいてくれて助かったよ。しかし、凄い攻撃力だね。もしくは、その武器が凄いのかな?」
「……武器に刃物を選ばなかったので、蟻に対して効果が高かっただけですね。打撃武器で良かったです」
腹の探り合い。
無意味かもしれないけど、ユニークスキルのことは隠したい。正直、地味なので知られても不都合はないかもしれないけど、街中での敵対がないとは言い切れない。
「ユニークスキルなのかな? 蟻が体内で爆破したように見えた。かなり強力なスキルのようだね」
「……その認識で合っています」
違うんです。実は、地味なんです。詰まるところ腕力頼りなんです。雷魔法も若干は使用しているけど、チートじゃないんです。
その後、適当な雑談というか事後処理の確認をしてから、宿屋に向かった。
一つだけ教えてくれたのは、〈念話〉というスキルがあることだ。言語理解の元になった、意思疎通が出来るスキルなんだそうだ。言語を使用しない意思疎通……、地味とも思えるけど、使い方によっては最強かもしれないな。覚えておこう。
◇
城門前は、衛兵が対応するとのことで俺は、宿屋に帰ることにした。防具を買ったお店は大丈夫と思う。確認は……、後にするか。
宿屋の前には、シリルさんがいた。俺を見つけると駆け寄って来て抱き着こうとして来た。
とりあえず回避する。
「ニャ!? む~……」
シリルさんが再度背後から襲い掛かって来た。俺は、アイアンクローで止める。シリルさんは、手足をバタバタさせている。
熱い抱擁とかいらないです。もしくは、雷魔法を纏って痺れさせてみるか? どれくらいの威力になるか確認したい。
ここで、声をかけられる。
「兄さん、助かったよ……」
店主のウラさんが、宿屋から出て来てお礼を言ってくれた。
「少し話せますか? この街のことが知りたいです」
ウラさんは頷いてくれた。それと、ウラさんの後ろに看板娘の女性がいる。
この人にも話を聞きたい。
俺は、ぐったりしたシリルさんを担いで、宿屋に入った。
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