第26話 迎撃1

「見て来ます。あなたは安全な場所に避難してください!」


 それだけ言って、店を飛び出した。

 そのまま、大通りに向かう。

 人の流れの反対方向に進む。だけど、人の波が邪魔で何も見えない。

 ……ダメだな。俺は身体強化スキルを発動して、壁を蹴り上がり建物の屋根へ登った。屋根から、街を見る。


「城壁は壊されていない……。城門を突破されたのかな?」


 そのまま屋根を伝って、魔物がいると思われる場所に向かった。

 俺と同じ考えの者は、数人はいるみたいだ。屋根を走る人が数人見える。

 そして、魔物が見えて来た。


「魔物は、全部で五匹かな? 今のところだけど。そうなると、壊れた城門を塞ぎに行くか、入り込んだ魔物を討伐するか……」


 見える限りだけど、まず数を把握した。

 ここで少し迷った。

 だけど、屋根を進んでいた数人は、迷いがなかった。魔法系と思われる三人が、城門を魔法で封鎖した。

 その三人を護衛するように、他の三人が陣形を組む。

 実に洗練された連携だ。

 そうなると、俺は魔物の迎撃をする以外に選択肢がなくなる。いや、ただ見ていても良いのだけど、この街の衛兵は苦戦している。手伝った方が良いよな。

 俺は一番近い魔物に突撃した。


 魔物は、蟻だった。ただし、長高二メートルはある。そして、外骨格が分厚そうだ。剣や槍は弾かれている。

 俺は、直上から飛び降りて、ハンマーを蟻の頭に叩き込んだ。

 落下のエネルギーを使用した不意打ちの一撃だ。そして、裏当ての発動。ついでに雷魔法を流し込む。

 蟻は、穴と言う穴から体液を噴き出して動きを止めた。その後、塵になり魔石を残す。


「後、四匹……」


 俺は、次の魔物に向かった。

 ここで、声をかけられる。


「そこの君! 宿屋街に一匹走って行った。そいつを仕留めてくれ!!」


 地面を蹴って、急ブレーキ。滑るように止まる。

 声の主と目が合う。昨日、地図をくれた衛兵だった。

 六匹目がいたのか……。目の前の四匹も状況としては、良くない。

 怪我人も多数見える。

 だけど、この場は衛兵達に任せることにして、俺は宿屋街に向かった。





 走る。とにかく、全力で走る。

 幸い、魔物の足跡は残っていた。そのまま進むと、魔物が見えて来た。

 誰かが対峙している。

 そして、その場所だ。俺が昨日から泊っている宿屋の前だった。


 俺は、ハンマーを振り上げて背後から襲った。だけど、蟻は素早く動いたため、空振りする。

 DEX値……、命中を何とかしないといけないかもしれない。不意打ちかカウンターでないと確実性がないな。


「兄さん!」


 声の方向を向く。


「あ~。店主のウラさんでしたっけ?」


 声の主は宿屋の店主だった。プロレスラーみたいなガタイは忘れられない。それと、数時間前だけど名前を教えて貰っていた。

 ウラさんは、鍋のフタと、長い包丁で防衛していたみたいだ。

 それと、もう一人……。

 俺をこの宿屋に誘った看板娘の女性がいた。

 再度、視線を魔物に向ける。

 魔物は、俺達を警戒しているようだ。

 俺は、二人との距離を詰めて、話しかけた。


「……二人は、戦力として期待して良いですか?」


「……わたしゃ、こんなナリだが無理だ。基本、街中で生きて来た。まあ、荒くれ者を制圧することは出来るが、魔物の命を奪えると思えるほど自惚れちゃいない」


 装備からして素人だ。ただし、ステータスごり押しなら行けそうだな。


「そちらの女性は?」


「……」


 返事はなかった。

 ただし、両手に魔法を纏っている。

 思案する。戦える術はあるが、経験がないと言ったところだろうか?

 それと、営業スマイルはなかった。俺的には、この真剣な真顔の方がよっぽど好みだ。


『この二人には頼れないな……』


 ここで蟻の魔物が、咆哮を上げた。


「蟻って声帯があったのか……」


 俺の間抜けな独り言に、女性二人が反応して驚いた顔を向けて来た。

 その隙を見たのか、蟻が突撃して来た。かなり素早い。俺の苦手とする相手だ。

 俺は素早く二本の短剣を抜き、左右の足元に短剣を投げて、地面に刺した。

 ここで、蟻の突進が止まる。罠を警戒する知能くらいはありそうだ。結界術を発動させるには、最低後一本の短剣が必要となる。出来れば、後二本地面に刺して四角形の檻を作りたい。

 俺が全力の一歩で間合いを詰めると、蟻は羽根を広げて飛び上がった。

 これはクワガタと同じ避け方だな。

 ただし、今回俺はまだハンマーを振るっていない。

 俺は、蟻が飛び上がり空中で一時停止する瞬間を狙った。このタイミングを逃すと、急激な上昇速度となり追えなくなると思う。

 ここで俺は、ハンマーのリーチを生かしての大振りを放った。

 だけど、蟻は脚でハンマーの一撃を防御して来た。

 裏当てが炸裂して、脚が三本吹き飛ぶけど、仕留められなかった。このまま街中を飛ばれると被害甚大になりそうだ。

 俺は、三本目の短剣を抜いて、蟻に投擲した。

 短剣は、蟻の尻尾部分に刺さる。

 だけど蟻は、徐々に高度を上げて行った。もう届く距離ではない。


「結界術発動……」


 俺は鞭状の雷魔法を作り出して、蟻に刺さった短剣を引き寄せた。

 それと先ほど地面に刺した二本の短剣と蟻に刺さった短剣の三本で、雷魔法を周回させる。

 追尾型の雷魔法が蟻を襲う。そして、蟻の半身は結界術の内部に入っている。蟻が徐々に雷に焼かれて行く……。

 数秒後、蟻が墜落した。


 俺は歩いて蟻に近づいて、ハンマーにて瀕死の蟻の頭を粉砕した。


「お兄さん、かっこいいのニャ!!」


 後ろを振り返ると、宿屋の二階以上から大勢のギャラリーが俺を見ていた。


「あの亜人の女性……。シリルさんだったかな?」

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