第25話 街3

 今俺は、街の大通りを散策している。とりあえず、この街を一周してみることにした。

 街は活気に溢れていた。

 皆忙しく働いている。特にギルドだ。喧騒がすごい。

 その中でも労働者ギルドに多くの人が集まっていた。亜人も多い。

 その喧騒を横目にお店を探して行く。


「まったく分からないのだけど……」


 看板の文字は読めるけど、何を売っているのかは分からない。

 ほとんどが雑貨屋だ。ただし、売っているものはさまざま。値段もピンキリ。

 場所が悪いのかもしれない。

 とにかく、ウインドウショッピングをしながら街を回った。


「何か勘違いしているのかもしれないな……」


 大通りの店は、装飾品や高級品が並んでいるけど、安い物は見当たらなかった。

 そこで、道一本奥に入ってみる。

 そうなると住宅街が並んでいた。個人宅が並んでいる。アパートとかマンションみたいな集合住宅も見える。


「整備された街なんだな……」


 計画されて作られた街並みなのは分かった。東西南北に太い街道があり、碁盤の目のように細い道が等間隔に作られている。

 土地も平坦だ。坂道などもなかった。

 住宅街を進んでいるのだけど、この通りにもお店はあった。看板が出ているのでお店はすぐに分かる。

 そして、一つの店に辿り着いた。

 窓から中を覗く。


「ここで良いかな? とりあえず入ってみようか」





「いらっしゃいませ」


 女性の店員が、営業スマイルで出迎えてくれた。練習した笑顔だな。でも、それほど嫌悪感のない笑顔だった。

 お店は、言ってみれば雑貨屋だけど、武器防具屋も扱っているみたいだ。


「こんにちは。予備の服が欲しいのですが、厚手の服はありますか?」


「採寸しますので、こちらへどうぞ」


 既製品で良いのだけど……。身長と股下、腕の長さ等を図られた。

 そして、一着の服を持って来た。素材は、レザーと綿を組み合わせた感じだ。

 それと、鱗を繋ぎ合わせたチェーンメイルを持って来た。

 試着してみる。


「とても動きやすいな。神様に貰った服以上だ……」


 店員は、満面の笑みだ。


「どうして、この鎧を俺に勧めたのですか?」


「それは、鱗帷子と呼ばれます。両手で扱う戦鎚を持っているので、盾は持てないと想像して、重装備は不要と判断しました。それと仕草ですね。回避系か魔法防御で生きて来たのだと推測したまでです」


 ふむ……。当たっている。

 この人は、俺の装備と仕草で装備を言い当てたのか。

 気に入ったし、これで行こう。


「これを買います。値段を提示してください」


 ここで、店員が真顔になった。


「金貨二十枚でどうでしょうか?」


 日本円換算で、20~40万円くらいかな? 高いのか安いのか分からない。

 でも少し値切ってみるか?


「……もう少し安くなりませんか?」


 ダメ元で聞いてみる。


「それであれば、金貨十八枚でどうでしょうか?」


 交渉に応じてくれるのか……。そういえば、地球のある地域では、値切り交渉が当たり前だと聞いたことがある。

 この交渉を楽しんでいる可能性もあるな。


「金貨十七枚でどうでしょうか?」


「う~ん。即金であればそれで応じます」


 やれやれと言った感じの、店員さん。明らかに楽しんでいる。

 袋から金貨を取り出して行き、カウンターに並べる。

 ここで、店員さんの眼が点になっていた。

 何かおかしいんだろうか? とりあえず、金貨十七枚をテーブルに置いた。

 貨幣の入った袋は、余り減っていない。

 店員さんが、枚数を確認してくれて、領収書を書いて渡してくれた。


「このまま着て帰りますね」


「あの、つかぬことをお聞きしますが、昨日商業ギルドに行かれました?」


「はい、昨日ギルドカードを作りました」


 ここで、店員さんが大きくため息を付いた。


「何かありますか?」


「……町中で噂になってますよ。森を単独で横断して来た異世界転移者がいるって。魔剣を言い値で売り払った、世間知らずとも」


 ……間違いなく俺だな。


「まだ、この世界に慣れていなくて、価値が分からないのですよ」


「その袋に、白金貨二枚入っていますよね? アドバイスです。この街で使った方が良いですよ」


 目を付けられていると言うことだけは分かった。貧乏であり節約して来た俺には、少し躊躇いがあるな。

 ただし、このお金を使わずに、この街を出ると、悪評が立つみたいだ。そういえば、宿屋の店主にも言われたな。

 その後、この店の最高級品のローブを買うことにした。

 魔力をローブに送ることで、その属性に合わせた効果を生み出すのだそうだ。

 お値段、金貨五十枚。白金貨で支払い、金貨を五十枚受け取る。

 貨幣の入った袋は、余計に膨らんだ。もう少し減らさないとな。二日後に、もっと増えるのだし。

 だけど、これで装備が二着分になった。壊れた場合でも即対応できるはずだ。


 ここで大きな鐘が鳴った。

 店の外は、大声で騒いでいる。店員さんを見ると、驚いている。そして、真っ青で脂汗をかいていた。

 営業スマイルが崩れている。


「何かあったのですか? あの鐘の音はなんですか?」


「……街に魔物が侵入した時の鐘です。城壁が破られたのかもしれません……」

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