第25話 街3
今俺は、街の大通りを散策している。とりあえず、この街を一周してみることにした。
街は活気に溢れていた。
皆忙しく働いている。特にギルドだ。喧騒がすごい。
その中でも労働者ギルドに多くの人が集まっていた。亜人も多い。
その喧騒を横目にお店を探して行く。
「まったく分からないのだけど……」
看板の文字は読めるけど、何を売っているのかは分からない。
ほとんどが雑貨屋だ。ただし、売っているものはさまざま。値段もピンキリ。
場所が悪いのかもしれない。
とにかく、ウインドウショッピングをしながら街を回った。
「何か勘違いしているのかもしれないな……」
大通りの店は、装飾品や高級品が並んでいるけど、安い物は見当たらなかった。
そこで、道一本奥に入ってみる。
そうなると住宅街が並んでいた。個人宅が並んでいる。アパートとかマンションみたいな集合住宅も見える。
「整備された街なんだな……」
計画されて作られた街並みなのは分かった。東西南北に太い街道があり、碁盤の目のように細い道が等間隔に作られている。
土地も平坦だ。坂道などもなかった。
住宅街を進んでいるのだけど、この通りにもお店はあった。看板が出ているのでお店はすぐに分かる。
そして、一つの店に辿り着いた。
窓から中を覗く。
「ここで良いかな? とりあえず入ってみようか」
◇
「いらっしゃいませ」
女性の店員が、営業スマイルで出迎えてくれた。練習した笑顔だな。でも、それほど嫌悪感のない笑顔だった。
お店は、言ってみれば雑貨屋だけど、武器防具屋も扱っているみたいだ。
「こんにちは。予備の服が欲しいのですが、厚手の服はありますか?」
「採寸しますので、こちらへどうぞ」
既製品で良いのだけど……。身長と股下、腕の長さ等を図られた。
そして、一着の服を持って来た。素材は、レザーと綿を組み合わせた感じだ。
それと、鱗を繋ぎ合わせたチェーンメイルを持って来た。
試着してみる。
「とても動きやすいな。神様に貰った服以上だ……」
店員は、満面の笑みだ。
「どうして、この鎧を俺に勧めたのですか?」
「それは、鱗帷子と呼ばれます。両手で扱う戦鎚を持っているので、盾は持てないと想像して、重装備は不要と判断しました。それと仕草ですね。回避系か魔法防御で生きて来たのだと推測したまでです」
ふむ……。当たっている。
この人は、俺の装備と仕草で装備を言い当てたのか。
気に入ったし、これで行こう。
「これを買います。値段を提示してください」
ここで、店員が真顔になった。
「金貨二十枚でどうでしょうか?」
日本円換算で、20~40万円くらいかな? 高いのか安いのか分からない。
でも少し値切ってみるか?
「……もう少し安くなりませんか?」
ダメ元で聞いてみる。
「それであれば、金貨十八枚でどうでしょうか?」
交渉に応じてくれるのか……。そういえば、地球のある地域では、値切り交渉が当たり前だと聞いたことがある。
この交渉を楽しんでいる可能性もあるな。
「金貨十七枚でどうでしょうか?」
「う~ん。即金であればそれで応じます」
やれやれと言った感じの、店員さん。明らかに楽しんでいる。
袋から金貨を取り出して行き、カウンターに並べる。
ここで、店員さんの眼が点になっていた。
何かおかしいんだろうか? とりあえず、金貨十七枚をテーブルに置いた。
貨幣の入った袋は、余り減っていない。
店員さんが、枚数を確認してくれて、領収書を書いて渡してくれた。
「このまま着て帰りますね」
「あの、つかぬことをお聞きしますが、昨日商業ギルドに行かれました?」
「はい、昨日ギルドカードを作りました」
ここで、店員さんが大きくため息を付いた。
「何かありますか?」
「……町中で噂になってますよ。森を単独で横断して来た異世界転移者がいるって。魔剣を言い値で売り払った、世間知らずとも」
……間違いなく俺だな。
「まだ、この世界に慣れていなくて、価値が分からないのですよ」
「その袋に、白金貨二枚入っていますよね? アドバイスです。この街で使った方が良いですよ」
目を付けられていると言うことだけは分かった。貧乏であり節約して来た俺には、少し躊躇いがあるな。
ただし、このお金を使わずに、この街を出ると、悪評が立つみたいだ。そういえば、宿屋の店主にも言われたな。
その後、この店の最高級品のローブを買うことにした。
魔力をローブに送ることで、その属性に合わせた効果を生み出すのだそうだ。
お値段、金貨五十枚。白金貨で支払い、金貨を五十枚受け取る。
貨幣の入った袋は、余計に膨らんだ。もう少し減らさないとな。二日後に、もっと増えるのだし。
だけど、これで装備が二着分になった。壊れた場合でも即対応できるはずだ。
ここで大きな鐘が鳴った。
店の外は、大声で騒いでいる。店員さんを見ると、驚いている。そして、真っ青で脂汗をかいていた。
営業スマイルが崩れている。
「何かあったのですか? あの鐘の音はなんですか?」
「……街に魔物が侵入した時の鐘です。城壁が破られたのかもしれません……」
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