第24話 宿屋2

 眼が覚めた。久々の柔らかい寝床はとても良く眠れた。

 外を見ると、日が暮れていた。どれだけの時間寝ていたかも分からない。

 窓から街を確認すると、店は全て閉まっていた。夜中なんだな。

 一応時計のような物はあるけど、読み方が分からない。24時間制なのかも怪しい。これは、明日にでも確認しよう。


「……小腹が空いたな」


 メイス、それと短剣四本と魔石を一個を装備した。まあ、腰紐に挟んだだけだけど。それとハンマーを手に取った。

 最後に、硬貨の入った袋も忘れないように懐に入れた。今お金を失うと野垂れ死にの可能性もある。この街の治安状況も分からない。リスク分散のために、分けた方が良いかもしれないな。まあ、落ち着いてから考えよう。


「スマホは良いか。着信ないし……」


 俺は、一階に向かって降りて行った。





 一階には誰もいなかった。昼の喧騒が嘘のようだ。

 少し見渡すと、カウンターに先ほどの亜人の女性がいた。

 視線が合う。


「あれ? お兄さんこんな時間にどうしたのかニャ?」


「小腹が空いたので、食事を頼めないでしょうか?」


「OKニャ~。座って待っていてくださいニャ~」


 そう言って、奥へ行ってしまった。だけど、五分もせずに戻って来てくれた。

 麺料理を作って来てくれたみたいだ。ラーメンもしくは、うどんに近い。

 銅貨二枚を払い、食べてみる。


「……美味しい」


 この街に来て初めてかもしれない。味に気が付いたのは。

 ギルドで頂いたサンドイッチや、部屋で食べた肉まんなどの味は思い出せない。それほど余裕がなかったみたいだ。

 ここで亜人の女性が、俺の前に座って笑顔で俺を観察している。

 昼間に会った女性とは違う。薄気味悪い、作り笑いではない。本当に楽しそうに俺を見ている。

 俺は気にせずに、食事を続けた。


「ごちそうさま。助かりました」


「お粗末様でした。良い食べっぷりだったニャ~」


「……こんな時間まで仕事なんですか?」


「うん? 宿屋のカウンターにはとりあえず誰かいないといけないのニャ。夜中に帰って来る人もいるのでニェ」


「あなたは寝なくても良いのですか?」


「あはは。お兄さんは亜人を良く知らないみたいなのニャ。ワタシは、日に2時間程度寝れば十分なのニャ。

 あ、24時間制は分かるかニャ? 一日を24で割った時間なのニャ。

 それで仕事時間は、夕暮れから夜明けまを任されているニャ。まあ、お昼時の忙しい時は手伝ってるけどニェ~」


「日に2時間ですか……。少し羨ましいですね」


「にしし。どうお兄さん。今晩はワタシを買ってみない? サービスするニャ~」


「……戻って寝直します」


「つれない人ニャのね……」


 これが、この宿屋の普通なんだろう。宿屋を変えても良いかもしれない。

 いや、他の宿屋も同じかもしれないな。外は魔物が徘徊している世界なんだ。

 戦えない人達は、職業を選べないんだろうな。


 俺は、部屋に戻り寝直した。





「今何時だ?」


 時間的な感覚がまるでない。夜中に麺料理を食べて再度寝たけど、疲れが抜け切れていない感じだ。

 身支度を整えて、一階に降りて行く。

 やはり時間的に遅れていたようだ。食器の後片付けを行っていた。


 昨日の女性が、駆け寄って来てくれた。客引きを行っていた人だ。


「おはようございます。朝食は出るのですよね? 遅かったですか?」


「おはようございます。出来ればもう少し早く起きてくれると助かりますけど、大丈夫ですよ。今席を作るので待っていてください」


 手早く片付けてくれて、席を設けてくれた。

 そして、料理が運ばれて来る。

 パンと目玉焼き、それとサラダだった。パンは好きなだけ食べて良いのだそうだ。

 バターみたいなのを塗って食べる。

 ここで気が付いた。


『昨日の亜人の人は、この時間はいないんだな。寝ている時間なんだろうか……』


 ふと、気になったので従業員を観察する。

 亜人も多いけど、エルフと思われる人もいる。あの人達は目立つな。

 男性もいた。背が低いが、筋肉質だ。重い物を運んでいる。ドワーフになるのかな? ホービット?


『実際のところ、この街は、雑多な人種が住んでいるんだな……』


 見慣れるまで時間がかかるかもしれない。

 でも、そのうち慣れると思う。


「ごちそうさまでした」


 手早く食べて、席を立とうとした時だった。


「夜中に起き出して来たのは、兄さんかい?」


 不意に声をかけられた。そちらを見る。

 2メートル近い身長。俺の太ももより太そうな腕……。プロレスラーを思わせるガタイの女性が、そこにいた。

 一瞬思考が止まったけど、返事をしなければ……。


「はい。俺だと思います。麺料理を頂きました。なにか?」


「ああ……。シリルが残念と言っていたのでね。それと、挨拶が遅れたね。わたしゃ、この宿り木亭の店主のウラだ。

 まだこの世界に来て日が浅いのかもしれないが、金を持っているのであれば、使うことを勧めるよ。お節介なアドバイスとして聞いておいておくれ」


 経済を回せと言うことか。

 だけど、女性を金で買うのは、かなり躊躇いがある。今の俺にはハードルが高いな。


「……覚えておきます」


 一礼して、席を立った。

 俺は、宿屋を後にして、服屋に向かった。いや、この世界では防具屋なのかもしれない。

 それと、今日中に教会に行こうと思っている。

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