第23話 宿屋1
地図を見ながら、街の東側に移動した。
ここで屋台みたいなところから、良い匂いがした。そちらを向く。
「……穀物が食べたいな」
ボソッと独り言を呟いた。
ここで、反対側から女性が駆け寄って来た。
「お食事まだでしたら、あちらの店はいかがでしょうか?」
可愛らしい女性が、営業スマイルで俺に話しかけて来た。
だけど、作り笑いが少し気になる人だ。
俺と妹の愛美は、死んだような目で生活していた。二人とも疲れていたけど、それを吐露し合える相手がいたので少しは救われたと思っている。だけど、この人はそれも出来ないのかもしれない。
店を見ると、屋台ではなく店だった。
「すぐに食べられる物はありますか?」
「肉詰めのテイクアウトなどいかがでしょうか? すぐにお持ち帰り出来ます!」
何か必死だな……。
店を見ると、肉まんのような物を食べている人が見えた。それと看板を見る。
宿屋も兼任しているのか。
「……一泊の値段を教えて貰えますか?」
女性の顔が、パッと明るくなる。
「銀貨三枚でどうでしょうか? 朝食付きになります」
ギルド長に貰った袋を開けて、銀貨を教えて貰う。肉まんは、銅貨二枚とのことだ。
ちなみに貨幣の交換は、銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚、金貨百枚で白金貨一枚なのだそうだ。
銅貨以下は、鉄貨があるのだそうだけど、余り使われないらしい。
こうなると、銅貨一枚は、100~200円くらいかな?
味の違う肉まんを三個買って、先払いで宿屋の手続きを行う。
最低でも三日はこの街にいなければならない。銀貨を九枚と銅貨を六枚支払った。サービスで、果汁も付けてくれる。
女性に、個室まで案内して貰った。
ここで聞いてみる。
「体を拭きたいのですが、何処に行けば良いですか?」
「あ……。もう少し待って頂ければ、共同浴場が使えるようになります」
共同とは言え浴場があるのか。タライかなと思ったけど、結構発展しているんだな。
浴場の準備が出来たら呼んでくれると言うことなので、食事をしながら待つことにした。
それと、替えの服を用意してくれた。これはサービスとのことだ。
元々着ていた物は洗濯してくれると言うことなので、入浴後渡すことになった。こちらは洗濯の代金として銅貨一枚。
看板娘の女性には、思いついた相談をして、戻って貰った。仕事中なのだ、足止めは良くないと思う。
ドアを閉めて独りになる。
上着を脱いで楽な姿勢になる。そうするとお腹が鳴った。緊張の糸が切れたようだ。肉まんを口に放り込んで、果汁で流し込む。
寝たいけど、熟睡してしまいそうなので、街の風景を見て少し時間を潰した。
「……連絡来るんだよな」
──コンコン
ドアのノックが鳴った。浴場の準備が出来たみたいだ。
ドアを開ける。
「!?」
絶句する。驚いてしまった。
獣耳を持った女性が、俺の目の前にいたからだ。
俺の驚きをよそに、女性が話しかけて来た。
「浴場の準備が出来ましたニャ。ご案内しますニャン」
思考が追い付かない。女性をマジマジとみる。手の形が人ではなかった。肉球も見える。ピクピク動く獣耳と、尻尾……。ファンタジーである。
「うふふ。お兄さんは、まだこの世界に来て間もないのかニャ~? ワタシは亜人になるのですニャ」
「……亜人」
そうだ、ここは異世界なんだ。怪物のような魔物は多く見て来たけど、人以外の知的生命体がいても不思議ではない。
俺の想像力が足らないだけだ。
深呼吸をして、落ち着きを取り戻す。
「案内をお願いします」
「うふふ。そのうち慣れるニャ~。それとも、今晩のお相手をしても良いのニャよ?」
妖艶な視線を送って来る。この宿は、そういうサービスもあると言っているのか。
俺は視線を逸らした。
「まあ、気になったら声を掛けて欲しいのニャ~」
その後、無言で浴場に案内して貰った。
◇
浴場は、十人ほどが使える広さだった。お湯が張られている。石鹸もあった。正直日本式に近いと思う。いや、海外旅行したことがない俺が『日本式』とか言うこと自体がおかしいのだけど。
今は誰もいないが、作法は分かる。後から来る人に嫌な思いをさせずに済むだろう。
俺は湯には浸からずに、体の垢だけを落として浴場を後にした。
替えの服に着替えて、元々着ていた服は、籠に入れてドアの前に。
部屋に戻り、ベットに横になった。
これで、今日やれることは全部終わった。力が抜けて行く。
……そのまま眠りに付いた。
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