第22話 商業ギルド1

 商業ギルドの門を潜った。

 建物の一階は、食事処も兼ねているようだ。寝ている人もいるので休憩所でもあるかもしれない。

 入り口で立ち止まり、少し観察しただけだけど、俺に注目が集まった。

 だけど、俺は無視して壁に書かれた文字を読んだ。


「素材買取のカウンターは……、一番手前か」


 誰も並んでいなかったので、そのままカウンターの前まで進む。これで、このソリともお別れになるはずだ。

 受付嬢が、営業スマイルを向けて来た。


「初めての方ですよね? 本日はどの様なご用件でしょうか?」


 定型文なのかな? 素材の売却に決まっていると思うのだけど……。

 だけど、初めて来たのは分かるのか。服装がこの街に合っていない可能性もあるな。

 まあ良い。とりあえず、用事を済ませてしまおう。


「素材の買取をお願いしたいのですが」


「本日は、どの様な物をお持ちですか?」


 とりあえず、魔石の入った大きな袋と剣をテーブルに置く。それと、文字の刻まれた金属のプレートだ。

 全部は出さない。場合により、他のギルドでの売却も考えたいからだ。

 受付嬢は、営業スマイルを崩さないけど、汗が止まらなかった。

 それと、ギルド内が静まり返っている。

 これは、俺のせいか?

 ここで、裏方から別な男性が顔を出して来た。


「そこの君、少し良いかな?」


「俺でしょうか?」


 この後、別室に通された……。





 お茶と軽食が出て来た。サンドイッチに近い形だ。すぐに飛び付く。

 それを見た男性が合図をして、追加が来た。

 味は分からなかった。とにかく夢中で食べた。


「どうかな? 少しは落ち着いたかな?」


「……はい。ありがとうございます」


 一礼する。本当に飢餓状態だったみたいだ。一日程度の絶食だったけど、重い荷物を引いて、魔物との戦闘を行ったのだ。それと、警戒も怠れなかった。消耗するなと言う方が無理がある状況だった。


「それでなのだが、この街までどうやって来たのだ?」


 俺は、地図をテーブルに広げた。


「推測になりますが、森の真ん中にある遺跡もしくは廃墟で目を覚ましました。地図を手に入れて、山を目印に進んだのですが、この街に付きました。確認したいのですが、この街は、地図のこの場所で合っていますか?」


 俺は、地図上の街を指差した。

 目の前の男性は、こめかみを抑えた。


「ああ。合っているよ。そうか、森を抜けて来たのか。神様も酷なことをさせる」


 この世界の人は、あの神様を知っているのか?

 いや、唯一神とは限らないと思う。


「神様に名前はありますか? もしくは、特徴を聞きたいです。俺の出会った神様と、あなたの言う神が同じであることを確認したいのです」


「……この世界に神は、三柱いる。ただし、争ってはいない。各種族を見守ってくれていてな、それぞれの土地を納めている。そうだな……、女神であっただろう? 

 名前は、ヒストリア様だ」


 女神であるのは間違いないと思う。そして、土地毎に神様が収めているのであれば、疑う余地もない。

 そうなると、俺の転移場所が問題だ。何故あのような危険な場所に俺を転移させたのか……。

 先ほどの衛兵の言葉と、目の前の男性の言葉からの推測になるけど、人により転移場所は異なるのだと思う。

 俺は、最悪とも取れる場所だったのではないんだろうか……。


「……俺は、ヒストリア様に疎まれているのでしょうか?」


「逆だな。期待されていると考えた方が良い。そして、君はその期待に見事に答えた。

 期待されていない者であれば、その……、君とは待遇が違うと言える。そういう奴らは、基本的に大成しない」


 俺は期待されている?

 かなりの疑問が残る。

 ここでドアのノックが鳴り、女性職員が入って来た。そしてテーブルに何かを置いた。

 金属板と中身の詰まった袋だった。


「これは何ですか?」


「まずこの板状の物だが、ギルドカードと言う。身分証と考えてくれ。この国の全ての街で使える。

 無くすと面倒になるので注意して持ち歩いてくれ。収納魔法を持っているのであれば、入れておく事を勧める」


「収納魔法ですか?」


「……見た限りだが、チート系スキルは持っていなさそうだな。ステータスごり押しで森を突破して来たのか?」


 チート系? 何がチートかも分からない。


「ステータスのことを言っているのですか? MPに極振りしています。魔法は、雷魔法と途中で技能石を使い回復魔法を覚えたくらいです」


 目の前の男性が、とても驚いている。


「まず、この世界の常識だが、自分のステータスは隠した方が良い。まあ、鑑定スキル持ちもいるので厳密には隠せないがな。

 だが、スキルビルドを看破された時点で終わる異世界人も多いのだ。

 だが、『MPに極振り』か……。魔法系とは思えない姿だな」


「鑑定というのは、調べた対象が理解出来るスキルだという事でしょうか? 例えば絵画や陶器の真贋や、産地擬装などが分かる?」


「ああ、その理解で合っているよ」


 不用心過ぎたか……。もう、街中で鑑定されている可能性もある。

 そして、対人戦闘もありえると言っている。


「それと、君が持ち込んだ素材だが、査定に三日ほど待って欲しい。とりあえず、剣一本だけは、査定を終わらせて現金を持って来させた。三日間でこの街を回り、金額に不満があるのであれば、後で交渉しよう」


 ……手慣れているな。異世界人の相手を数多く熟していると思われる。

 俺はソリに残した全ての素材を渡した。

 何となくだけど、この男性は信用出来る気がする。


「盗まれると困るので、預かって貰えますか? 査定はしてもしなくても良いです」


「ふむ。良いだろう、預かることにする。だたし、商業ギルドで欲しいと思った物は、査定額を付けさせて貰う。特に残りの剣三本は、是非とも買い取らせて貰いたい」


「分かりました。少し疲れているので、今日はここまでにさせてください。三日後にまた来ます」


「それとアドバイスだ。三日以内に教会に行くと良い。神の祝福を受けれるだろう」


 そう言って男性が立ち上がり、握手を求めて来た。

 俺も立ち上がり、握手に応じる。


「遅れたが、俺は商業ギルド長のユージと言う」


「翔斗です。今度ともよろしくお願いします」


「ショートだな。君には期待している。これからよろしく頼む」


 こうして、重い荷物を預かって貰い、懐も温かくなった。

 この後は、宿屋だな。

 その前に、食事がしたいな……。何か食べないと倒れそうだ。

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