第22話 商業ギルド1
商業ギルドの門を潜った。
建物の一階は、食事処も兼ねているようだ。寝ている人もいるので休憩所でもあるかもしれない。
入り口で立ち止まり、少し観察しただけだけど、俺に注目が集まった。
だけど、俺は無視して壁に書かれた文字を読んだ。
「素材買取のカウンターは……、一番手前か」
誰も並んでいなかったので、そのままカウンターの前まで進む。これで、このソリともお別れになるはずだ。
受付嬢が、営業スマイルを向けて来た。
「初めての方ですよね? 本日はどの様なご用件でしょうか?」
定型文なのかな? 素材の売却に決まっていると思うのだけど……。
だけど、初めて来たのは分かるのか。服装がこの街に合っていない可能性もあるな。
まあ良い。とりあえず、用事を済ませてしまおう。
「素材の買取をお願いしたいのですが」
「本日は、どの様な物をお持ちですか?」
とりあえず、魔石の入った大きな袋と剣をテーブルに置く。それと、文字の刻まれた金属のプレートだ。
全部は出さない。場合により、他のギルドでの売却も考えたいからだ。
受付嬢は、営業スマイルを崩さないけど、汗が止まらなかった。
それと、ギルド内が静まり返っている。
これは、俺のせいか?
ここで、裏方から別な男性が顔を出して来た。
「そこの君、少し良いかな?」
「俺でしょうか?」
この後、別室に通された……。
◇
お茶と軽食が出て来た。サンドイッチに近い形だ。すぐに飛び付く。
それを見た男性が合図をして、追加が来た。
味は分からなかった。とにかく夢中で食べた。
「どうかな? 少しは落ち着いたかな?」
「……はい。ありがとうございます」
一礼する。本当に飢餓状態だったみたいだ。一日程度の絶食だったけど、重い荷物を引いて、魔物との戦闘を行ったのだ。それと、警戒も怠れなかった。消耗するなと言う方が無理がある状況だった。
「それでなのだが、この街までどうやって来たのだ?」
俺は、地図をテーブルに広げた。
「推測になりますが、森の真ん中にある遺跡もしくは廃墟で目を覚ましました。地図を手に入れて、山を目印に進んだのですが、この街に付きました。確認したいのですが、この街は、地図のこの場所で合っていますか?」
俺は、地図上の街を指差した。
目の前の男性は、こめかみを抑えた。
「ああ。合っているよ。そうか、森を抜けて来たのか。神様も酷なことをさせる」
この世界の人は、あの神様を知っているのか?
いや、唯一神とは限らないと思う。
「神様に名前はありますか? もしくは、特徴を聞きたいです。俺の出会った神様と、あなたの言う神が同じであることを確認したいのです」
「……この世界に神は、三柱いる。ただし、争ってはいない。各種族を見守ってくれていてな、それぞれの土地を納めている。そうだな……、女神であっただろう?
名前は、ヒストリア様だ」
女神であるのは間違いないと思う。そして、土地毎に神様が収めているのであれば、疑う余地もない。
そうなると、俺の転移場所が問題だ。何故あのような危険な場所に俺を転移させたのか……。
先ほどの衛兵の言葉と、目の前の男性の言葉からの推測になるけど、人により転移場所は異なるのだと思う。
俺は、最悪とも取れる場所だったのではないんだろうか……。
「……俺は、ヒストリア様に疎まれているのでしょうか?」
「逆だな。期待されていると考えた方が良い。そして、君はその期待に見事に答えた。
期待されていない者であれば、その……、君とは待遇が違うと言える。そういう奴らは、基本的に大成しない」
俺は期待されている?
かなりの疑問が残る。
ここでドアのノックが鳴り、女性職員が入って来た。そしてテーブルに何かを置いた。
金属板と中身の詰まった袋だった。
「これは何ですか?」
「まずこの板状の物だが、ギルドカードと言う。身分証と考えてくれ。この国の全ての街で使える。
無くすと面倒になるので注意して持ち歩いてくれ。収納魔法を持っているのであれば、入れておく事を勧める」
「収納魔法ですか?」
「……見た限りだが、チート系スキルは持っていなさそうだな。ステータスごり押しで森を突破して来たのか?」
チート系? 何がチートかも分からない。
「ステータスのことを言っているのですか? MPに極振りしています。魔法は、雷魔法と途中で技能石を使い回復魔法を覚えたくらいです」
目の前の男性が、とても驚いている。
「まず、この世界の常識だが、自分のステータスは隠した方が良い。まあ、鑑定スキル持ちもいるので厳密には隠せないがな。
だが、スキルビルドを看破された時点で終わる異世界人も多いのだ。
だが、『MPに極振り』か……。魔法系とは思えない姿だな」
「鑑定というのは、調べた対象が理解出来るスキルだという事でしょうか? 例えば絵画や陶器の真贋や、産地擬装などが分かる?」
「ああ、その理解で合っているよ」
不用心過ぎたか……。もう、街中で鑑定されている可能性もある。
そして、対人戦闘もありえると言っている。
「それと、君が持ち込んだ素材だが、査定に三日ほど待って欲しい。とりあえず、剣一本だけは、査定を終わらせて現金を持って来させた。三日間でこの街を回り、金額に不満があるのであれば、後で交渉しよう」
……手慣れているな。異世界人の相手を数多く熟していると思われる。
俺はソリに残した全ての素材を渡した。
何となくだけど、この男性は信用出来る気がする。
「盗まれると困るので、預かって貰えますか? 査定はしてもしなくても良いです」
「ふむ。良いだろう、預かることにする。だたし、商業ギルドで欲しいと思った物は、査定額を付けさせて貰う。特に残りの剣三本は、是非とも買い取らせて貰いたい」
「分かりました。少し疲れているので、今日はここまでにさせてください。三日後にまた来ます」
「それとアドバイスだ。三日以内に教会に行くと良い。神の祝福を受けれるだろう」
そう言って男性が立ち上がり、握手を求めて来た。
俺も立ち上がり、握手に応じる。
「遅れたが、俺は商業ギルド長のユージと言う」
「翔斗です。今度ともよろしくお願いします」
「ショートだな。君には期待している。これからよろしく頼む」
こうして、重い荷物を預かって貰い、懐も温かくなった。
この後は、宿屋だな。
その前に、食事がしたいな……。何か食べないと倒れそうだ。
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