第21話 街2

「******」


 困った、言葉が通じない……。どうしようか。

 いや、どうしようもないのだけど。こうなると街には入れて貰えないか?


「すいません。何を言っているか分かりません」


 ダメもとで返事をする。そうすると衛兵が、もう一人来た。


「*****」


「***」


 何かを話し合っている。

 ここで、俺に何かを差し出して来た。それを見る……。

 技能石だった。

 とりあえず受け取ると、衛兵は割るようなジェスチャーをして来た。

 貰って良いものなんだろうか? 料金を後から取られる可能性……。

 少し考えたけど、俺に選択肢などない。今は、街中という安全地帯で休みたい。

 食料は先ほど肉が手に入ったけど、水がない。喉も乾いている。正直追い詰められていた。

 色々と思考が過ったけど、俺は技能石を割った。


 何時もの如く、頭に声が響いた。


『ステータスに〈スキル:言語理解〉を付与します』


「ん? 言語理解?」


「言葉は通じるか?」


 ハッとする。俺は、衛兵を見た。


「今のは……、会話が出来るようになるスキル?」


「正解だ。この世界には色々な異世界人が流れて来ていてな。その都度、この世界の言葉を教えていたのだが、〈言語理解〉の技能石が開発されてからは、異世界人に無償提供するようになっている。まあ、大量に作れるので気にしなくて良い」


 驚いてしまった。異世界人は俺だけではなかったのか。

 それに『作れる』と言った。それほどの需要が生れるほど、異世界人が来ていることが想像出来る。


「……ありがとうございます。助かりました」


 一礼する。

 ここで、衛兵が咳払いした。


「ゴホン。見たところ、転移場所が悪かったようだな。それにソリに乗せて運んでいる大量の荷物……。相当な腕前と見える」


 ……袖の下を要求されているみたいだ。

 今後のことも考えると、顔見知りだけでも増やしておきたい。

 俺は、ポケットから魔石を二つ取り出した。大きさは中ぐらいの物を選んでみた。価値が分からないけど、魔力のある世界なんだ。それなりに重宝されているはずだ。

 二人が、視線を気にしながら受け取った。そして、二人の口角が上がっていた。

 どうやら、価値のある物で合っていたみたいだ。ダメだったら、剣とかを渡していたのだけど、大量に取れたもので済んで良かった。


「あ~、ゴホン。これがこの街の地図になる。まずは素材の売却だろう? ギルドに行くと良い。

 冒険者ギルト、商業ギルト、労働者ギルトがこの街には揃っているので、何処でも良いので登録すると良い。ギルドは、街の中心部にある。

 それと宿屋は、街の東側に集まっている。値段はピンキリだ。だがそうだな。一泊銀貨二枚が相場だと思ってくれ。銀貨一枚なら雑魚寝だが、勧めない。

 見たところ、良い素材を持っていそうだから、資金の心配はしなくて良いと思うぞ?」


 俺は、街の地図を受け取った。

 そして、今一番欲しい、この街の情報をも貰えた。今大量に持っている、魔石二個よりも価値のある情報だ。この世界はチップが当たり前なのかもしれないな。

 日本的な考えは捨てた方が良いかもしれない。郷に入っては郷に従えと言うやつだろう。少しずつでもこの街の常識に合わせて行った方が過ごしやすくなるんだろうな。

 だけど、銀貨二枚の価値が分からない。日本円換算して欲しいな。


「ありがとうございます。まずギルドですね。行ってみます」


「良し! 通って良し! この街は、辺境都市クレスだ。それとギルドの登録を忘れるなよ」


 こうして、街の中に入ることが出来た。

 それにしても、異世界転移者と分かっていても、街中に入れてくれるのか……。

 犯罪者とか、取り締まらないのかな……。





 街の中心には、噴水があった。

 水筒に水を汲んでから、一気に飲み干す。


「ふぅ~」


 少し気が抜けた。俺は、噴水の周りを覆っている石材を背にして、その場に座り込んでしまった。

 ここで気が付く。


『……見られているな』


 この街の治安状況は、分からない。俺のソリの荷物が目的かもしれない。

 もしくは、俺の服装が変なのかもしれない。いや、十日ほど風呂にも入っていないし、匂っているのかもしれないな。

 俺が視線を流すと、街の人達は視線を逸らした。

 悪意ある視線は、今のところ感じない。

 俺は立ち上がり、足早にギルド方向に向かった。


 歩きながら地図を見る。ギルドはこの街に三組あるみたいだ。まあ、さっき聞いた通りか。

 それと地図には、親切にも説明書きがされていた。本当に良い物を貰った。


 ・冒険者ギルド……討伐系や採集系がメインとなる。

          所属者は何でも屋が多い。幅広い依頼が魅力。

 ・商業ギルド……生産職が集まり、物流を管理している。弟子も募集している。

          加工依頼なども請け負っている。

 ・労働者ギルド……主に街中の仕事を斡旋する。

          ランクが上がれば、街の外の設営等の仕事も請け負える。


 俺はまず、先立つ物が欲しい。ギルド選びは慎重に行わなければならないと思った。だけど、この説明を読んですぐに決められた。


「……本当は、手に職が欲しかったんだよな」


 俺は、商業ギルドのドアを開けて、建物の中に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る