第20話 街1
食料も水も使い切ってしまった。
もう後がない。かなり追い詰められている感じだ。
ソリを引きながら、歩いているけど、荷物を捨てたくなって来た。
何が悪かったんだろうか?
ステータスの割り振りだろうか?
AGI特化にして、森を最速で駆け抜ければ違ったのか?
だけど、結界術の持続時間が生死を分けているのも事実だ。
そうすると、方角だろうか?
他の方向には、川があった可能性……。出発前に樹頭に登り、低地や高地を注意深く探れば、川は見つけられたかもしれない。池はあったんだ、川もあったかもしれない。今更ながらの結果論だけど、自分の頭の悪さに嫌気がさした。
とにかく、俺の選んだルートには川はなかった。それが、現実だ。
周囲を見渡す。
果物が実っている……。食べてくださいと言わんばかりだ。野イチゴみたいなのも見えるし、キノコも豊富だ。
だけど、食べられた形跡が見当たらない。これだけ、魔物が徘徊している森なのにだ。
どうしても、毒物の不安が拭えない。
今最も望むのは、魔物からの肉のドロップだけど、コウモリ以来ドロップはない。
そもそも、動物型の魔物を見かけていない。森に入ってから、昆虫かアンデットのみだ。
期待していた物が手に入らない。こうなると、持って後一日程度だろう。その後は、動けなくなるのが予想される。
期待していなかった物で良かったのは、技能石くらいか。技能石でスキルや魔法を覚えられなければ、転移場所で死んでいただろうな。道中の窮地を何度も切り抜けたので、助かっている。
ステータスやレベル以上に、スキルや魔法の組み合わせの方が、生存率を上げているのが現状だ。
だけど、窮地なのは変わらない。
元々、綱渡りの異世界生活だけど、ここまでなのかもしれないな。
そんなことを考えている時だった。
前方から光が差し込んで来た。
体が反応した。ソリを引きながら走ってしまう。不意打ちや罠をとにかく警戒して進んで来たのに、この期待からは逃げられなかった。
そして、光の先へ。
「……はは。森を抜けたのか」
笑いがこみ上げて来た。
地図を取り出して確認する。転移の場所から森の出口まで約六日かかった。その距離とこの森の端から街までの距離をイメージする。
「……残り半日といったところだな」
生き延びられる可能性が出て来た。
今は結構衰弱している。だけど、あと少しかもしれない。
俺は、森を抜けて草原を歩き始めた。
◇
「平地でも魔物は出るんだな……」
猫型や鹿型と思われる動物に襲われた。ただし、森の魔物に比べれば雑魚としか言いようがない。とにかく遅い。ライオンや虎と思わせる魔物なのにだ。
俺のハンマーを躱せる速度がないので、俺の間合いに入った時点で討伐する。
しかし、肉のドロップはなかった。
後少しのはずだ。それに今は肉よりも、水が欲しい……。
我慢の限界に達した。
俺はワインを開けた。一口飲んでみる。
「酸っぱいし、苦い。何でこんな物を飲むんだ?」
俺が始めてアルコールを飲んだ感想だった。そして、体が熱を帯びて来た。頭もフワフワしている。
喉を潤す程度だったのだけど、体が過剰に反応している。どうやら俺は、アルコールに弱い体質なのかもしれない。
だけど、少しだけ気力も戻った。
そんな時だった。
──パオーン
声の方向を向く。
「象……か?」
巨体と長い鼻が目に付いた。角もあり毛も長い。象ではないかな? マンモス?
まあ良い。することは変わらない。
間合いに入って来たので、迎撃だ。
まず、長い鼻で攻撃して来たので、それをハンマーで迎撃する。内部爆破が起きたが、千切れることはなかった。
当然だ、骨など入っていないのだから。たしか、筋肉の塊だったはずだ。
だけど、魔物は大きく仰け反った。ダメージはあるみたいだ。
その隙を逃さずに、俺は一歩を踏み出して、前足を粉砕した。
魔物は、その巨体を崩す。地面に倒れ込み、粉塵が舞い上がる。
俺に躊躇いはなかった。そのまま、魔物の頭にハンマーを振り下ろした。
「……ここで肉のドロップか」
もうすぐ街だというのに、今出てもな……。
それに陽も傾いている。平地での夜間の移動は避けたい。
俺は、ソリに肉を乗せて、残りの距離を歩くことにした。
◇
街が見えて来た。城壁があるので間違いないと思う。明らかな人工物だ。
後少しのはずだ。
そして、日暮れ前に街の入り口に辿り着いた。
「やった、生き延びた……」
なんとかサバイバル生活から抜け出せた瞬間だった。
だけど、街に入ろうとした時に止められた。
なんだろうか? 通行税とか言われてもお金は持っていない。神様に言われたので、魔物の素材と魔石はソリに乗せて持って来ているけど、現物納入で許して貰えないかな?
衛兵みたいな人と視線が合わさる。
「******」
それはそうか。俺は、異世界語を習っていない。
言葉が通じなかった。
さてどうするかな……。ジェスチャーで通じるかな?
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