第18話 移動5
夜のアンデットの襲撃は少なかった。だけど、音を聞きつけてか、昆虫が集まって来た。
蜘蛛、蜂、カマキリ、カブトムシ、カミキリムシ……etc。ただし、動物は来なかった。
夜中だと言うのに、数多く襲って来る。
数で来られると、かなり困る。まず、結界術に魔力を持って行かれる。魔力攻撃で相殺されてしまうからだ。
結界術が切れれば、防衛戦は無理になる。逃走するしかなくなる。
幸い、ボスゴブリンみたいに大規模魔法を放つ個体はいなかったけど、蜂の毒は、結界術の魔力を削いで行った。魔力が込められているのかもしれない。検証は出来ないけど、他の個体よりも危険と判断した。
他の個体よりも、蜂を優先して倒す。
蜘蛛の糸は、雷魔法で簡単に焼き切れることが分かったので放置だ。蜘蛛は、糸さえ封じてしまえば、無視して良い個体だ。
それと、カマキリみたいに武器に近い体躯を持っている個体がいた。武器に魔力を纏わせて攻撃して来る。
カマキリの鎌は、切断の魔法が付与されているみたいだ。風魔法かな? 結界術がなかったら危なかったと思う。
俺は、結界術内部の安全地帯から出ずに、ハンマーを振るう。塹壕という地の利も得ている。結界術の範囲を塹壕内部まで小さくすると、魔物は塹壕内の窪地に入って来てくれた。這い上がるのには、苦労するだろうに。
塹壕内に入って来た魔物は、俺が全て倒している。
一撃必倒とはいかない。当たらないからだ。やはり命中率に問題がある。空振りが多い。だけど、塹壕内は狭いので、ハンマーを振り回せば、ひしめき合った魔物のどれかに当たる。
俺は、次々に魔物を討伐して行った。
◇
夜が明けると、魔物は去って行った。この魔物の行動は、遺跡付近のアンデット族に近い。
「もし、襲撃のない時間帯があるのならば、午前中になるんだろうな……」
この数日間の、魔物の行動法則に基づいた結論だった。
俺は、結界術に魔力を補充して、仮眠を取ることにする。
「……ドロップ品の回収は、後で良いか」
塹壕内部には、魔石が山のように積み上がっていた。現時点でもうカバンが一杯だった。
持って行くのであれば、輸送手段を考えなければならないし、置いて行くのであれば取捨選択をする必要がある。
だけど、疲れ過ぎているようだ。頭が回らないし、回収する気も起きなかった。
そのまま眠りに付く。
眼が覚めた。
周囲を見渡すけど、魔物の影はない。水筒の水を一口飲んだ。
缶詰を空けて、軽く腹を満たす。
少しは眠れたみたいだ。この後の行動はすぐに決まった。
まず、木箱内にあった紐を取り出す。本当は置いて行こうとしたものだ。かなり太く丈夫だ。
それと、クワガタの大あごを荷物から取り外した。
木箱の箱を破壊して、板を二枚作る。それをクワガタの大あごに固定するために、紐で縛った。かなり簡易的だけど、ソリの完成だ。ソリを塹壕の外に持って行く。
その後は、魔石の回収だ。幸いにも、木箱の中には、大きい袋が大量に入っていた。人一人入れられる様な形だ。
その袋の中に、魔石を入れて行く。技能石が含まれていないか慎重に確認しながら集めて行く。
結果的に、袋一杯の魔石が集まった。それと技能石を一つ発見した。
素材も多いけど、甲殻とかは回収しないことにした。唯一気になったのが、短剣かな。
魔力を帯びた短剣が四本見つかったので、これらは回収して装備することにした。
元々持っていた四本の剣は、ソリに乗せて紐で固定する。
これで投擲が楽になり、結界術が素早く発動させられるはずだ。
持って行く物は選別出来たので、移動の準備が整った。
「さて、使ってみるか……」
俺は、技能石を割った。頭に声が響く。
『ステータスに〈スキル:空間障壁〉を付与します』
俺は、今度は間違えないように、ステータスボードの〈空間障壁〉に触れてみた。
頭に声が流れ込んで来る。
『空間魔法の一種。指定した空間を一時的に不破壊の空間に変形させる』
不破壊の空間?
右手を前に出して、空間障壁を発動してみた。
厚さは、紙くらいしかないと思う。だけど、魔力の塊のような盾が形成出来た。その上に乗ってみる。強度確認だ。
「……乗れるんだな」
足場になった。
魔力消費はそれなりに持って行かれる。だけど、盾になりそうだ。
ハンマーを両手で扱っている俺には、ありがたいスキルかもしれない。
こうして、その場を後にした。あの塹壕のことは覚えておいた方が良いかもしれないな。大量の素材を放置した。資金難に陥ったら、戻って来ることもあるかもしれない。
◇
森に入ってから、三日目が過ぎた。
ソリに乗せている魔石を詰めた袋も、二袋になっていた。
魔物は一対一であれば、そのまま倒す。複数に囲まれたら、結界術の発動。不意打ちは、空間障壁で防ぐ。
落とし穴さえも、空間障壁で回避出来た。
俺の戦法が確立し始めている。
だけど、そろそろ水が尽きて来た。そして、食料の缶詰も食べ切ってしまった。
俺は、結界術を発動して安全を確保してから、地図を広げた。
「……残りの距離が分からないんだよな」
比較対象が何もなかったので、現在地が分からない。
もうすぐ森の出口なのか、まだ半分も進んでいないのか……。
物資は尽き欠けている。森なので、木の実やキノコなどは見かけるけど、口にする気にはなれなかった。
腹痛で動けなくなるのは避けたい。確認方法でもあれば良かったのだけど、ないもの強請りだ。
運良くあの木箱の中に、植物図鑑でもあればまた違ったのだけど、ないものはないのだ。現状でなんとかするしかない。
まあ、本音を言えば、神様に用意しておいて欲しかったのだけど。
「せめて川でもあれば、また違うんだけどな……」
希望を口にしてみた。
地図を見るけど、大きい川しか書かれていない。
一日、四~五十キロメートル歩いているのであれば、もう二百キロメートルは進んでいることになる。
平地の森……。この森は、どれだけ広いんだろうか? 富士山の樹海くらいありそうだ。
スマホを見るが、着信は何もない。神様も、困っている俺を見るのは楽しいんだろう。
カバンより、焼いたコウモリの肉を取り出して食べる。少し匂っている。保存も限界かもしれない。俺は、残りの肉を全部腹に納めた。これで、食料は全て使い切ったことになる。
水筒の残りは、半分だ。それとワインが一本……。
考えていても時間の無駄だ。とにかく進むしかない。
立ち上がった時だった。
森の陰から、魔物が一匹出て来た。
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