第17話 移動4

 落とし穴に嵌まってしまった。

 だけど、無条件で落下してやる理由もない。

 俺は、ハンマーの柄の先端を壁に突き刺して、落下を止めようとした。


 ──ガン、ザク、ガリガリガリ……


「ふう~、止まったか……」


 上を見ると、五メートルほど落下したみたいだ。

 今は、壁に引っ掛かっている状態だけど、かなり危ない。魔物に襲われたらひとたまりもないな。

 俺は、金属のプレートをカバンから取り出して、壁に埋めた。

 この状態で結界術を発動する。

 結界術は、壁に沿って、横方向に展開された。その中に入ってみる。


「予定通りだな、結界の壁は、任意に操作出来るみたいだ。普段は、俺のみ通過可能であり、魔物は通れないように設定してある。

 だけど、俺が中に入り、俺の通行不可の設定にすれば、足場にもなる……、か」


 一応は考えていたけど、実用方法までは思いついていなかった。

 空中に金属プレートを散布して固定出来れば、足場となり、空中での方向転換やホバーリングも可能かもしれない。

 実用はかなり難しいかもしれないけど、応用は考えて行こう。

 俺は、結界術を次々に作り出し、足場を作成して行った。そして、落とし穴から出ることが出来た。

 穴から出た瞬間を狙っての魔物の襲撃も警戒したけど、特にはなかった。このエリアは、鱗粉さえ気を付ければ、襲われないのかもしれない。

 その後俺は、雷魔法を使い金属のプレートを回収した。磁力ではなく、一瞬の間だけど雷を鞭のように扱えるようにイメージしたのだ。雷魔法も、応用が効くようになって来た。レベルが上がって来たかな。

 この金属のプレートを回収する意味はない。残りはまだある。だけど、魔法の練習を兼ねての回収を試みただけだ。

 魔法はイメージ出来れば、応用の幅が広がって行く。思考は止めずに、色々とイメージして行こうと思う。


 この蝶と花の植物は、危険かもしれない。直接は攻撃してこないけど、罠を張って待ち構えるスタイルだと思われる。

 多分、落とし穴の先で拘束されて、養分にされるんだろうな。

 今はわずかな油断が命取りになりかねない。

 その後は、鱗粉に覆われた大地を慎重に進んだ。





 蝶と植物のエリアを抜けて、少し経った。


「ゴクゴク、ふう~」


 俺は、水筒の水を飲んだ。今後水場を見つけない事には、補充は出来ない。今は慎重に消費して行く。

 周囲を警戒しているのだけど、魔物の襲撃は止まっていた。

 どう考えても異常だ。サルなどは、百匹レベルで追って来たと言うのに。


「この辺りに何かあるんだろうか?」


 無意味かも知れない思考をする。

 それよりは、不意打ちに気を付けた方が良いだろう。

 だけど、解明したいというのも本音だ。最悪なのが、高レベルの魔物の領域テリトリーだった場合かな……。

 そのまま警戒を続けて進むと、人工物が見えた。


「何だあれ? 土嚢?」


 腰まで積まれた土嚢を見つけた。

 土嚢は、五メートルほどの円形をしており、円の内部は、少し掘られている。身を隠すことは出来ると思う。

 これは、塹壕になるんだろうか? ここで、陣地を張った人達がいる?

 だけど、トラップの可能性も否定出来ない。

 俺は、金属のプレートを塹壕の内部に投げ入れてみた。


「……特に何もなしか」


 そして、塹壕の内部には、木箱が置かれている。

 何かしらの物資が手に入りそうな予感もする。それと同時にトラップの可能性も捨てきれない。

 だけど、今の俺はかなり危険な状態でもある。

 現状を打破出来る物資を期待して、塹壕の内部に入ることにした。


 木箱のフタを開ける。


「……缶詰!?」


 驚いてしまった。前の世界となんら変わらない形状の物を発見したからだ。

 缶切りも置いてある。多少は錆びてはいるけど、刃は大丈夫そうだ。

 急いで開けてみると、煮魚が入っていた。一口舐めてみる。


「……塩が効いている。食べられそうだ」


 味付けはとても濃かったけど、水で押し流して一缶分を口に入れた。

 空を見ると、そろそろ陽が暮れる時間でもある。


「今日は、ここでキャンプかな」


 俺は、塹壕の周りに結界術を張り、今晩の夜襲に備えることにした。

 襲撃があるまでは、時間的な余裕があるはずだ。

 俺は、木箱の中の確認を行うことにした。





 木箱の中は、食糧とワインの様な酒、それと薬品と思われる物がほとんどだった。

 服や毛布などもあったけど、長期間放置されていたと思われる。使い物にはならなかった。

 同様に、薬品にも手を出すのは止めた。使えるかもしれないけど、口にするのは余りにも危険だ。

 食糧に関しては、缶詰以外は全滅だった。干し肉とかも腐っている。

 ワインは、匂いだけで酔いそうになったので、一本だけ持って行くことにした。アルコール消毒用だ。

 もし、街に着けたならば、飲むのも良いかもしれない。飲酒したことないけど。

 こうして、缶詰十個とワインを一本をカバンに入れた。

 塩が手に入らなかったのが残念だけど、ないものねだりしても仕方がない。塩分が手に入っただけ喜ぼう。


 不思議なのが、武器防具類がなかった点だ。弾薬なんてのもなかった。

 それと、こんな大きな木箱を、どうやってここまで運んだんだろうか?

 車輪の跡くらいあれば、理解も出来るのだけど、人力で持ち上げて運んだとは思えない。

 この異世界の常識……、魔法がある時点で俺の発想を上回る方法で運んだことが予想出来るけど、街に着いたら調べておいた方が良いだろうな。街に着けたら……。


 ここで、結界術を叩く魔物が現れた。案の定、アンデット類だ。

 だけど、数は一匹だけだった。それも、鎧を着けたスケルトンだ。外観的に、上位種になるのかな?

 俺が転移した場所と、この場所は何かが違う。だけど、その違いが分からない。

 まあ、情報がない今、考えていても仕方がないか。

 俺は飛んで、塹壕の上に降り立ち、ハンマーを振るってスケルトンを粉砕した。

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