第16話 移動3
「面倒だな……」
今俺は、追われていた。
相手は、サルの魔物だ。しかも数が尋常じゃない。
そして、次々に集まって来ているので、さらに増えている。後ろには結構な大群が押し寄せていた。
今は木の枝を足場にして跳躍しながら移動しているが、下を向くと地面はサルが埋め尽くしている。
それでいて、木の枝も飛び回っている個体もいる。
止まったら囲まれるだろう。
サルのスピードは分からない。とりあえずは、迫って来ない。一定の間隔を保たれている。
もしかすると、俺よりも速いのかもしれない。尻尾を起用に利用して樹から樹へ飛び回っているし。
獲物である俺を、いたぶって遊んでいるのかもしれないな。
だけど、包囲しようとはしてこない。ただ、追従してくるのみだ。意図が読めない。弱るのを待っている?
「……今のところは、スタミナ勝負かな?」
警戒しながら移動を続ける。
とにかく、スピードを保って木の枝間の移動を繰り返す。
方向となる高い山は、見え続けている。特に問題はない。
ここで、前方で何かが光った。
俺の勘が警鐘を鳴らした。このまま進むのはまずい。
急ブレーキをかけて、横方向に移動した。
ここで、サルが一匹襲いかかって来た。ハンマーで迎撃する。
その一歩の足止めで、サルに囲まれた。無数の手が伸びて来る。
雷魔法:纏雷
最大出力の雷魔法を纏った。唯一瞬時に発動出来る魔法だ。
俺に触れたサルに、スタンガンのような電流が襲う。
それと、空気を切り裂く音だ。目の眩む光も出た。野生の生物には特に効く音と光だろう。まあ、知能がなければだけど。
サル達が怯み、半分数が逃げ出した。統率者はいないのか?
だけど、囲みは解けていない。どうするべきか………。
ここで、一匹のサルが悲鳴を上げた。そちらを見る。
「………先ほど光ったのは、蜘蛛の巣だったのか」
陽の光でわずかに見えたのが幸いした。サルは糸に絡まっており抜け出せないでいる。
──パラパラ
頭上から木の屑が振って来た。俺は、視線を上げる。
「でかい蜘蛛だな……」
足を広げれば、 十メートルはありそうだ。馬鹿でかい蜘蛛が姿を現した。
どうやら、蜘蛛のテリトリーに入ってしまったみたいだ。
左手で、カバンから金属のプレートを取り出して握り締める。最悪ここで籠城して防衛戦だ。まずは、樹の枝から地上に降りないといけないな……。
だけど、意外にも蜘蛛は俺に襲い掛かっては来なかった。
蜘蛛の巣に引っ掛かったサルに向かったのだ。
それを見たサル達が、仲間を助けようと応戦し出した。
しかし、蜘蛛の方が圧倒的に強い。サル達は糸に絡めとられて次々に拘束されて行く。数の暴力もなんのそのだ。サルの攻撃など蜘蛛は気にしていない。
「……どうなっているんだ?」
気が付くと、俺の囲みが解けていたのだ。
サルの行動原理が、理解出来ない。
追い詰めた俺よりも、捕まった仲間を助ける? そもそも、森に棲んでいるのであれば、蜘蛛の巣など見分けられるんじゃないのか?
色々疑問も出たけど、勿怪の幸いだ。俺はその場から移動して、追撃を躱した。
その後、蜘蛛の巣が何個か見つかったけど、捕らわれることなく避けることが出来た。
「これ、夜中だったら見つけられないよな……」
かなり細く、強靭な糸みたいだ。そして、粘着性もあると思う。
捕まった場合は、最悪焼き切れば良いかもしれないけど、無駄な時間と魔力の消費はしたくなかった。
疑問を残しつつ、そのまま進む。出来れば二度と合いたくない。サルも蜘蛛も……。昆虫も嫌だな、気持ち悪いし。
肉の出る魔物が欲しいけど、熊も嫌だ。結局は、魔物に会いたくないという結論にしかならなかった。
◇
「……今度は蝶か?」
幻想的な風景だ。光る蝶が舞っていた。その大きさを考慮しなければだけど。
それと足元には、とても不気味な花が咲いている。正直毒々しい。
ここで気が付く。頭がクラっと来た。 慌てて口と鼻を抑えた。
『鱗粉か? わずかに吸い込んでしまった』
多分だけど、麻痺か昏倒の効果がありそうだ。
布を取り出して、顔の下半分を巻いた。皮膚から吸収する場合は、防ぎようがないが、今の装備は目の部分だけが出ている。
迂回も考えたが、多分大丈夫だと思う。最悪、纏雷で凌げると思ったからだ。
俺はそのまま、直進した。
一メートルを超える蝶の群れの下を進む。俺が動くと降り積もった鱗粉が舞い上がる。
植物は、触れなければ大丈夫そうだ。
とにかく急いでその場を後にしよう。
そう思ったのだけど、罠があった。
落とし穴だ。
降り積もった鱗粉により見えなかった。鱗粉の毒で意識が朦朧となっていたのも悪かったな。
そんな俺を見ても、蝶達は襲って来なかったのは幸いした。
多分だけど、蝶は肉食じゃないんだと思う。そうなると、食虫植物がいるのかもしれないな……。
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