第15話 移動2

 まだ乾ききっていない服を再度着て、マントを羽織る。

 俺は、移動することを決めた。

 正直、遺跡からから脱出する準備は出来ていないけど、ここに居続けるわけにもいかない。


 カバンは三個。神様から貰ったバックと、ドロップ品が二個だ。

 毛布は丸めて、カバンに固定した。

 それと、カバンには魔石等の小物を詰め込んである。文字が刻まれた金属の板も持って行くことにした。

 布類は、洗濯して畳んで入れた。使い道は色々とある。水筒三個もカバンへ括り付ける。

 地図とスマホは、懐に入れた。

 熊の爪は、短剣として、腰のベルトに挟んである。

 クワガタの大あごと甲殻は、布で縛って、背負う。場合により役に立つと思う。

 それと、剣四本も背負うことにした。結界術用だ。魔力を帯びていると思われる良い物を選んでみた。

 唯一の懸念点は、食糧がない点だろうか。こればかりは、現地調達だな。

 結界術もあるし、適当な魔物を狩るしかない。


 その他の剣と鎧は捨てて行くことにした。とても持ち運べない。

 短剣や、矢くらいはとも思ったけど、現時点で結構な重量なんだ。

 それに、アンデットやゴブリンが使っていた物でもある。整備されていないので、状態は良くなかった。


「三日程度だったけど、ここともおさらばか。もう戻って来ることはないだろうけど、感慨深いな……」


 変な愛着がわいているかもしれない。

 だけど、ここに残る気にもなれなかった。

 こうして、俺は森に入って行った。


 森の中は、動物と昆虫で溢れていた。

 だけど、今の俺ならば逃げ切れる。

 今は認識されても、追いつかれることはないスピードで移動している。

 森林の中を疾走する。フリーランニングだ。

 罠に注意しながら進んで行く。


 途中で蜂の巣を発見した。直径何メートルあるのかも分からない。

 それは、避けて通る。蜂達は、近づかなければ何もして来なかった。

 その後、鹿や虎、熊などを見かけたら、木に登り、枝と枝との間を跳躍して行く。とにかく戦闘を避ける。


 ある枝に着地した時だった。

 羽のある魔物が一斉に飛び出した。


「っぐ!!」


 一面魔物で埋め尽くされて、視界を奪われる。

 剣四本を地上に向けて投げて、結界術を発動する。その中に降り立った。

 俺に纏わりついていた魔物は、雷魔法に焼かれて魔石に変わる。

 数秒後、視界が晴れた。


「……コウモリか? 洞窟じゃなくて森の木にいるなんてな……」


 カラスより大きいコウモリが、俺の視界を遮ったみたいだ。

 だけど、地面には糞はない。ここはコウモリの巣ではないんだろう。狩りの途中だったのかな?

 移動途中だったのかもしれない。

 その後、何匹かが突撃して来たけど、結界術の前では無意味な特攻だ。塵に変わった。

 数分の後、コウモリ達は何処かに飛んで行ってしまった。


 そして視界が晴れると、魔物に囲まれていた。


「虎が四匹か……」


 長高は、三メートルと言ったところだ。立ちあがれば、五メートルはありそうだ。それが四匹……。

 着地してから、結界術を張った場合は、殺されていたな。

 さて、どうしようか……。

 結界術の魔力はまだある。だけど、外に出た時点で襲って来るだろう。

 虎達も、俺が出てくるのを待っているみたいだ。


「一対一の状況に持って行かないとな……」


 俺は、カバンの中の文字の書かれた金属製の板を鷲掴みにして、辺り一帯に投げ撒いた。

 虎達は、一度距離を取ったけど、再度間合いを詰めて来る。

 その油断が命取りですよ。


 金属性の板四個を指定して、再度結界術を発動させる。

 結界術の多重起動。そして、艦の完成だ。

 計五個の結界術を起動した。魔力を多分に持って行かれたけど、怪我をするよりは良いはずだ。

 虎は、結界術から逃れようと体当たりしているけど、逃げられない。実際のところ物理的に破壊するには、相当にレベル差がなければ無理だと思う。

 唯一の懸念点は、魔力を使われた場合に結界術内の魔力と相殺されてしまうことだけど、この虎は物理寄りみたいだ。

 破壊される心配はなさそうだ。そして、雷に焼かれて少しずつだけど、塵が舞い上がって行った。


 かなり弱って来たので、結界術の外からハンマーで攻撃する。

 だけど、避けられた。かなり素早い。


「命中率が低すぎるのかもしれないな……。DEXの値を考えるか。アンデットは、鈍かったから気にもしなかったけど」


 考えながら、ハンマーを十回ほど振ったら当たった。

 腹に命中して内部爆破が起こったみたいだ。口から塵を吐き出している。その後横たわり動かなくなった。追撃で止めを刺す。

 残り三匹は、俺に対して怯えの表情が見える。

 俺は構わずに、ハンマーを振るった。





 少し時間はかかったけど、コウモリ十匹と虎四匹を倒すことが出来た。

 ドロップアイテムは、魔石と肉だ。肉は……コウモリの肉。小さいが、計五個のドロップ。

 ドロップ率とかあるんだろうか? 大きな虎は、肉を落とさずに、コウモリは50%の確率で落とす……。

 検証したいけど、今することじゃない。


「一日程度だけど、食べていないんだよな……」


 せっかく結界術を使ったのだし良いよな。小休憩とする。

 両手で、コウモリの肉を持ち雷魔法を発現する。

 焼くのでも、煮るのでもない。電子レンジと同じく『温める』。一分程度で肉の色が変わった。


「あちち……」


 肉を割いて食べてみる。


「……まずい」


 調理したとはいえ、温めるだけだと美味しくないんだな。せめて焼いた方がましか……。

 とりあえず、二匹を腹に収めた。いや、水筒の水で押し流した……、か。


 気を取り直して、再出発する。まだ日が高いので、視界は良好だ。

 それでも、油断せずに行こう。

 俺は再度移動することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る