第14話 移動1

 俺の回復魔法……生命置換は、損傷個所の修復を行うモノだった。いや、俺がそうイメージした。

 俺のイメージは、魔力が損傷した細胞の代わりとなる。細胞の代わりとなれば、その後、魔力が細胞に変化して行く。

 エネルギー源としての雷魔法のイメージが強すぎたのかもしれないな。

 回復魔法と言うと、細胞を活性化させて分裂を促すのが普通かもしれないけど、俺は、『置き換える』イメージとした。

 魔法と言うものを学んでいないので、正解かどうかは分からない。

 ただし、全身の傷は癒えた。貧血も改善の傾向がみられる。血を作れるのかもしれない。

 それと、魔法発動中は結構痛い。これは、改善して行こうと思う。


 動けるようになったので、ゴブリンの魔石を回収することにする。

 それと、ドロップアイテムだけど、多種多様な武器を残してくれた。

 ただし、手入れされていないので使えそうな物はなかった。まあ良い。短剣などの金属類には、地雷を付与して放置しておく。

 もうすぐ夜だし、アンデットが踏んでくれると思うし。


「弓矢はどうしようかな……」


 弓は別としても矢は、使えるかもしれない。少し考えて、弓矢は、荷物置き場に置いた。


「これは……、布と言うよりマントか?」


 魔力が付与された、マントを見つけた。汚れも匂いすらない。これは使えるかもしれないな。

 雷魔法を流してみたのだけど、このマントは弾いた。魔法防御力が高いのかもしれない。

 このマントは、装備してみた。古いマントは、風呂敷として使用するために、荷物置き場に。

 多少でも防御力の向上に期待したい。戦闘中に破けたら、捨てても良いし。


「戦利品は、こんなもんで良いかな……」


 最後に、干し肉だ。食べかけの肉片が散らばっていた。これらは、さすがに食べられない。

 だけど、一枚だけ、手の付けられていない干し肉が残っていた。遺跡の高い部分に干していたのが幸いした。

 ゴブリン共では、届かなかったと思う。

 神様に貰った食料は、空だ。食べておくべきだったな。最後の干し肉を食べながら考える。


「ここにいるのは、自殺行為だよな……」


 もうすぐ日暮れだ。今夜も襲撃があると思う。

 結界術はまだ残っている。地雷トラップもまだ生きていた。迎撃態勢は整っている。だけど、体調がまだ優れない。

 干し肉を全て腹に納めて、また少しだけ休むことにした。





 異世界三回目の夜。

 レベルの上りも悪くなって来た。食料も荒されて尽きている。

 この平地は、安全地帯とも言えない。

 そろそろ移動を考える時だと思う。

 俺は、そんなことを考えながら、アンデットの迎撃を行っていた。

 動きが遅いのが幸いしている。次々に討伐して行く。


 怪我は治っていた。毒も洗い落としたので影響は少ないみたいだ。

 軽く食事出来たのも大きい。

 綱渡りだけど、俺はまだ生きていた。


 ──ズシーン


 その時だった。重い音と共に地面が揺れた。そちらを見る。

 焚火の灯りに照らされて、その一部が見えて来た。

 一度後退して、結界術の中に入る。


「でかいな……。10メートルくらいの骸骨か?」


 元巨人を思わせる骸骨が、闇夜より現れた。

 巨大な骸骨は、四つん這いで俺に迫って来た。地雷トラップを踏んでも影響が見られない。

 ラージスケルトンとでも呼ぼうか。


「さて、どうしようかな……」


 一対一であれば、俺のハンマーで各部位を叩けば良かったと思う。だけど、周囲に雑魚のアンデットが徘徊している。それも、結構な数だ。俺の防具は、気休めのチェーンメイルと魔法のマントのみ。そして、わずかな怪我で終わりだと思う。


「正面から戦う理由はないよな……」


 俺は水筒のフタを開けて、ラージスケルトンに投げつけた。

 上手い具合に眼の部分に引っ掛かる。そして、水がかかるとその部分が溶け出した。

 ラージスケルトンが暴れる。錯乱状態に陥ったみたいだ。

 そして、俺に突撃して来た。

 骸骨とはいえ、巨大な質量なんだ。カウンターで裏当てを入れても良いのだけど、あの巨体全てに衝撃を伝えるのは無理があるかもしれない。


「まあ、しょうがないか……」


 俺は、最後の手段に打って出た。

 敵に背を向けて全力で走る。そして、大きくジャンプした。そう俺は、池に飛び込んだのだ。

 向き直して、バックステップでさらに池の奥へ進んで行く。深さは、もう胸くらいいある。

 アンデット共は、池の前で止まった。だけど、ラージスケルトンは、雑魚を踏み潰して池に入って来た。

 ラージスケルトンの体が、何かの科学反応を起こしたかのように激しく反応している。それでも、ラージスケルトンは、俺に近づこうして、池に入って来る。俺の目前に、ラージスケルトンの頭蓋骨が迫って来た。

 俺がその頭蓋骨にハンマーを叩き込んむと、ラージスケルトンが塵となる。


「賭けには、勝ったかな……」


 他のアンデット共は、池には入って来なかった。矢も飛んで来ない。

 だけど、池から抜け出せる場所はなかった。





 今は、胸まで池に浸かっている。正直、動けない。矢や投石が来たら防ぎようもない。

 池の淵には、大量のアンデット共がいる。俺を上陸させないように陣を構えている感じだ。

 運が良かっただけかもしれないけど、投擲してくる個体はいなかった。

 俺もアンデッドも手詰まりの状態。体感的に数時間の対峙……。


 ここで、朝日が差し込んで来た。

 夜が明けたので、アンデット共は帰って行く。


「ふぅ~。助かった……、か」


 俺は、池から出て、濡れた服を絞った。

 スマホが心配だったけど、水没しても問題はなかった。壊れないとは思えないけど、もしかすると神様が何か細工をしているのかもしれないな。

 その後、焚火で冷えた体を温めた。

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