第12話 結界術3

「はぁ、はぁ……。まずい。切られた。それに刃に毒が塗られていたみたいだ」


 今俺は、左腕を切られて、出血を抑えている。

 結界術の中に逃げ込んだので、一応は無事だけど、状況はかなり切迫している。


 時間が少し遡る。

 昨日と同じように、夜明けから昼まで睡眠を取った。起き出して、結界術から出た時に矢が飛んで来た。

 その矢は、躱したというより、俺の足元に落ちたのだけど、その後がいけなかった。

 百匹の小人みたいなのが、襲って来たのだ。多分だけど、ゴブリンと言う奴だと思う。


 数の暴力……。甘く見ていた。

 数匹は、何時ものように倒せたけど、数が多すぎる。それに俺のハンマーは長すぎて、回転率が悪い。

 すぐにジリ貧に追い込まれた。

 ゴブリンは賢くて、数匹が地雷トラップに引っ掛かると、足場の剣は踏まなくなった。

 そして、360度囲まれる。

 俺に選択肢はなかった。瞬時に結界術内部に逃げ込こもうとしたのだけど、死角からの一撃を貰ってしまった。

 一度足が止まると、集中砲火だ。

 チェーンメイルを着ていなければ、致命傷を負っていたかもしれない。

 ハンマーを大きく振って、纏わりついていたゴブリンを振り払ってから、結界術の中に逃げ込んだ。


 結界術の中から、ゴブリン達を見る。

 干し肉を上手そうに食っていやがる。それと、神様に貰った食料もだ。

 魔石や荷物も漁り出した。


 俺はまず、傷口を布で縛った。

 その間に数匹が、結界術に触れて感電死した。そうすると、投石のみの攻撃に切り替えて来た。しかし、投石も結界術に阻まれて俺には届かない。

 数はまだまだいる。数匹感電死しても、まさに焼け石に水だ。そして、何より厄介なのは、学習している点だ。

 時間が経てば経つほど、俺に不利に働く。

 今思い着く選択肢は、一つしかない。

 俺は、雷魔法を駆使して、剣を四本引き寄せた。


 ここで巨大な火の玉が、結界術を襲った。その方向を見る。

 杖を持った術師? シャーマン? みたいなのがいる。あれだけは、他と区別がつく。

 群れのボスなのかもしれない。

 結界術の魔力が切れたら、本当に終わりだ。まだ気が付かれてはいないと思うけど、ボスが出て来たのでさらに追い込まれた感じだ。

 俺は剣を四方向に無造作に放り投げた。

 そして、今投げた剣を起点に結界術を発動する。

 結界術の二重起動。ぶっつけ本番だが、他に選択肢が思い浮かばなかった。


 魔力のほぼ全てを結界術に回し切ると、ゴブリン達が次々に倒れ出した。結界内の雷に焼かれ出したのだ。

 こいつらは聡い。自分達の不利を悟ると、一目散に撤退を選択した。

 まあ、術が完成しているのでもう遅いのだけどね。


 最後に残ったのが、先ほど火の玉を放って来た、ボスっぽいゴブリンだ。

 俺は、右手でメイスを抜き、ボスゴブリンに突撃した。


 ボスゴブリンは、結界術対策として、魔力を纏っていた。雷に焼かれていない。

 あれで、相殺出来るのか……。結界術の魔力が尽きるのが先か、ボスゴブリンの魔力が尽きるのが先かの勝負には持って行けない。結界術の魔力が先に尽きた場合は、俺の負けが確定する。

 魔法は、まだまだ検証が必要だな。


 俺はメイスを振り上げて、ボスゴブリンめがめて振り下ろした。

 ボスゴブリンが、杖で受ける。

 ここで、裏当てが発動する。ボスゴブリンの両手が折れて、頭に軽い一撃が入った。ボスゴブリンは、驚愕の表情で俺を見ている。だけど、脳震盪を起こしているみたいだ。フラフラだ。

 俺はその頭に、追撃のメイスを叩き込んだ。


 ボスゴブリンが、塵になる。

 その場には、技能石が残った。





 俺は、技能石を拾って荷物置き場に移動した。

 左腕の出血が酷い。それと、チェーンメイルを着ていたとはいえ、無傷とはいかなかった。全身打撲だ。

 体を引きずるようにして、荷物置き場に付いた。


「スマホは、大丈夫か……。壊されなくて良かった」


 外部との唯一の繋がりなんだ。今は神様からメールを受け取るしか出来ないけど。

 スマホは、今後持ち歩くようにしよう。

 それと、左腕の傷に池の水をかけてみた。

 かなり染みるけど、綺麗に洗ってみた。そして気が付く。

 傷口から煙が上がっていた。


「……上手くいけば、解毒をしてくれそうだ」


 その場に倒れ込む。多分、これから熱が出ると思う。

 少なくとも明日一日は、動けないだろうな。

 動けなくなる前にするべきこと……。出来るだけ現状を確認する。

 干し肉は、かなり食べられてしまった。百匹もいたんだ。一瞬で消費されてしまったみたいだな。

 だけど、まだ少しだけ余裕がある。水筒の水も十分にある。汲み直す必要はない。


「この場に留まり続けるのは、自殺行為だよな……」


 それだけ呟いて、技能石を割った。

 現時点で、戦闘継続は不可能だ。結界術がなければ、次の襲撃で終わりだったろうな。

 いや、結界術の魔力が切れた時点で終わりだ。まだ、窮地にいる。

 今はこの技能石にかけるしかない。

 もし、関係のないスキルだった場合は……、どうしようかな?


『ステータスの魔法欄に任意の魔法を付与出来ます。種類を選んでください』


「はぁ、はぁ……、任意?」


 頭がボーとして来た。魔法を追加……。今欲しい魔法?


「回復魔法が欲しい……、です」


 そこで、気を失った。

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