第10話 結界術1

 結界術をイメージする。

 イメージは、『指定した空間に魔力を充満させる』だ。

 まずは、俺の周囲1メートル程度に魔力を放出させてみる。

 今までの雷魔法とは異なる。剣などの媒介なしで魔力が留まっている感じだ。

 だけど、維持は難しかった。魔力は留められずに霧散してしまった……。

 推測する。


「結界術とは、魔力を留める技術だとしよう。そうなると、雷魔法とは相性が悪いよな……」


 俺の雷魔法の使い方は、一度溜めてから放つことを基本としている。

 この〈一度溜める〉のが難しい。持って数秒だからだ。

 タイミングを誤ると、保持出来ずに、魔力が霧散してしまう。


 俺の雷魔法のイメージは、エネルギーの塊であり、放出すれば、そのスピードが重要になって来る。

 ここで思う。水とか土魔法であれば、物質を溜めるイメージは簡単に出来るだろう。


「属性に雷を選んだのは失敗だったか。いや、今日結界術が手に入ると分かっていなかったんだ、それこそ結果論だよな」


 スキルと魔法の相性は、悪いかもしれない。

 だけど、考えれば使い道もあると思う。

 ここで足元に転がっていた剣を見た。地雷の媒介にした剣だ。


「……金属の媒介があると、溜めることは出来るのか?」


 考える。

 結界の意味。雷魔法と金属の関係。それと、今俺が必要なスキル……。


 ──ズズ


 ここで音を拾った。

 音の方向を見ると、またナメクジだった。

 考える時間が欲しい時に、天敵が現れてしまったか……。


 俺は、とりあえず地雷が付与された剣をナメクジに投擲してみた。

 剣はナメクジに命中して、内部から雷魔法が放たれる。


 ──パリパリ


 ナメクジから、多少の塵が出た。雷魔法で、若干削った感じだ。そして、剣はナメクジの体内からはじき出された。剣は濡れていると言うより、溶けている感じがする。

 ここまでは予想通り。

 次々に剣を投擲するが、ナメクジは、何事もないように進んで来た。

 これも予想通りだ。でも、結構ビンチだったりする。冷や汗が止まらない。


 まず、ハンマーによる打撃は効かない。雷魔法は威力が低すぎる。前回みたいに、水で濡らせて感電死させるのは、効率が悪すぎる。二匹目が出て来た時点でアウトだ。

 考える。思考を止めない。

 雷魔法は、効いているんだ。後は、その方法……。

 雷は、エネルギーの塊であり、一瞬で霧散してしまう特性を持っている。

 その効率的な運用方法……。

 俺の思考時間などお構いなしに、ナメクジが近づいて来た。


「……」


 俺は、剣を四本拾いナメクジの周囲に投げて地面に刺した。

 そのうちの一番近い剣に雷魔法を流し込む。

 ここで、結界術を発動。効果範囲は、四本の剣の内部を指定する。

 俺の雷魔法が、四本の剣を周回するように回転し始めた。

 結界内に魔力が充填されて行く……。


 ──バリバリバリ……


 ナメクジが雷で焼かれて行く。


「はぁ、はぁ……」


 気が付いた時には、ナメクジは感電死しており、塵が舞っていた。





「ふぅ~」


 大きく息を吐き出して、結界の内部に入る。


「これは、都合が良いな。雷魔法が霧散しない空間か……」


 今までは、魔物の内部に雷魔法を流し込んで、爆発させるイメージを持っていた。その時の威力を10とするならば、今のこの空間内は、100以上になると思う。

 雷魔法は、一瞬で霧散してしまうのが、欠点であったのかもしれない。生み出したエネルギーを十分に伝えられていなかったと推測する。

 だけど、この空間に限れば、魔力が完全に消費されるまで、俺の指定した対象を襲って行くと思う。

 電気の制御……。もし専門知識があれば、色々なイメージがわいたのかもしれないな。

 俺は、その場に寝転んだ。

 眼を閉じて、力を抜くと、すぐに眠ることが出来た。

 さっき眠ったばかりだけど、やはり熟睡出来なかったみたいだ。それと、ナメクジ戦で頭を使い過ぎたので、疲れがピークに達したみたいだ。





 再度、目が覚めた。頭はスッキリしている。

 結界術を確認すると、問題なく起動していた。


「結界内の魔力は、多少は減っていたけど、一割以下だ。問題はない。持続時間は、始めに込めた魔力と周囲の環境に依存しそうだな」


 感覚で得た、結界術のイメージを口にしてみた。検証すれば、使えなくはない。

 周囲を見渡す。日暮れまでには、まだ時間がありそうだ。

 ここで気が付いた。

 狼のような魔物が、三匹ほど平地を伺っていた。


「丁度良いや。実験に付き合って貰おうか……」

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