第6話 魔法
とりあえず、その場に座り込み水筒の水を飲む。
周囲を見渡して、警戒及び確認を行う。
魔物は、この平地に入って来る可能性がある。そして、投擲された場合は、今の俺には防ぎようがない。
一番危ないのが、不意打ちだろうな。毒でも撃ち込まれたら終わりだと思う。薬もないし。
警戒しながら、熊の魔物がいた場所に落ちていた物を拾う。ドロップアイテムは、石と爪、肉だった。
肉は、まさに正肉であり、骨が付いていない。加工品のようだ。この辺は疑問が残るが後回しかな。
遺跡の中央にある壁の部分に寄りかかり、座る。
まず石の方だけど、魔石だろう。
神様が言っていたので、これは重要なアイテムになると思う。
魔力を送ってみる。
──パチパチパチパチ
静電気が発生した。
今度は、魔石を置いて右手だけで、魔法の発動を行う。
──パチパチ
「……なるほど。威力が段違いだ」
少しだけ分かった。魔石は、魔力の塊みたいだ。
僅かな魔力で、魔法が発動する。
MPが十分にあるのであれば、不要かもしれないけど、今の俺はMPが少ない。
実験程度に、枯れ枝を拾って雷魔法を発動してみる。
数秒後に発火した。
とりあえず、枯れ枝を拾い集めて焚火を作った。
その上に熊の肉の塊を吊るして、燻製もしくは干し肉を作り始める。
燻すという表現が正しいと思う。
「これで、保存食になるんだよな……」
自分の僅かなサバイバル知識から引き出した方法だった。
魔物の肉が腐らない保証はない。食べられないことはないと思うけど……。
問題は、どれだけの期間、保存出来るかだ。
こればかりは、実際に時間経過を観察しないと分からない。
中に火が通るまでには、一時間はかかると思う。大きい塊の肉だし。
その間に検証してしまおう。
まず、爪だ。正直刃物だな。研がなくても鋭利だった。
枯れ枝を切ってみるけど、スパッと切れた。
長めの包丁程度であるけど、本来であれば戦闘に使えると思う。
だけど、今の俺に刃物は不要だ。解体用に使えると思うので、捨てはしないけど。
神様からの荷物の中に布があったので巻き付けて、その場に置いた。
「さて、魔法の実験と行くか……」
右手に魔石を、左手にハンマーを持つ。
そして、ハンマーに雷魔法を流し込んで行く。
その状態で、地面に落ちていた、壁の一部だった岩を叩いてみる。
──ガン
次の瞬間に粉々になった。
「裏当てで内部破壊を起こして、そこに魔力を注ぎこむ……。有効かもしれないな」
後は、魔石の持ち方だ。これは服に着いているポケットに入れれば良いことが分かった。
俺の唯一の戦法が、確立した瞬間だった。
ハンマーによる雷魔法の注入。今は、これ一択だけど、一撃必殺でもある。
成長があるのかどうかも分からない。この戦法が効かない相手がいた場合は、逃げるしかない。
だけど、出来るだけあがいてやろうと思う。
一度、落ち着く。
「時間も出来たし、節約してても腐るだけだ。神様に貰った食料を食べるか」
◇
鞄に入っていた食料を一食分食べ終えてから、肉の火の当て方を変えていた時だった。
視線を感じた。
ハンマーを握る……。
そして、日陰からそれが現れた。
「クワガタかよ。気持ち悪いな」
大きいが、長高二メートル程度だ。先ほどの熊に比べれば、恐怖心もない。
黒光りしている外骨格が、気持ち悪いだけだ。
一足飛びで間合いを詰める。そして、ハンマーを振り下ろした。
ところが、クワガタは飛んだ。そう、飛んでハンマーを避けたのだ。
今の俺は、全体重をハンマーに乗せている。体勢を立て直さないと動けない。
そして、クワガタの大あごが、俺の首を襲って来た。
俺は、ハンマーを手放して、地面に倒れ伏した。
とっさに、腰に取り付けていた、メイスを抜く。
大きく一歩を踏み出して、全力のアッパーカットをクワガタに叩き込んだ。
その一撃には、雷魔法も付与している。
一瞬の光と、空気を切り裂く音……。
クワガタは、ひっくり返って動きを止めた。
「そりゃそうだよな。一撃必殺かもしれないけど、避けない理由はないよな……」
今のは危なかった。
反射で動けていなければ、俺の首が飛んでいたと思う。
少し待つと、クワガタが塵となった。倒したということだな。
残ったのは、大あごと甲殻だ。それと、魔石はまた出た。
「このままでは使えないよな……。加工は出来るのかな?」
そう考えてドロップアイテムを拾った時だった。
──ピロン
スマホが鳴った。前の世界で俺が使っていたスマホだ。
ここは電波が繋がるんだろうか? いや、Wi-Fiかも?
俺は、クワガタのドロップアイテムをかかえて、荷物置き場に移動した。
◇
「う~ん……」
今俺は、スマホの履歴を見ている。
未読メールが一件入っていた。間違いなく神様からだろうな。
恐る恐るメールを開く。
『ステータスポイントを振るのを忘れていますよ。神様より』
「見られているのか……。それもそうか、必死にあがく俺は面白いだろうな」
とりあえず、熊肉のところへ戻った。
熊の爪と、クワガタの大あごで肉を切ってみると、とても良く切れた。
扱い辛いが、立派な凶器だ。俺には向かないけど。
中まで火が通っていることを確認して、肉をスライスにする。
天日干しすれば、干し肉となるはずだ。
塩がないので腐らないか不安だけど、ない物はしょうがない。
いや、キャラメイク時に神様に頼めば塩くらいは、荷物に入れてくれたかもしれないな。
次の機会があるのか分からないが、覚えておこう。
異世界転移直後は、塩が欲しい……、と。
熊肉を一齧りする。獣臭いが、食べられないことはない。
咀嚼しながら考える。
まだ、準備不足だ。情報もないし、水筒も一つしかない。
干し肉だけは、大量に手に入った。一キログラムはあると思う。
魔物討伐による物資の確保を優先的に行い、確信が持てたら移動が良いと思う。
それと、魔法だ。まだ、未知の部分が多い。使い方次第だとも思う。
ここは危ない場所かもしれないが、準備なしで移動の方が危ないと判断する。
「ごくん」
俺は熊肉を飲み込んだ。
とりあえず、ステータスの確認を行うか。
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