第5話 初戦闘
眼が覚めた。
まず、自分の手足の確認だ。
問題なく動いた。そして、違和感に気が付く。
「右手首と左腕の痛みがない?」
服装は、革製の厚めの生地を着ていた。ブーツも丈夫そうだ。
とりあえず、腕に取り付けられていた篭手を外して、両手を確認すると、手術痕までなくなっていた。
明らかな違和感に動揺が隠せない。
周囲を見渡す。湧き水だろうか? 池? 貯水池?
池のような場所があったので移動してみた。
「……はは」
水面に映し出された自分の顔を見て、笑いが出た。
殴られてた時に出来た傷跡……、唇を大きく切った痕まで消えていたからだ。
多分、神様のサービスなんだろうな。全身の怪我を治療してくれている。
これが、『おまけ』なのかもしれないな。こればかりは、神様に感謝だ。
それと、水を救って飲んでみた。
「……飲料水としては、問題なさそうか」
だが、ここは何処だろう?
遺跡? 廃墟? 崩れた建物はあるけど、誰もいない。
そして、屋根のある建物もなかった。
こうなると、ここには住めない。食糧が尽きた時点で終わりだ。
周囲を見渡すと、開けた土地の外は森だった。
思案する。
「ここでサバイバルか? この世界の人とは関わり合わなくて良い?」
神様は、討伐とか貢献度と言った。
そして、俺の性格から一人でいられる場所を選んでくれたのだと推測する。
そうなると、まずすべきことは……。
元の位置に戻り、物資の確認を行うことにした。
「三日分の食料と、水筒。そしてスマホか……」
着信メールが入っていたので、開いてみる。
『気分はいかがでしょうか? そこは危険な土地なので早めに移動することを勧めます。それと、このスマホは充電不要の仕様にしました。神様より』
危ない。勘違いしていたのか? ここは危険な土地? 移動? 方向は? 嫌な汗が噴き出して来た。
とりあえず深呼吸をして、水筒に水を汲む。
──グルル
俺は、何かの鳴き声に反応して、背後を振り向いた。
そこには、巨大な熊がいた……。
◇
視線は逸らさない。長高は三メートルくらいだろうか?
俺よりもはるかに高い。
水筒は慌てずにフタをして、足元に置いた。
そして、ハンマーを手に取る。
数秒の対峙……。体感時間的にはかなり長いが、実際はそんなもんだろう。
だけど、ここで異変に気が付いた。
熊は近寄って来なかったのだ。
森から出てこようとはせずに、平地には踏み込んで来ない……。
「ふう~」
一呼吸入れて、俺から近づくことにした。
ハンマーを構えて、一歩、また一歩と近づいて行く。だが、熊は動かない。
ハンマーの先端を触れられる距離まで近づけた時だった。
熊が突進して来て、俺に爪を立てて払おうとして来た。
目に見えないほどのスピードだ。
反射で、ハンマーの柄を盾代わりにして防いだ。
この後のことは予想が付く。吹き飛ばされて、地面をバウンドして動けなくなる……。
受け身を取らなければ……。そう考えた時だった。
熊の爪とハンマーの柄が、衝突した瞬間に、それは起こった。
俺は、吹き飛ばされなかったのだ。
そして、熊の手の甲が爆発した。
感覚で分かる。
「裏当て……」
そう、俺のユニークスキルが発動したのだ。
熊は、耳障りな咆哮を上げた。そして地面に倒れ込むと、さらに苦しそうな表情を浮かべる。
ただし、眼は憎悪を抱きながら、俺を見ている。
熊は、膝まづきながら動こうとしない。
「何かがおかしい……」
それだけは分かる。推測する。思考を止めない。
バックステップで先ほどの池まで戻り、水筒を手に取った。
熊の攻撃が届かない範囲から、水筒の水を振りかけてみる。
熊に水が掛かると、煙が上がった。まるで、酸性の液体をかけたみたいな感じだ。
熊が立ち上がる。だが、もうそれほどの脅威は感じなかった。
片腕は潰れているし、足も揺れている。
残ったもう片方の腕の爪で攻撃して来た。俺は、それをハンマーで迎撃する。
何も考えていなかったけど、当然の如く熊の腕が爆発した。
最後に俺は、大きく振りかぶって、熊の頭にハンマーを直撃させた。
「裏当てか。反射とは違うな。内部爆破もあるみたいだけど、認識できれば盾にもなる。必ず発動するのであれば……、使えるかもしれない。とにかく検証からだな」
独り言を呟いて、その場に座り込んだ。
「これが魔物であり、討伐になるんだよな……」
全身汗でびっしょりだけど、パニックに陥らなくて良かった。
幸運が重なっただけ……。そうとも言える。
何も分からない状況で、ユニークスキルと池の水が効果を発揮した。
まだまだ、不明確な部分が多い。検証しなければ始まらない。
それと、拠点をどうするか……。
熊の魔物は、挑発したら平地に入って来た。ここは安全地帯とは言えない。不意打ちや投擲があれば、即アウトかもしれない。
「神様。今更だけど、もう少し説明が欲しかったですよ……」
そう呟いた時だった。
熊の魔物が、塵となり風に吹かれて崩れた。
そして、その場に何かが残ってた。
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