第2話 家族との別れ

 俺の名前は、新道翔斗しんどうしょうと

 十九歳のアルバイト作業員だ。今は建設会社に登録している。

 ちなみに父親は、他界している。


 俺は、中学時代荒れていた。時代錯誤も良いとこだ。

 同級生を殴り、補導された事もあったな。その度に、母親に迷惑をかけることになる。

 そして、それが起こった。

 背後から襲われたのだ。フルフェイスのヘルメットで顔を隠していたが、同級生達だということは分かった。

 俺は必死に抵抗して、金属バットを奪い取り一人の襲撃者の鎖骨を折った。

 だが、複数に囲まれていた。直後に金属バットが俺の頭をめがけて襲って来た。

 右手で受けたのだが、手首が砕けてしまった。一生涯後悔する怪我を負った瞬間だった。

 その後、誰かが通報してくれたみたいで、襲撃者は逃走。俺は病院に運ばれて三日ほど意識不明だったそうだ。

 起きた時の、母親と妹の顔は今でも忘れられない……。もう喧嘩は止そうと誓った出来事だった。

 襲撃して来た同級生は、鎖骨を折ったことを警察に話すとすぐに見つかった。

 そいつらは、殺人未遂だ。少年院送りとなった。

 俺だけ罪なしとなったが、その後長いリハビリ生活を送らなければならなくなる。


 全身骨折での長期入院。脳震盪も疑われた。

 そんな俺を、誰も咎めては来なかった。相手の両親達も、俺のミイラ状態を見て頭を下げて来たくらいだ。

 それほど酷い怪我を負ってしまった。


 その後、地元の普通の偏差値の高校へ。

 右手が動かなくなったが、ほとんどの事を左手で行えるようになっていた。

 それとスポーツテストで一級が取れた。

 長いリハビリ生活は、俺に恵まれた肉体を与えてくれたみいだ。

 そして、野球部の誘いを受ける。

 俺の家庭は貧乏であり、高校生活はアルバイトを行いたいと言うと、費用を全額学校が負担すると言い出して来た。

 母親と妹に相談すると、ぜひにと言われた。これで断る理由がなくなってしまう。

 ポジションはピッチャーだそうだ。毎日筋トレ。そして、毎日三百球の投げ込み。

 辛かったが、必死に耐えた。真面目に生きて行こうと思ったからだ。

 だが、上手くはいかなかった。

 ある時、左腕が変色しているのに気が付いた。内出血かとも思ったが、痛かったので、監督に相談して病院へ。

 血行障害と診断された。そして、肩と肘の靭帯を痛めているとも。

 今考えれば、当たり前だ。素人がいきなり投げ込みなどを行えば、痛めて当然だよな……。

 監督は、古い時代の人だったみたいだ。今の時代であれば、育成プログラムがマニュアル化されているみたいだが、知らなかったらしい。

 俺は、数年間の投げ込みを禁止された。そして退部を余儀なくされた。両腕の負傷だけを残して……。

 その後、野球部とは関わっていない。

 そして俺は、アルバイトを始めた。数時間だけの誰とも関わらなくて良いアルバイトを選んで、静かに高校生活を過ごすことにした。


 だが、悪いことは重なる。

 高校三年生の時に、母親が倒れたのだ。働き詰めて、無理をし過ぎたらしい。体を壊して入院となった。

 家の蓄えも僅かにあったので、なんとか高校だけは卒業できた。

 だが、就職は上手くいかなかった……。

 まあ、荒れていた時期があり、出席日数もギリギリ。成績も良くない。

 学生生活の評価から、全ての企業の面接は受からなかった。

 それでも、高校を卒業できただけ良しとした。


 妹は、今は高校二年生であり、アルバイトで生活費を家に入れて貰っている。

 俺は、高校卒業と共に、新しいアルバイト生活を始めた。今は、賃金の良い建設業のバイトをしている。

 体格には恵まれたので、重宝されていた。まあ、若いうちだけだろうけど。

 それと、もう治らない負傷を両手に負っている。

 細かな作業は向いていない。投げる動作なども向かない。

 ただ何も考えずに、パワー系の作業を朝から晩までひたすら熟す。

 もうこれ以上の怪我は負えない。とにかく注意して肉体労働で稼ぐ日々を送っていた。


 そう、病院の帰りに、光に照らされるまで……。





 気が付くと、一面白い空間で寝ていた。

 とりあえず、上半身を起き上がらせてから、記憶を手繰り寄せることにした。


「最後の記憶は……」


「あら? ここに来たにしては、随分と落ち着いている人ですね」


 目の前に、若い女性がいた。服装は中世を思わせる。

 コスプレかよ……。

 しかし、何処だろう?

 病院じゃあないよな……。


「まず、コスプレではありません! 今後注意してくださいね! それと、あなたにチャンスをあげます。このまま死にたくはないでしょう?」


「……死ぬ? 俺は死んだのか? そうか、車に轢かれたのか」


「理解が早くて助かります。それでどうでしょう? 私の手助けをして貰えないでしょうか? それなりの対価をお支払いします」


 全身から力が抜けた。気を張って生活していたのだけど、こんな終わり方をしてしまったか。

 母親と妹には、迷惑をかけるだけかけて、人生が終わってしまった。

 少しでも取り返そうと思ったけど、結局俺の存在は迷惑以外のなにものでもなかったな。


「いや、車に轢かれて死亡したのであれば、多少の保険金は降りるかな」


「その程度で良いのですか? お母さんも妹さんも悲しんでいますよ?」


「もう戻れないのでしょう? 二年くらいは生活できるお金は支払われるだろうし、後のことは妹に任せるしかないでしょう?」


「もし今からでも、手助けできる方法があるとしたらどうしますか?」


 ──ビク


 体が反応した。だけど、死亡後に家族へ何ができるというのか……。


「うふふ。ちょ~と、私のお願いを聞いてくれれば、貢献度に応じてご家族に幸運を授けられますよ? それと、メールで良ければ、たま~にくらいであれば、連絡させてもあげられます。でもそうですね。最上位の貢献をしてくれれば、〈死亡しなかった時間軸〉に戻して、死亡しなかった人生を与えられます」


 いやらしい笑顔を向けて来る女性……。胡散臭いことこの上ない。

 そもそも、俺が死んだという確証がない。今、拉致られている可能性……。

 ないか。俺なんか拉致しても身代金も取れない。

 だけど、話は聞いておきたい。


「内容は?」


「異世界へ行ってください。ただし、とっても危険な生物がいる世界です。そこで、世界に貢献して貰えれば、対価としてご家族に色々と融通しますよ?」


 そう言って、女性は俺にスマホを渡して来た。

 俺が使っていたスマホだ。

 その画面を見て驚く。


「残高が一千万円?」

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