後に闘神と呼ばれる魔導闘士

信仙夜祭

第一章

第1話 プロローグ

 今日もアルバイトだ。

 土木建設業の肉体労働……。キツイがこの仕事くらいしか、俺には出来ない。

 なにせ、両手に怪我を負っており、細かな作業が出来ないからだ。指は器用に動かないが、重労働は出来るので今のバイトにありつけた。

 ただし、キツイだけあって賃金は良い。

 土木関係に使える細かな資格も取ったので、一応は引く手数多だ。バイトもしくは、派遣の仕事だけど……。


 俺の両手の怪我だと、トラックの運転や、フォークリフト操作は不安が残る。

 車の運転免許ですら敬遠して取っていないほどだ。

 少しだけ話すと、右手は、手首部分の複雑骨折を負った。

 字は書ける程度には回復したけど、刃物は危ないので左手で持つようにしている。

 左腕は、血行障害を患っており、肘と肩の初帯を伸ばしている。投げるような動作をしなければ日常生活は送れるけど、痛みは残っている状況だ。

 まあ、体格には恵まれた。180センチメートル以上あるので、一輪車を運んだりするのであれば、問題はない。

 もうこれ以上怪我を負うことは出来ないので、慎重に作業をこなしているけど、それでもそこそこの評価は得られた。

 後は、正社員になれれば言うことはないかな。

 まあ、期待せずに今日も日銭を稼ごう。





 仕事が終わり、日当を受け取る。


「また、明日も頼むよ」


 現場責任者が、バシバシと叩いて来た。

 評価は、そこそこ良いみたいだ。


「……はい。出来れば建設終了までお願いします」


 そう言って、現場を後にした。

 電車で自宅に戻る。シャワーを浴びて、夕食の準備だ。

 そうすると妹が帰って来た。

 妹は、高校二年生だ。近くの県立高校に通っている。


「おかえり……」


「ただいま……」


「今日は、バイトを入れているのか?」


「うん……。お兄ちゃんばかりに負担かけたくないしね。行って来るよ。夜勤の軽作業だから、仮眠してから行くね」


「そうか、すまないな」


「お互い様だよ……。協力し合わないとね」


「俺が、まともな会社に就職出来ていれば、また違ったのだけどな……」


「……うんん。あと二年は、がんばろう。そうすれば、私も就職出来るから。ブラック企業に就職して、深夜まで残業するよりは、今の方がありがたいよ」


 互いに笑顔はない。もう一年くらい笑っていないと思う。

 軽い会話をしながら、妹と夕食をとった。その後、妹は自分の部屋に入った。

 兄妹仲は、それほど悪くはないと思う。そう俺が思っているだけかもしれないが。

 そして、俺は着替えてから、戸締りをして、何時ものところに出かけた。





 病院に着いた。ここには、母親が入院している。

 何時もの病室に赴いた。

 カーテンを開ける。


「こんばんは。母さん。調子はどう?」


翔斗しょうと。ありがとう。大丈夫よ……」


「仕事で無理して体壊したのだから、ちゃんと休んでね」


愛美なるみはどうしてるの? 今日はバイト?」


「うん、今日はバイト。学校には行かせているので安心して」


「……そう。ごめんなさいね」


 母親が泣き出した。

 俺は、母親の背中をさすった。


「俺達も、もう働ける歳だから。大丈夫だよ。元気になったらさ、旅行でもしよう」





「ふぅ~」


 ため息が出た。今はとても苦しい生活を送っている。

 だけど、母親の入院費も馬鹿にならない。

 俺達兄妹のために無理をしたんだ。今度は俺が助ける番だ。

 俺に見捨てる選択肢はない。母親と妹のためになることをする。俺が養ってやるんだ。

 学生時代に迷惑をかけたんだ。

 今ぐらいは、その恩返しが出来ると思う。いや、しなければならない。


「体をほぐして、早めに寝よう……。いや、その前に愛美は、時間通りに起きているのかな?」


 そう呟いて、病院を後にした時だった。

 まぶしい光……多分、車のヘッドライトが、俺の視界を遮った。

 眩しさで目がくらみ、体が硬直する。

 俺は、そこで意識を失った。

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