後に闘神と呼ばれる魔導闘士
信仙夜祭
第一章
第1話 プロローグ
今日もアルバイトだ。
土木建設業の肉体労働……。キツイがこの仕事くらいしか、俺には出来ない。
なにせ、両手に怪我を負っており、細かな作業が出来ないからだ。指は器用に動かないが、重労働は出来るので今のバイトにありつけた。
ただし、キツイだけあって賃金は良い。
土木関係に使える細かな資格も取ったので、一応は引く手数多だ。バイトもしくは、派遣の仕事だけど……。
俺の両手の怪我だと、トラックの運転や、フォークリフト操作は不安が残る。
車の運転免許ですら敬遠して取っていないほどだ。
少しだけ話すと、右手は、手首部分の複雑骨折を負った。
字は書ける程度には回復したけど、刃物は危ないので左手で持つようにしている。
左腕は、血行障害を患っており、肘と肩の初帯を伸ばしている。投げるような動作をしなければ日常生活は送れるけど、痛みは残っている状況だ。
まあ、体格には恵まれた。180センチメートル以上あるので、一輪車を運んだりするのであれば、問題はない。
もうこれ以上怪我を負うことは出来ないので、慎重に作業をこなしているけど、それでもそこそこの評価は得られた。
後は、正社員になれれば言うことはないかな。
まあ、期待せずに今日も日銭を稼ごう。
◇
仕事が終わり、日当を受け取る。
「また、明日も頼むよ」
現場責任者が、バシバシと叩いて来た。
評価は、そこそこ良いみたいだ。
「……はい。出来れば建設終了までお願いします」
そう言って、現場を後にした。
電車で自宅に戻る。シャワーを浴びて、夕食の準備だ。
そうすると妹が帰って来た。
妹は、高校二年生だ。近くの県立高校に通っている。
「おかえり……」
「ただいま……」
「今日は、バイトを入れているのか?」
「うん……。お兄ちゃんばかりに負担かけたくないしね。行って来るよ。夜勤の軽作業だから、仮眠してから行くね」
「そうか、すまないな」
「お互い様だよ……。協力し合わないとね」
「俺が、まともな会社に就職出来ていれば、また違ったのだけどな……」
「……うんん。あと二年は、がんばろう。そうすれば、私も就職出来るから。ブラック企業に就職して、深夜まで残業するよりは、今の方がありがたいよ」
互いに笑顔はない。もう一年くらい笑っていないと思う。
軽い会話をしながら、妹と夕食をとった。その後、妹は自分の部屋に入った。
兄妹仲は、それほど悪くはないと思う。そう俺が思っているだけかもしれないが。
そして、俺は着替えてから、戸締りをして、何時ものところに出かけた。
◇
病院に着いた。ここには、母親が入院している。
何時もの病室に赴いた。
カーテンを開ける。
「こんばんは。母さん。調子はどう?」
「
「仕事で無理して体壊したのだから、ちゃんと休んでね」
「
「うん、今日はバイト。学校には行かせているので安心して」
「……そう。ごめんなさいね」
母親が泣き出した。
俺は、母親の背中をさすった。
「俺達も、もう働ける歳だから。大丈夫だよ。元気になったらさ、旅行でもしよう」
◇
「ふぅ~」
ため息が出た。今はとても苦しい生活を送っている。
だけど、母親の入院費も馬鹿にならない。
俺達兄妹のために無理をしたんだ。今度は俺が助ける番だ。
俺に見捨てる選択肢はない。母親と妹のためになることをする。俺が養ってやるんだ。
学生時代に迷惑をかけたんだ。
今ぐらいは、その恩返しが出来ると思う。いや、しなければならない。
「体をほぐして、早めに寝よう……。いや、その前に愛美は、時間通りに起きているのかな?」
そう呟いて、病院を後にした時だった。
まぶしい光……多分、車のヘッドライトが、俺の視界を遮った。
眩しさで目がくらみ、体が硬直する。
俺は、そこで意識を失った。
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