(三)-4

 僕は思わず大声を上げた。次の瞬間、人影が持つ刃渡りは三〇センチはあろうかという大きな軍用ナイフが、僕に振り下ろされてきた。

 僕は横へ転がって避けようと思った。しかし避けると、下にいる妹に当たる。瞬時にそう判断して、手で相手の腕を受け流そうとした。

 その間はわずか一秒にもみたない程の刹那の時間であった。瞬間的な判断ではあったものの、振り下ろされたナイフを止めるには時間が長すぎた。ナイフは僕の左肩に突き刺さった。

 すんでの所で体をよじることができたため、僕の心臓をめがけていたナイフの切っ先は肩から僕の体の中に入った。

 僕はとっさに「早く逃げろ」と大声を上げた。驚いて腰を抜かしているのか、妹は動くことができないでいた。

「早く! 急げ!」

 僕はもう一度叫び、体を転がして妹の上からどいた。そのときに人影が持っていたナイフが抜けた。妹は何とか立ち上がり、振り返って走り出した。


(続く)

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