break time. Yuno 1

 郊外に建つ築数十年の一軒家、それが優乃の家だ。急な階段や壁のシミを除けば、居心地はそこそこ良い。だが、心理的にどうかと問われると返答に困る。

 家は、嫌いじゃない。

 でも、優乃は家を好きと言い切ることはできなかった。


 優乃が中学一年生の頃、初めて彼氏という存在を口にしたとき、父:幸彦ゆきひこは眉間にシワを寄せた。彼氏にかまけて勉強をおろそかにするんじゃないよ、と早口で言って、誤魔化すように味噌汁を吸い込んだ。祖父:芳雄よしおは何も言わずに居心地悪そうに和え物を口に運んだ。「優乃ちゃんはそんなことないもんね」と優乃の味方をしたのは、祖母:三枝子みえこだった。

 それが、数ヶ月ごとに付き合ったり別れたりを繰り返すようになると事情が変わってきた。優乃に悪気はなかった。素敵な恋を期待して告白を受け入れるものの、まるで面白くなくて別れる、また告白を受け入れて――そのループだった。誰も何も言わなかったが、その行為を良く思っていないのは明らかだった。

 ようやく幸彦が「いい加減に男漁りは止めなさい」と指摘したのは、優乃が中学三年の梅雨だった。「男漁りだなんて……人聞きの悪い……」という三枝子の言葉が、幸彦に向けられたものか、優乃に向けられたものか、判らないまま耳にこびり付いた。

「私、に似てるもんね」

 諦めたように、優乃は一人で静かに呟くようになっていた。

 芳雄も三枝子も、優乃を可愛がってくれる。しかし、優乃の母親を良く思っていない――それどころか、社会人になって間もない幸彦を誑かし、子どもを置いて出て行った女として憎んでいる節もあるのではないかと優乃は思っている。


 ちょうど高校受験に差し掛かっていたのもあり、そのとき付き合っていた彼氏と別れたのを最後に優乃はを止めたのだった。

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The center of …… 夏野彩葉 @natsuiro-story

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