第13話

 ニッコリ満面の笑顔で教官の霧虹が告げた言葉に、教室中が騒然となったのは当然だったろう。

 ただでさえ現在の世界では『覚醒者アーカス』に成れたならば勝ち組だ。

 そのうえ瞳の周りに『紋章』が出たとなればおして知るべし。

 だからこそ『S組』になったという自負があるというのに、教官の言葉ではこのクラス以外と組まされるのは確定だろう。

 それがまさか卒業まで継続されてしまうのではないかと不安になったのだ。

 同じ『S組』ならば納得もしよう。

 だが初めて組む相手がよもや――――勢いよく真っ先に手を挙げたのは、目にも鮮やかな緋色の少女。


「あり得ない! クラスメイトでもトップクラスなら分かりますが!! 何処の馬の骨か分からない輩とだなんて!!! 足を引っ張られるのは承服できません!!!!」


 半ば叫ぶ様な拒絶。

 本来なら耳を塞ぐ者も多かっただろうが、瑠華以外は強い眼差しで緋色の少女に同意するのが誰の目にも明らか。

 瑠華は自分の『系統』を知っていたからこそ、何故皆が反発しているのかが分からない。

 彼女の『系統』は己の『階位』以下の攻撃力しかもたないのだ。

 この『系統』は最も非力で、単独になれば即座に命が危なかった。

 しかも敵に知恵があれば真っ先に狙われる。

 だが居なければ攻略難易度が跳ね上がるのだから、他者が居るからこそ生きる『系統』だった。

 瑠華と同じ『系統』は自分より下の『階位』と組む事も間々あるのを知っていたのもある。

 他の『系統』の『階位』が上で、彼女の『系統』が下の『階位』というのもまた多いのも事実。

 瑠華の知る限り、全て高水準で優秀な彼女と『同系統』は貴重なのだから引っ張りだこなのだ。

 そうでなくてもどの『系統』も他の『階位』と組む事に慣れるのは絶対に必要。

 様々な『階位』混成部隊もザラなのだから。

 そう説明しようかと瑠華が思い手を挙げようとした時、複数の視線が彼女に絡み付いたのを感じて大いに困惑。


 隙間を狙ったかの様に教官の霧虹が教室内を睥睨した。


「これは決定事項です。自らより下の相手と組む訓練と思って下さい。最初の演習で何故このクラスが他のクラスと組むのかも良く考えましょう。常に考える癖をつけて下さいね。今回の『組』は最初の演習のみとなっています。訓練場でも改めて言いますが、演習とはいえ危険は伴いますからね。しっかり『組』で演習まで訓練しましょう」


 そこまで言ってから、霧虹はチラリと腕にある時計代わりの『超越者トランセンダー』専用バングル を確認する。


「時間ですからサクサクと訓練場まで移動して下さいね」


 教官の霧虹が笑顔付きで告げると、教室中が喧騒に包まれた。

 瑠華も移動しようと、昨日AIの"ステラ"に習った通り脳内で呼び出す。


〈お呼びですか、マスター〉


 やはり脳内で女性に聞こえる"ステラ"の声がした。

 覚えたてではあるけれど、やはり頭の中で言葉を伝える。


(1学年共通の訓練場まで案内してもらえますか?)


 即座に目の前に立体的な構内地図が表示される。


〈了解しました。音声でも案内致します〉


 地図に矢印が点滅しながら表示されたのを期に、音声に促されて瑠華は教室から一歩踏み出した。


 立体的な地図は瑠華にしか見えてはいない為、迷いなく歩き出した様に見える、一番初めに動き出した彼女の後を追って複数が続き、最後尾を紫苑が見えないはずの瑠華を暗く澱んだ眼差しで見つめながら歩いている事に、集中しているのも影響しているだろうがやはり彼女は気がつかない。



 どうやら最短距離を示してくれているらしく、指示通りに転送装置を使って移動したのだが……

 訓練場に設置されている転送装置へと瑠華には慣れた浮遊感と共に到着し、既にかなりの人数が集まり始めている中、目立たぬように後ろの壁際に待機していると、まるで慌てて後を追ってきたかのように多数の『S組』が登場して目を瞬かせていた。


 何故か『S組』の皆が皆、瑠華の周辺へと集合してしまい、他のクラスは戦々恐々として落ち着かなさそうにしている。

 瑠華としては身内の凱の元にでも言った方が良いかと考えていた時、彼女に明確に近付いて来た存在に首を傾げた。


「……憶えてる……?」


 恐る恐る瑠華へと声をかけたのは――――長い髪を高い所で結んだポニーテールにしている、顔立ちは中性的でボーイッシュだけれど穏健な印象の美少女。

 身長は瑠華より少し高く、女子の平均前後と言ったところ。

 不安そうに見つめる瞳は揺れてはいても揺るがぬ意志を感じさせる。

 ……髪の色と瞳の色は違っても、確かに見知った面影に瑠華は微笑んだ。


「勿論。名前を訊いても良い……?」


 瑠華の言葉に彼女は満面の笑みを浮かべて名乗りを上げる。


「椿。赤禰あかね 椿つばき。椿って呼んでくれると嬉しい」


 それに答えるべく瑠華も口を開いた。

 心を躍らせながら。


「瑠華。如月きさらぎ 瑠華るか瑠華と」


 お互いに再びの自己紹介を済ませた直後、この学年を取りまとめる役目もおわされた教官の霧虹の声が響き渡った。


「はい、注目! 今はバラバラでも構いませんが、名前を呼ばれたらこちらに『組』ごと整列してくださいね。それと三々五々に散らばるのではなく、これ以降は集合と言われたらきちんと整列して待っていて下さい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る