第12話

「さて『能力』については後日に回し、二つ目の話に戻ります。ご存知の通り『超越者トランセンダー』にとって強さ、能力が絶対の基準です。自らより上位の『位階』には気をつけましょう。各々の性格次第ですが、気に障ったら何をされるか分かりません。生き残りたかったら最善の注意を払いすぎる位が安全です。自分より上位には攻撃の一切が無力化するのが『超越者トランセンダー』ですからね。間違えてはいけないのは『怪物モンスター』はその限りではないという事です。自らより下位の『怪物モンスター』でも油断したら怪我ばかりか死にますから。しっかり脳みそに叩き込みましょう」


 瑠華や紫苑を始め、実戦経験者ならば周知の事実ではあったが、やはり『覚醒者アーカス』の皆は知らなかったらしい。

 表情が見事に固まる。

 自分達が『覚醒者アーカス』の中でも才能在りとされた自覚は、既に『超越者トランセンダー』となっていた者以外は皆が持ってはいた。

 いたけれど、まだ『超越者トランセンダー』となってはいないからこその不安は尽きない。

 実際の『位階』がどうしようもなく低かったら……という悪夢を見るのは、『覚醒者アーカス』の少年少女によくある事だ。

『S組』になった者が低い『位階』になったという話は聞かない。

 けれど、もし自分がその最初の一人になったのならばという事は、考えないようにすればするほど頭に浮かぶものだ。


覚醒者アーカス』の一人が手を挙げた。

 紫苑の前に遅れて入室した、瑠華にとって胸が詰まるほど懐かしい面影のある少年だ。


「今挙手した廊下側一番後ろ。どうぞ」


 やはり霧虹は名前では呼ばない。

 その事に少年は苦笑した後、意思の強さを感じさせる赤紫の瞳を真面目なものに変えて口を開く。


「ゲームみたいに『モンスター』を倒したらレベルアップってしないんですか?」


 少年の問いにクラスの大半は目を輝かせて教官の返答を待っているのを感じながら、霧虹は薄い笑みを浮かべながら話し出した。


「ゲームの様にというのはありません。能力や技は訓練をすればするほど磨かれますし、習熟すればするほど威力と精度は上がります。各々の上限までは強くなれるでしょう。ですが『超越者トランセンダー』になった時の『位階』以上にはなれません。とはいえ正しく鍛えればきちんと能力は答えてくれます。それは通常の人間と変わりません。己の限界までは強くなれます。『位階』が低いからといって腐って修練しなければあっさり『怪物モンスター』に殺されますよ。『怪物モンスター』は自分より強くても斃せますし、先ほども言った通り自分より弱くても殺されます。一瞬の油断が命取りですよ。『超越者トランセンダー』の最も重要な任務は『怪物モンスター』の駆除ですから」


 クラス中の雰囲気が様々な理由から心配そうな色に染まる中、霧虹は空気を切り替える様に一拍手を叩いてからまた話し出した。


「では最後の三つ目の説明をします。これは心に刻み込みましょう。『超越者トランセンダー』がダンジョンを攻略する際やモンスターを斃す時、単独でどうにかなるのは本当に極々々一部です。最高位の『位階』に属していてもそれは変わりません。単独撃破は夢のまた夢と心得ましょう。単独でどうにかしたいという自殺志願者であれば一人でご勝手に。身勝手に誰かを巻き込んだ場合は恐ろしい報復がありますからね。というのも『超越者トランセンダー』の『系統』は大まかに分けて3つに分けられるからです。『攻撃型』『防御型』と『支援型』。更に細かく『系統』は分けられますが、通常これ等がそれぞれを補助し合いながら攻略、というのが『超越者トランセンダー』の戦い方ですね。それぞれの『系統』には得手不得手があります。ですから己が突出した『攻撃型』だからといって驕り、『防御型』『支援型』を馬鹿にし蔑むのは自殺行為以外の何者でもありません。『迷宮ダンジョン』の難易度が高ければ高い程、『怪物モンスター』のランクが高ければ高い程、各々の『系統』トップクラス同士で組んで事に当たらなければならない場面は多くなります。ですから大切なのは、相手の『系統』を決して馬鹿にせず尊重するという事。これができないと普通に死にます。それはもうあっさりと。『攻撃型』『防御型』に比べて『支援型』は貴重ですからね。優秀な『支援型』にそっぽを向かれたらお仕舞です。とはいえ鍛錬を怠った『支援型』ほど害悪はいません。驕った『支援型』が制裁されるというのもですね。皆命がかかってますから。相手への信頼と尊敬と思いやり無しには『迷宮ダンジョン』にも『怪物モンスター』も太刀打ちできません。本当に心の奥深くまでガッツリ刻み込んで下さい」


 そこで一旦言葉を切った霧虹は、クラスの大半が余計に不安そうになるのを見て取ったというのに、更に爆弾を放り込んだ。


「それを実戦で憶えこんで頂こうと思いますので、一学年全員をシャッフルして『組』を作りました。これから一学年共通屋内訓練場で顔合わせをします。詳しい話は訓練場で。自らより下の『位階』であり別の『系統』と組んだとしても侮蔑はいけません。という訳で、我々教官と皆さんの自己紹介は明日になります。ご了承下さい」

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