第6話
そんな瑠華を引き連れて、白鴉は優し気な笑みのまま愉しそうに彼女の部屋へと案内する気であるらしい。
瑠華もため息一つで受け入れてしまうのだから、彼女は困った人物に免疫がありすぎたと言えるだろう。
寮内の一階は外観同様の瀟洒な内装で統一されていた。
実は通常の建材ではなく『
自分の能力が如何に凄まじい事なのかも分かってはいない瑠華は、『
「一階には寮の管理人が常駐しています。入ってすぐに部屋がありますが、彼女は主に同じ一階にある医務室に居ますから、困ったら頼って下さいね。彼女は優秀ですから。管理人室には他の者が主でいますよ。他にも寮の護衛が常駐している部屋がありますね。優秀な者が多いので安心してください。後は天然温泉の大浴場と露天風呂、軽食も楽しめる談話室がありますよ」
一気に言い終えると同時に五階へと到着する。
その事にも目を白黒させている瑠華を愉しそうに案内する白鴉。
彼女が驚いていたのは、一階よりもこの最上階らしい五階の建材が希少であり、尚且つかなり上位の『
瑠華に視えた範囲では、外部からの攻撃に備えた防御に加えて、内部からの攻撃にも対応してあるのが確認できた。
もっと良く視れば更に詳しく分かるだろうが、目立たない様に言われているのだからと、根が律儀な彼女はそれ以上は接続を意識的に遮断した。
仲間の安全を考慮し、内と外への大体の強度は理解出来たからこそ、安全マージンを判断して納得したのもそれ以上は視なかった理由だ。
コレが分かる時点でさえ、瑠華の能力が稀有なのだとある程度の知識があればバレてしまう。
――――彼女はまったくソレが分かってはいない。
偏に周りが異常過ぎたのだ。
彼女の常識はこの常人ではない者ばかりが集められた『曙
彼女が『
「ここが瑠華君の部屋です」
白鴉は一番立派に見える扉を軽い調子で開け、何の躊躇もなく進む。
それを追いながら部屋内へと瑠華も足を進めたのだが、扉の内側に更に通路があり、また扉が現れる。
マンションの様な建物に住んだことのない彼女は、これが普通なのだろうかとテレビで見た知識と比べて首を傾げていた。
「あ、ここからは靴を脱いでくださいね」
白鴉はそう言いながら二つ目の扉を開けつつ動かない。
後を追っている瑠華の驚きも余すところなく愉しんでいる事に、やはり彼女は気が付いてはいかなった。
それが幸か不幸かは分からないが……
「さて、これ以上の侵入は止めておきます。今日のこれからの予定や明日の予定はコレに届けられますから、肌身離さず身に着けて下さいね」
そう言いながら、どこから取り出したのかは不明の、白鴉の掌には不思議とエルフが細工でもしたかのような意匠のブレスレットが乗っている。
中央に瑠華の瞳を思わせる極上な透明感のある瑠璃色の宝石。
それ以外は美しい銀色。
通常のシルバーやプラチナではないことは瑠華にも明白だった。
(……これは……神聖銀……!?)
彼女が瞠目しているのを愉しそうに見詰める白鴉も、この代物のとんでもない貴重さを知っていた。
現在、瑠華が過去に一度だけ入手した以外にはまったく現出していないのだ。
その効果を知っているのは極々一部。
漏らさないように細心の注意を払われていたモノ。
入手先が特別。
加工した相手も特別。
更に瑠華専用に調整した特別品なのだ。
「嵌めれば使い方はそのブレスレットが教えてくれますから。……では瑠華君、また」
強引に彼女の手にブレスレットを置くと、白鴉は颯爽と行ってしまう。
扉が閉まるのを呆然と見詰めながら、瑠華はため息一つを吐いて部屋を先ずは確認する事にした。
(白鴉さんは相変わらずのいつも通りでホッとする。してはいけない気もするのはこの際考えない。それにしても……荷物の持ち込みは一切禁止。飛行機内で着替える様に言われたけれど……)
現在の彼女は、飛行機内で言われた通りに着させられた、シンプルだが素材の良さが光る白のワンピース姿だ。
一緒に着せ替えられた同色のミュールを脱いで、室内へと瑠華は恐る恐る入ってみた。
(ええと……ここに五年間一人で住むのよね……?)
優秀であれば三年で卒業だと聞いていた彼女だが、やはり他と比べた事が皆無の為に普通に五年間だと思っている。
(マンションに……階段が……ある。見間違いではなく確実に。確かドラマで見たマンションに階段は……在った、記憶もある。……アパート……? との違い、なのかな。……常識に疎すぎるのよね、私。普通が分からない。……なんだか怖いから最後に回ろう)
うんうんと一人で首を傾げたり肯きながらも答えを出した瑠華は、部屋の探検を開始した。
……そして、頭を抱える事になる。
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