382話 休暇

ある朝メイが食堂へ向かっていると、辺境伯が荷造りをしていた。

「何してるんです?」

「実は数日暇を出されてね。学園都市に行こうかと思ってね。」

「手が足りなかったのでは?」

「魔王が来た時私はボコボコにやられてただろ?回復術があるとは言え、体力は落ちてしまうものだからね。それを殿下に見咎められて怒られてしまったんだ。」

「そうなんですか。なら私も準備しないといけないですね。カバン1つ分しか荷物無いですけど。」

「女性は荷物が多いと聞いたんだが、どうしてそんなに少ないんだい?」

「元々すぐに帰る予定でしたから、最低限の物しか持ってきていないんですよ。」

「なるほど、そういえば用件も言わずに呼び出したんだったね。」

「そうですよ。結構困るんですから。」

「次から気をつけるよ。よし、準備できたし、行こうか。」


数人の使用人を引き連れて馬車ごと転移ゲートで学園都市の近くに転移する。

「何度見てもすごいねこれは。」

「魔法陣の読み方さえ理解出来ればそこまで難しくはありませんよ。いくつもの魔法陣を重ね合わせているだけなんですから。」

「私には真似出来ないね。」

「出来ないことは出来る人に任せれば良いんですよ。私が小難しいことを丸投げしてるみたいに。」

「ハハハ、君の場合はめんどうだと思っているだけじゃないか。」

「そうとも言いますね。人の心を読むのは気持ち悪くなりますから。」

「人の心を読むなんて聞きようによってはかなり便利な魔法だけど、良いことばかりじゃないんだろう?」

「そうですね。気をつけないと自我が崩壊する可能性もありますから、どれくらいの深度まで読むのか見極めをきちんとしなければなりません。」

「やっぱり私には真似出来そうではないね。そんな事よりも忘れていないだろうね。どちらがカレンちゃんを喜ばせることができるのかという勝負を!」

「負けるのが怖くて忘れているフリをしているのかと思いましたよ。」

「言ってくれるじゃないか。滾ってきたね!」

「はしゃぎすぎです。屋敷までもう少しなんですから我慢してください。」

「それもそうだね。ここで元気を使うのはもったいないね。」

「負けた方はどうします?」

「勝負なんだし罰ゲームは必要だよね。」

「私が開発した激苦栄養ドリンクでも飲みますか?」

「なんて物を開発しているんだい…でも、面白そうじゃないか。」

いい歳をした大人が負けず嫌いを発揮しているという何とも大人気ない様子に何とも言えない雰囲気が漂っていた。

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