379話 はったり

「空間魔法…」

「後ろを見ている場合か?」

「クッ!」

魔王が剣を横薙ぎに振るうのを見て伏せる。

メイの背後で空間が裂かれ真空状態になった影響で空気圧による鎌鼬かまいたちがメイの肌に細かなキズを作っていった。


真空状態により発生した風が収まった後、メイは全身のバネを使って地面を這うように移動し、魔王の懐に入ろうとする。

「ちょかまかと!」

「魔法の使い方がなっていませんね。」

「黙れ!」

メイの挑発に魔王は剣の扱いが荒くなった。

その隙を見逃さず、メイは魔王の懐に入り込んだ。

メイは密着した状態でも剣を振れるように自身の剣を逆手に持ち、攻撃を当てる。

「グッ!貴様!」

「«次元切断ワールドスラッシュ»は無限の距離を斬る事ができます。それならその内側に入ってしまえばどうでしょうか?」

「調子に乗るなぁ!!」

魔王は魔力を爆発させその勢いでメイを吹き飛ばした。

メイが苦労して付けたキズを簡単に再生させながら、名案を思い付いたという風に話し出した。

「ああそうだ。避けるなら避けられないようにすればいいではないか。貴様、護衛と言っていたな。それなら主人が死ねば困るのではないか?」

メイは城に射線が通らないように街に背を向けていたのだが、魔王はメイから視線を外し、城に向き直った。

「貴様が俺を殺すのと、俺が貴様の主人を殺すのはどちらが早いだろうな。」

「めんどうな事を!」

メイは魔法を使っていない事に気付いていた魔王はメイに防ぐ手段が無いということ理解していた。

もし、奥の手を隠していたとしてもここで切らせる事で無駄撃ちさせようとしていたのだった。

「空間魔法«次元切断ワールドスラッシュ»」

魔法の発動を止められないと理解したメイは魔法を防ぐために城と魔王との間に割って入った。


「ハハハ!すべてを切り裂く魔法に防ぐ手段など無いというのに、バカなヤツだ!見捨てれば生き残れたのにな。」

城には大きな縦線がはいっており、建物のバランスが崩れた事でガレキなどが落ちて煙が立ち込めていた。

その煙の中で動いている影が1つ。

「まさか…」

「防いでやりましたよ。」

「そんなバカな!どうやって…」

「魔法陣を書き換えただけですよ。」

「なに?そんな事できるはずが!」

「それが出来ているから私は生きているのですよ。」

「……」

「魔王様、お時間です。」

魔王がメイの言葉が本当かどうか沈黙しながら考えていると、先頭に参加せず、ずっと空に浮かんでいた魔族がそう言った。

「もうそんな時間か。この続きは次回のお楽しみだ。首を洗って待っていろ。」

「私が逃がすとでも?」

「逃がすさ。ほら」

そう言うと魔王は魔法を撃ち、バランスを崩している建物を破壊した。

「あの中にはたくさんの人間がいるだろうなぁ。助けなくていいのか?」

「…」

メイは魔王を一瞥すると建物の方へ走っていった。



メイ達は迅速な対応で建物が倒壊する前に避難を無事に終える事ができた。

「メイ君、君がいてくれたおかげで私たちはケガだけですんだよ。それにしても魔法陣を書き換えたって言っていたけど、そんな事ができるのかい?」

「そんな事は無理ですよ。手品の種はコレです。」

メイは壊れた魔道具を取り出した。

「これは結界の魔道具じゃないか。」

「これは辺境伯様に渡した魔道具とは違い、«亜空間結界ワールドボーダー»を発動できるんです。これであの一撃を受け止めたんですよ。でも、空間魔法を防ぐ事は想定していなかったので、一撃で壊れてしまいました。」

「なるほど、だから嘘をついたのか。相手を警戒させるために。」

「はい、正直言って早く帰って欲しかったですね。魔王はまだ本気を出していませんでした。私が万全の状態でも勝てるか分からない相手がいるとは思ってもみませんでした。」

「そんなに強かったのか。まあ、今はゆっくり休むといい。」

後処理は他の人に任せて辺境伯は今回の大功労者を労うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る