120話 絶望の瞬間

クレソン視点

「試験始める。かかってこい。」

その号令に合わせて師匠が消えた。

本当に消えた訳じゃない、目に見えない速度で試験官の背後に回ったんだ。

俺なら何かする前に師匠の剣で肩を叩かれて終わっていただろう。

だが、あの試験官は背後に回った師匠の動きを予測していたかのように振り向きその剣を回避した。

俺の攻撃はほとんど受け止めていた試験官が飛び退いて回避したということは受け止めていはいけないと判断したということだろう。


二人は切り結んでいたが、その腕はブレて見えなかった。

金属がぶつかり合う甲高い音が聞こえる。

ときおり、剣に反射する光が見えただけだった。

いやマジで、なんなのあの二人、俺と同じ人間だと思えないんだけど。


切り結んでいた二人は突然飛び退き、剣を下ろした。

試験官は息を切らしていたが、師匠は呼吸の乱れが一切無かった。

化け物すぎだろ。

息を整えた試験官に試験終了を言われ、師匠は舞台を降りてきた。


「師匠!アンタやっぱ強えな!しかも師匠と渡り合えるやつがいたなんてこの学校すごいな。」

「ええ、そうですね。この学校は色々と楽しそうです。」

そう言って笑った師匠の笑顔で何故か背筋が凍りそうになったのは秘密だ。



メイ視点

「メイ!どうだった?私は手応えあったわ。」

「それは良かったですね。私も手応えありましたよ。」

「私はやっぱりダメだったよ。」

「俺もダメな気がする。そうだ、兄貴はこっちに来てるのか?」

「カイトのことですよね?カイトは来てますよ。」

「お、今度遊びに行こうっと。」

ダメだったかもしれないと言っていたが、クレソンは終わったことだと割り切ったようだ。

「あら、歓迎するわよ。アリュールもどう?」

「わ、私も?お邪魔じゃないかな?」

「邪魔なんかじゃないわ。家にお客様を邪険にする礼儀知らずはいないから。」

「それならお邪魔しようかな。」

「そう言えば俺、カレン様の家知らねえわ。どうしよう?」

「日付を決めてくれれば迎えに行くわよ。」

「じゃあ、明日は…無理だから、明後日の昼からはどうだ?」

「アリュールもそれでいい?」

「うん、私は用事ないから。」

「それじゃあ、…そうね、学園の門の前で待ってて。東門だからね。」

「おっと、言われなかったら西門に行くところだったぜ。」

「まぁ、そういうことだからまたね。」

「ああ、そうだクレソン。私はあんな戦い方を教えた覚えはないのですが、その理由もその時に教えてもらいますね。ではまた。」

「え、ちょっと師匠!?待って!?あー俺死ぬかも。」

楽しみだったことが一転して絶望しか感じなくなったクレソンだった。

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