第4話

 四天王、それは強い力を持つ魔王の幹部だということになっているが、怒涛のストーリー展開で、俺たちはなんなく突破した。


 今、間の前には巨大な扉があった。


「いよいよ最終局面ですね……」

「ああ、そうだな。まさかここまで順調に進むとは思ってもいなかったが」

「私のレベルは13! 勝てますね!」


 と言いつつ毎回死闘を繰り広げてきたのだが。

 冒険者のレベルは10が最大のはずだが、最後の四天王戦でまじで殺されかけそうになった際にスキルを使ったら、11回目で限界突破したのだ。なかなかご都合主義を重ねても勝てなかっただけあって、かなり強かった。


「はあああ!!」


 バゴン!!


 彼女は扉を蹴破った。

 普通に開けたらいいだろう。


「じゃあ頑張れよ」

「結局最後まで戦わないんですね。ちょっとくらいかっこいいところ見せてくれないものかと、期待しましたが」

「俺にそんな力はない。余波に巻き込まれたら死ぬしな」

「あの……私を拾ってくれてありがとうございました」

「なんだいきなり塩らしいこと言いやがって」

「も、ももも、もし、魔王討伐できて、国王から表彰されれば、その時は……」


「ククク……遅かったなあ」


 言葉を遮るように、魔王が高らかに声を上げた。


「言っておくが、俺は四天王とは、格が違うぞ」

「そういや、他の奴らもそう言ってたな」

「ですね。多分雑魚ですよこの魔王。豆鉄砲くらいました」


 ダン!!


「はああ!!」


 キンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!!


「くくく、ぬるい、ぬるいぞー!! おらああ!!」


 ブン!!


 条件を満たしました。


 当然発動だ。


「いったああ!!」


 彼女が腹を押さえて、しゃがんだ。空をきる魔王の薙ぎ払い。


「く……こんな時にくるなんて!」

「女の子の日かああああ!! だが次は避けられまい!」


 攻撃を受ける前に条件が満たされるとは、この魔王、ほんとに格が違うようだな。


 ガキン!


「何!? 我の打突をうけながすだと!」


 キンキンキンキンキンキンキン!!


「く……さっきとは動きが違う!」


 キンキンキンキンキンキンキン!!


「魔王め、口ほどにもないな! お前を倒したら、私は結婚するんだ!」

「ククク、ばかめ。それは死亡フラグというのだよ! 我、最強の奥義、魔王弾でしばいてやるわ!」


 条件を満たしました。


 もちろん発動だ。


 ドカン!


「な、なに!? わしが術式構築に失敗するじゃと!?」

「腕が使えなければもう攻撃を受ける手段はあるまい! もらったぞ魔王!」


 ざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅ!!!


「はああああ!! ――な、なに!?」

「ククク、魔王が魔王たるゆえんを教えてやろう……!」


 ピッカーン。


「第二形態!?」

「くははは!」

「笑い方まで変わっただと?!」


 そこはどうでもいいと思うが。


「この姿を見せるのは初めてだ。この一撃で、葬ってやろう」


 ドラゴンの様相の魔王の口。

 そこに魔力が溜まっていく。前貯め段階で可視できるほどの魔力量……下手すればこの世界滅ぶんじゃないか?


 条件を満たしました。


 これがどう助かるというのだ。わからんがとりあえず発動だ。


 バキバキバキバキ!!


「な、なにいいいい!?」


 魔王の足元が崩れた。


「ははは! やっぱり私の作戦通り! そんな馬鹿でかい体を、この城が支えられるわけないだろう!」


彼女が叫ぶが、当然そんなことを考える頭などない。ここでとっさに自分の格をあげるハッタリを言えただけ、他よりマシかもしれないが。


「ぐはああ!!」


 魔王の口の中で、強大な魔力が炸裂した。


 下を覗くと、首の消滅した魔王が横たわっているのが見えた。


「勝ったああ! 一回もピンチにならずに!」

「むしろよかったな。強さが飛び抜けてて……」


 ピュン!!


「あぶな!」


 魔王の体から飛び出てきた弾丸。俺は咄嗟に庇ってしまった。胸から滲み出る夥しいほどの血。


「え……これ……ち……?」

「かはっ!!」


 くそ……いてええ。なんでこいつなんか守っちまったんだよ。条件が満たされるまで待ってればよかっただろうが。


 景色が霞んできた。俺を呼ぶ声がどんどん遠くなる。


『楽しいお遊戯だったぞ。あれだけ嫌悪していた女に、庇うようになる程惚れ込んでいたとはな』


 うるせえ。


『お前、元の世界に帰りたかったのではないのか?』


 当たり前だ。俺は帰る。


『この女の気持ちを踏み躙るのか?』


 ……俺の知ったことでは、


『その言い淀みが答えであろう?』


 ああ、不思議だな。元の世界に戻れるのに、嬉しいどころか寂しさすら感じる。どうやら俺にとってこの世界は居心地のいいものだったらしい。


『素直になれ、お前はあの女が好きなのだよ。世界ではない』


 ……。


「……さん! ……さん!」


 意識が覚醒した。手を握られているが、もう感覚がない。


「しんじゃ……やだ……いつもみたいに、悪態ついてくださいよ。私を馬鹿にした目で罵ってくださいよ……」

「……お、れを……どういうふうに……見てたんだよ……」

「はっ……、……さん! ……さん!」

「よく……やったな……」


 俺は感覚のなくなってきた顔を緩めて、笑ってみせた。


「……さ……ん。そんな悲しい顔で……笑わないで……」


 水滴が、俺の顔に落ちる。


 条件を満たした。


 は? どういうことだ? なぜこのタイミングで……。


 だが、もちろん、一縷の望みがあるのであれば使う。


「うおおおおおおおお!!」

「うおおおお、きたあああ!!!」


 なんだ! 体が熱い! 感覚が戻ってきて、彼女の温もりが直に感じられた。


「傷が……治っている?」

「うわああ!! よがっだあ!! 結婚しましょう! 今すぐ結婚しましょう!」


 おい、どういうことだ。


『ほんの、ささやかな祝福だよ』


「結婚……か。俺でいいのか」

「あなたじゃないとダメです!!」

「ああ、そうだな。結婚しようか」


 ちゅっ。


『最後に一つだけ、望みを叶えてやる。元の世界に帰りたいか?』


 いいや。俺たちの安全で細々とした暮らしを保証してくれ。


『いいのかそれで? 今まで帰るために頑張ってきたのだろう?』


 なんだ、この世界に居残られるのが嫌なのか?


『そうではないが、良いのだな』


 ああ、頼む。


『のぞみは叶えた。よく働いてくれたな』


 ところでお前は誰だ。


『はあ!? 気づいてなかったのかよ! 魔王だよ魔王!』


 で、結局目的はなんだったんだ。


『か、軽いな。魔王に疲れちゃったから、倒されたことにして自由気ままなスローライフを送りたかったんだよ』


 なるほどな。お前も苦労しているのだな。


『くくく、お前から言われると、妙に背中がむずがゆいな。ありがとう』


 こちらこそ。あと、その笑い方、声と相まって、幼女が背伸びしているようにしか聞こえんぞ。やめておけ。


『な、何を!!』




「……さん。好きです」

「俺もだ」

「んっ、こ、こんなとこで……っ、あんっ」



 ********************


 完!!

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